城下町に広がる地域の輪「まちぐるみで挑戦を続ける佐倉市には好学進取の精神が根付いている」
日暮里から京成線で60分ほどの場所にある千葉県佐倉市は、江戸時代に佐倉城が築かれ、今でも明治時代の呉服屋が残っていたりと、通りを歩いているだけで歴史の息遣いを感じることのできる地域です。
2016年には「北総四都市江戸紀行・江戸を感じる北総の町並み」の1つとして「城下町佐倉」が日本遺産に認定されました。
この佐倉市で6月の初旬に行われている「にわのわ」と「まちのわ」という2つのイベントは、かつて商人や職人が城下に集まり住んだように、街の人々と千葉中の作り手が協力することで、20,000人を超える人が訪れるほどの賑わいを見せています。
▼ 千葉中の作り手が集まる”にわのわ”「しがらみのない土地だからこそ自由に創作できる」
佐倉城の跡地である佐倉城址公園では2013年から毎年「にわのわ アート&クラフトフェア・チバ」が開催されていて、6回目となる2018年のイベントでは、千葉にゆかりのある約140組の作家と飲食店が集まりました。
公募によって選ばれるクラフト作家は、もともと千葉県出身の人や千葉に移り住んだ人、千葉で制作活動を行なっている人など多くの方が千葉県に愛着を持っています。
フードの出店者も地元の人気店や千葉の食材を使ったお店などが中心で、千葉という土地のつながりを最大限に活かして開催されているのが「にわのわ」の大きな特徴です。
アート&クラフト部門で出展される工芸品は陶磁器、木工、ガラス、革製品、染物と様々で、普段は目にしない作り手の顔を見て手に取るクラフト品からはそれが作られる過程やその作品に込められた思いを直接感じることができます。
出展者の選出に当たっては、千葉にゆかりの作家というだけでなく、工房枠や夫婦・家族枠、選考委員による推薦作家枠などが設けられていて、幅広い出展形態の中でいつもとは一味違った買い物体験ができるはずです。
会場には作家さんの作った工芸品を手に取るだけでなく、自分でも実際に何かを作ってみるという体験をすることのできる仕掛けも施されています。
ワークショップテント〈もののわ〉は「ものを永く大切に使うための工夫から生まれる美しさ、楽しさ、喜びを共有できたら」という思いからスタートしたワークショップ企画です。
鳥の形をした置物に自由ペイントしたり、傷んだ革製品の修繕を行うワークショップがある他、会場内には子どもが全身を使ってお絵かきできるブースや木片にやすりをかけて自分が遊ぶ積み木を自分で作るブースも出展されていました。
あまり知られていませんが千葉県には多くのクラフト作家が住んでいて、にわのわ実行委員のサカモトトモコさんは千葉県の地域柄について次のように語っています。
「ある作家さんがおっしゃっていた言葉ですが、千葉って、何か伝統的な手仕事の産地というわけでもないので、師弟関係であるとか、そういったしがらみが少ない土地なんです。そういう意味では、創作だけに集中できて、とても住み着きやすい土地であるという面があるんですよ。東京にも近いし、温暖だし、物価も安いですからね」
「しかし、逆に言えば、しがらみがない分、作家同士・クラフト好き同士がつながるネットワークも少ない土地柄でした。しかし、この「にわのわ」がはじまったことで、県内の手仕事を愛する人たちがつながる場が誕生し、様々なイベントやネットワークが生まれる機運も育んでいます」
伝統も気負いもない千葉ならではのものづくりの形は、丁寧に作られたものを大切に使うというシンプルな暮らし方を私たちに思い起こさせてくれるものです。
大量生産・大量消費する社会に生きる私たちにとって「にわのわ」がもたらす作り手と使い手のつながりは、生産と消費のあり方を見つめ直し、適量生産・適量消費する生活のあり方を提案してくれているようにも感じられます。
▼ 城下町を遊び尽くす”まちのわ”「街全体が遊園地やサーカスみたいにワクワクする場になる」
「にわのわ」の開催にあわせて、京成佐倉駅から「にわのわ」会場の城址公園までの道のりも楽しんでしまおうという発想から生まれた企画が「まちのわ」です。
佐倉市営駐車場をメイン会場に、地ビールや地元グルメを味わえるキッチンカーの出店や、寄席やダンスといったまちのわステージ、雑貨や有機野菜の販売などブースの数は50店近くにも及びます。
4回目となる2018年は近隣の八千代市、成田市、千葉市などからの出店も増え、実行委員の鳥海孝範さんがコメントしているように「つながる輪がまちを超えてどんどん広がっている」のです。
「まちのわ」の開催期間中には「佐倉城下町一箱古本市」という各々がこだわりの本をダンボール1箱分ずつ持ち寄る本のフリーマーケットも行われています。
今回で第6回となるこの古本市は東京の谷根千(谷中・根津・千駄木)で行われている「不忍ブックストリートの一箱古本市」を参考に始まったそうで、2017年にアベイユ・ブックスという古本屋ができるまでまともな本屋が無かったというこの地域で、本を通した人と人の出会いを生み出しているのです。
まちのわスタンプラリーのチェックポイントでは、神社の境内で江戸時代から伝わる佐倉囃子の演奏が行われていたり、はた織り工房でコースターを作るワークショップに参加することができたりと地域に根付く小江戸の文化を楽しむことができます。
中でもお寺の本堂で行われる「伝統工芸を繋ぐものたち展」は、佐倉市と近隣に住む職人による、手描友禅、江戸組紐、組子細工といった伝統工芸品の展示が行われいますが、千葉に住む職人たちが地元でそれを発表できる場というのはとても貴重なもののようです。
「にわのわ」と「まちのわ」の2大イベントは、人とモノの出会いや人と人とのつながり見事に醸成していて、佐倉の街を1つの巨大な共創空間に作り上げています。
佐倉藩の藩政改革で成果を上げて徳川幕府老中となった堀田正睦や日本最初の私立病院である順天堂を設立した蘭医の佐藤泰然、日本の近代女子教育の先駆者として有名な津田梅子などのように、自ら進んで新しいことに挑戦した佐倉ゆかりの偉人たちの「好学進取」の精神は、佐倉に深く根を降ろし今日まで脈々と受け継がれているようです。
著者:天野盛介 2018/7/2 (執筆当時の情報に基づいています)
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