WAN’S LIFE湘南里親「救える命があります。ペットショップで『買う』のではなく『里親』になって保護犬を家族に迎えてください」

日本では年間約5.6万頭もの犬・猫が殺処分されており、その数は年々減少傾向にあるものの、それでも1日あたり150頭、つまり1時間ごとに6頭の犬・猫が命を奪われている計算になります。

そんな中、神奈川県動物保護センターでは殺処分が犬は5年、猫は4年連続ゼロを記録しています。

その背景にはセンターから動物を保護している動物保護団体の活動があるのだそうで、今回は神奈川西部に拠点を置く、犬の保護団体「WAN’S LIFE湘南里親」の副代表、桐田久美子さんにお話を伺いました。

▼ 犬の殺処分5年連続ゼロの神奈川県。でも、実際は動物保護センターの中で失われる命もある

写真:WAN’S LIFE湘南里親提供

神奈川県が動物保護に力を入れ始めたのは、現在の神奈川県知事である黒岩祐治氏の「殺処分ゼロ宣言」が影響しているのは間違いありません。神奈川県庁、センター、そして平塚市役所などで保護動物の譲渡会が開かれるなど、自治体も動物保護に協力的なのだそうです。

ただ、神奈川県が殺処分ゼロを掲げている一方で、実際はセンターの中で命を落とす動物もいるとして、桐田さんは次のように述べています。

「平塚市には神奈川県動物保護センターという施設があって、そこが神奈川県の動物保護の拠点になっているんですね。実はつい5年ほど前まではそこで殺処分が行われていたのですが、職員さんと保護団体が協力しあい殺処分ゼロを達成!その後、黒岩知事の『殺処分ゼロ宣言』から殺処分ゼロが継続しています」

「確かに動物の殺処分はゼロになったんです。でも、実際はセンターの中に収容される動物はたくさんいます。収容される動物がいないと勘違いされることもあります。センター職員の方たちは日々尽力されていますが、ストレスや病気、高齢により弱って死んでしまう動物もいるんですよね。もちろん、そうした動物たちは殺処分にはカウントされません」

「今は殺処分ゼロが継続できていますが、センターの収容スペースにも限りがあります。センターのキャパを超えてしまったら、殺処分を再開せざるを得なくなります。そうならないためにも、保護団体が協力しあいキャパを超えないよう活動しているのです」

WAN’S LIFE湘南里親の副代表・桐田久美子さん

興味深いことに、桐田さんが運営に携わるWAN’S LIFE湘南里親は施設を保有しておらず、活動は「預かりボランティア」というシステムで運営されていると言います。

「預かりボランティア」というのは、団体の会員がそれぞれの自宅で犬を預かって面倒を見るというもので、こうしたシステムを導入することによって、施設を保有することなく組織を運営していくことが可能なのだそうです。

平塚市役所のほか、様々なイベントに参加して犬の譲渡会を開催している。写真:WAN’S LIFE湘南里親提供

ただ、里親制度はあまり世間では知られておらず、その理由は日本が動物後進国だからだとして、桐田さんは次のように語ります。

「日本ではペットを飼おうと思ったらまずはペットショップに行きますよね。でも、動物先進国と呼ばれるドイツやスイスなどはペットショップがないんですよ。むしろ生体を陳列して売っている国は日本くらいです。生体販売を規制するためには動愛法などの法改正が必要です」

「動物先進国では動物を保護団体から譲り受けるのが一般的です。そうした文化がまだ発達していない日本では『里親として迎える』という考え方が浸透していないのは当然のことなのかもしれませんね」

▼ 今は子どもよりペットの方が多い「もともと働き手だった動物は、現代では家族としての地位を確立した」

写真:WAN’S LIFE湘南里親提供

動物後進国と呼ばれる日本ですが、近年では動物の家庭での立ち位置が少しずつ変化してきていると言えるのではないでしょうか。

もともとペットは人間社会において、犬は番犬、猫はネズミ退治といった働き手としての側面が強かったものの、次第に愛玩動物というモノとしての役割を担うようになり、現代では少子化なども影響して家族としての認識が強まってきています。

実際、日本全国で飼育されている犬猫の数は合計で約2000万頭にものぼり、15歳未満の子どもの人口が約1600万人であることを考えれば、ペットの存在が家庭の中で大きくなっていることは間違いありません。

さらに大都市圏を中心に2000年ごろからペットを飼育することのできるマンションの数が増加傾向にあり、2010年以降に建てられた新築マンションは9割以上が条件付きでペットを飼育可能となっているのです。

こうして室内でペットと過ごす時間が大幅に増えたことで、今後さらに「家族」としての動物の立場は強くなる一方でしょう。

▼ 犬が病気になったという理由で犬を捨てる飼い主がいる「人は安易に何かを手に入れると、安易にそれを手放すんです」

写真:WAN’S LIFE湘南里親提供

動物が家族の一員として受け入れられ始めているというポジティブな側面がある一方、次のような状況が安易な動物の購入に繋がっていると言います。

「最近はペットを飼うご家庭が増えてきました。ただ、ペットショップに行くと、小さくて可愛いワンちゃんを抱っこできて、その場で持ち帰ることもできるので、衝動買いを助長していると思うんです」

「人は安易に何かを手に入れると、安易にそれを手放すんです。ペットを手放す理由として多いのは、『こんなに大きくなるとは思わなかった』『飼ってみたら子供がアレルギーだと分かった』『吠える声が大きくて近所から苦情が来た』とか『病気になったから』というものです。ペットは家族と言いますが、自分の子どもが病気になったら捨てるでしょうか?」

写真:WAN’S LIFE湘南里親提供

そうした背景があって、WAN’S LIFE湘南里親では、里親を希望する人が現れても即日の持ち帰りは断っているようです。

桐田さんによれば、まずはサイトから犬の写真やプロフィールなどを見てもらい、気になる犬がいればメールで会へ連絡、譲渡会に参加、そして面談を重ねて、最後に団体の責任者が里親の自宅を訪れて譲渡に至ると言います。

写真:WAN’S LIFE湘南里親提供

こうした地道な活動を積み重ねの先に、神奈川県の動物殺処分ゼロが継続されているわけですが、どの団体もいっぱいいっぱいのところで活動している状況なのだそうです。

「現在、会員は33名で構成されており、預かりボランティアさんはその中で21人です。本当は預かりがしたいけれど、ご自宅がペット不可の物件だったり、預かりができない方もいらっしゃるので、そうした方には物販のお手伝いや、手作り品の作製をお願いしています」

「WAN’S LIFE湘南里親は、支援者さまからの募金、寄付金と物販の売上金で運営されています。イベントで販売する犬用のおやつやオリジナルグッズを作ってくれたり、販売に協力してくださるボランティアさんの存在も本当に貴重なのです」

ボランティアによる手作り品。写真:WAN’S LIFE湘南里親提供

家庭内でのペットの存在感がますます大きくなりつつある一方で、安易なペットの購入が殺処分を助長しているという矛盾。

そのような時代において、不運にも家族に見放されたペットに「本当の家族」が見つかるまでの間、飼育保護をして命を繋ぐ役割を担っているWAN’S LIFE湘南里親のような団体は、現代社会になくてはならない存在だと言えるはずです。

【取材協力】

◾️WAN’S LIFE湘南里親/副代表・桐田久美子


著者:高橋将人 2018/11/6 (執筆当時の情報に基づいています)
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