60店舗以上の家具屋が集まる学芸大学エリア「服や食の専門店街はあっても、家具の専門店街はない」
渋谷駅から東急東横線に乗って10分ぐらいのところに学芸大学駅という駅がありますが、この街に東京学芸大学があると思い込んでいる人は少なくないのではないでしょうか。
実はこのエリアには東京学芸大学はなく、現在の駅名が付いたのは同大学が1964年に東京都小金井市へ移転するまでこの地にキャンパスを構えていたことに由来するようです。
もう大学がないのにも関わらず、未だに学芸大学駅と名乗っているのは、駅名の変更には看板の取り替えなどコストがかかる上に、沿線住民からも長年親しんできた駅名を変更しないでほしいとの意見が多かったために、現在も「学芸大学駅」と名乗っていると言います。
このような興味深いエピソードが残る学芸大学駅ですが、学芸大学エリアは実は世界的にも珍しい家具の街なのです。
学芸大学エリアが家具の街になった秘密は駅から歩いて10分程度のところにある目黒通りにあります。
目黒通りを横浜方面に進んでいくと自由が丘などの高級住宅街が並んでいるため、この通りにはかつて外車ディーラーが多かったのだそうで、そうした背景があってこの通りは「日本一外車が通る道」と呼ばれていたこともありました。
そんな外車ディーラーが次第に学芸大学エリアから撤退していくと、車の販売店として使われていた広さのある空き店舗を活用して家具の店が入居し始め、かつて外車を買っていたような嗜好性の高い人たちに支えられて家具屋が徐々に増えてきたと言われています。
そうした背景があって、家具の専門店が密集する目黒通りはいつしか「目黒インテリア通り」と呼ばれるようになりました。
日本には数多くの専門店街があるものの、よく考えてみれば、服の専門店街や食の専門店街はよく耳にするのにも関わらず、学芸大学エリアのような家具の専門店街は全くと言って良いほど耳にしません。
これは言い換えると「衣・食・住」の中で、「住」に意識を持つ人がこれまでにほとんどいなかったことを意味すると言えるのではないでしょうか。
家具に関して面白いエピソードがあって、『なぜデンマーク人は初任給でイスを買うのか?』の著者でこれまでに数多くのデンマーク人にインタビューしてきた小澤良介さんによれば、デンマーク人は初任給で家具を買うことが多いのだそうです。
デンマークの若者が初任給でイスを買うのは、長期的な目線で考えると、空間に投資をすることがもっとも効率よく人生の質を高めることができるからだと言います。
それがどういうことかと言うと、服や食事は本人しか満たすことができませんが、大切な家族、友人、あるいは恋人と共有する室内に投資すれば、同じ金額で自分の周りの人まで満たすことができるため、家具はもっとも費用対効果の高い投資先という訳なのです。(1)
現在、学芸大学エリアには60店舗以上の家具店があると言われていますが、次第に質の高い家具を買うという価値観が広がっていくことで生活の質が大きく変化すると感じずにはいられません。
と言うのも、人は生まれてから死ぬまでの一生で、半分以上の時間を家の中で過ごすということが分かっており、それは幼児や高齢者だけでなく、働き盛りの20代から40代にも当てはまります。
そう考えれば、「衣」と「食」に偏っていたお金の使い道を「住」に振り分けるだけで、随分と生活に変化が起きるはずです。
【参考書籍】
(1)小澤 良介『なぜデンマーク人は初任給でイスを買うのか? 人生を好転させる「空間」の活かし方』(PHP研究所、2015)Kindle
著者:高橋将人 2018/6/15 (執筆当時の情報に基づいています)
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