ものづくりのまち墨田区にある、町工場のハブ「ガレージスミダ」。小さな会社だからこそ、”争う”のではなく”繋がる”時代。

東京都の東、隅田川と荒川に挟まれる墨田区。「ものづくりのまち」とも呼ばれる墨田区は、江戸時代には材木や鋳物などの地場産業が発達し、明治時代には皮革やレンガなどの製造がはじまるなどして、近代産業の先駆けとなりました。

区内には製造業が多く、そのなかでもいわゆる「町工場」と言われる、比較的規模の小さい会社が大半を占めます。

そんな墨田区の町工場ですが、高度経済成長期には1万社ほどあったものが、現在では2千社弱と、約5分の1ほどに減少しています。そうした不況のなかで、町工場から日本を盛り上げようと奮闘している企業があります。

その名は、(株)浜野製作所。創業から40年以上にわたり墨田区で金属加工業を営んでいる老舗企業です。そんな浜野製作所が運営しているのが、”ものづくりの総合支援施設”である「Garage Sumida(ガレージスミダ)」。

そこでは、設計から開発まで、浜野製作所の長年の知見を活かした手厚い開発支援を受けることができるんです。

▼ 同業者は”ライバル企業”ではなく、”同志”。そのために僕らが、「町工場のハブ」になる



依頼は製造メーカーに限らず、例えばハードウェアの製造に関してノウハウを持たない大手企業や大学、ベンチャー企業などからもあります。

そんなガレージスミダを運営する浜野慶一社長は、そうした「開発支援」という側面を通して、いまや「町工場のハブ」としての機能を担っていると、その取り組みや理念について語ってくれました。

「これまでの町工場は、社長が顧客に納品する際に、『あ、社長いいとこに来た。これもお願い』みたいな感じで、自然と営業が成り立ってきたんです。一方で、普通の町工場だと、この時代に新たな顧客をつくって、情報を発信してってのはなかなか難しい」

「そこで、こういう施設をつくって、多くの会社の製品開発を支援しながら、それぞれの会社から集まってくる情報や抱えている課題を集約していく」

「ものづくりをする経営者の意思を、次代に引き継いでいきたい」と語る浜野慶一社長。

浜野製作所の工場内の様子。板金・プレス・機械加工を中心としている。

「そうすることで、家族で経営するような小さな町工場でも、そこにベンチャー企業や大企業、他にも大学なんかから仕事がはいったり、と普通ではなかなか生まれない接点を持つことができるようになります」

同じ町工場の社長でもある浜野さんが、このような考えに至ったきっかけのひとつに「ものづくりをするにあたって、日本のなかで東京が一番適してない地域かもしれない」という気づきがありました。

墨田区の町工場が減退していくなかで、岩手の北上や山梨の甲府や名古屋…と、地域の会社見学に行ったり、連携を組んだりということを始めました。そうした過程において、以下のようなことを考えはじめたと、浜野さんは語ります。

「東京は地方と違って、工場をつくるような広い土地はない。工場を建てても、民家が近くにあったりして騒音の問題がある。労務費用も高い。もしかしたら、日本のなかで東京が一番、ものづくりに適してない地域かもしれないと思った」

浜野製作所の工場内で、社員さん同士が会議をしている様子。

数々のイノベーションが生まれる、ガレージスミダのオープンスペース

「だから地方と同じようなことをやっても勝ち目はない。一見すると最大のデメリットも目線や枠組みを変えると、最大のメリットになる。それは、東京が“情報の集積地”であるということ」

「東京は、世界で見ても大学が多い地域。大企業だって、ベンチャー企業だって多い」

「そのなかでも墨田区というのは、江戸時代からものづくりをやってる地域。東京では大田区に次いで2番目に工場が多い地域です。だからこそ知識や技術の集積もあって、なにかここから発信できるものがあるんじゃないかと思いました」

▼ 物が溢れ、嗜好が多様化している時代だからこそ、町工場にもチャンスが巡ってくる



墨田区の利点を活かし、徐々に現在のような開発支援の形態になっていったガレージスミダ。台風発電に挑戦するチャレナジー 社や、次世代型電動車椅子・パーソナルモビリティのWHILL社など、社会課題の解決をめざすスタートアップの開発を支援し、こうしたスタートアップは今、海外展開するまでに成長を続けています。

町工場の数が減退していくなかで、墨田区からものづくりを通じた新しいサービスが生まれる流れをつくっているガレージスミダですが、こうした取り組みをしていくなかで、流れの速い現代だからこそ町工場にもチャンスがあると、浜野さんは次のように話してくれました。



「高度経済成長期には、物が飛ぶように売れた。それはそもそも“足りていない”から。みんな欲しいものがいっぱいある。でもいまの時代は物が溢れてる。そうすると自然に、人々の好みが多様化しますよね」

「消しゴムはこれ、鉛筆はこれ、とかじゃない。決まりがないからこそ、市場が多様化していく。多様化していくということは、小さい市場がどんどん生まれていくということ。ここに町工場が入っていけるチャンスが生まれるんですよ」

浜野製作所のオフィス外観。工場はこの近隣に点在している。

最後に浜野さんは、今後の町工場の未来について語ってくれました。

「僕ら一社だとちっちゃな会社なので、例えば三軒先のメッキ屋さんがなくなると、できない製品も出てくる。だから僕たち町工場が繋がって、次のステージ、次代の人々へと引き継いでいけたらって思います」

「同業者をライバル企業と捉えるのではなく、繋がって、また新たなものをつくる。日本の中小企業を、町工場から再興していきたいですね」

現在でも一日に何件も問い合わせがあり、国外からの視察もあるなど、各界から注目される浜野製作所。Apple製品のように世界基準の製品が、ここ墨田区から生まれる日もそう遠くはないかもしれません。

【取材協力】

株式会社 浜野製作所 代表取締役 CEO/浜野 慶一

【アクセス】

東京都墨田区八広4-36-21

京成線 八広駅下車 徒歩10分ほど


著者:清水翔太 2019/9/12 (執筆当時の情報に基づいています)
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