ライバル都市が近代化する中、明治時代まで逆戻りして年間600万人の観光客を集めた埼玉県川越市
池袋から東武東上線を使って30分くらいのところに埼玉県川越市というちょっと変わった街があります。
人口35万人の川越市は30年ほど前までは全国によくある寂れた地方都市の一つでしたが、明治期の蔵造りの建物が数多く残る一角を整備することで、現在では年間650万人もの観光客が訪れる関東屈指の観光地へと変貌し、さらに人口も7万人近く増える事となったのです。
近年、日本を含む世界各国で競い合うようにして近代的な街づくりが進められている中で、時代の流れに逆行して一気に明治時代まで逆戻りした川越は、現在もっとも注目されている地方都市だと言えます。
近代的な街は時間が経てばあっという間に「時代遅れ」になってしまう一方、川越のような街は時間が経てばたつほど価値が上がるでしょうから、川越の都市整備のあり方は正しかったのでしょう。
街を整備するにあたって、明治期の建物に合わせて景観を損なう看板の掛け替え、電柱の地中化、そして道路を石畳にするなどの景観保護が行われたのですが、興味深いことに、このプロジェクトは川越の市民団体が行政を引っ張る形で実現したのです。
一般的に川越のような歴史のある街というのは、排他的でよそ者が入りづらい雰囲気があります。しかし、川越は江戸時代に商人の街として栄えていたこともあって、新しく入ってきた人に対して非常にオープンな気質があり、彼らを上手に巻き込みながら街を整備してきたのです。
地方都市の衰退が何かと話題になる最近では、いかにして定住者を増やすかという議論が盛んに行われているものの、地域の活力の指標となるのは人口の規模だけでなく、むしろ定期的に遊びに来てくれる「関係人口」の数が大きく影響することが分かっており、この関係人口という考え方は国の省庁でも注目され始めています。(1)
この先、日本の人口は確実に減少していき、それに伴って全国の自治体が少しずつ活力を失っていく中で、仮に人口が10人減少したとしても、地域に関わってくれる人の数が10人増えるのであれば、それは地域が衰退したことにはならないでしょう。
そういった意味では、関係人口と実際の人口のどちらも増加し続けているここ川越がこの先も人々を取り込みながら変化していくことは間違いありません。
参考資料
田中輝美、シーズ総合政策研究所「関係人口をつくるー定住でも交流でもないローカルイノベーション」(木楽舎、2017)P9
著者:高橋将人 2018/2/23 (執筆当時の情報に基づいています)
※本記事はライターの取材および見解に基づくものであり、ハウスコム社の立場、戦略、意見を代表するものではない場合があります。あらかじめご了承ください。