省エネが叫ばれる昨今、住宅業界にもその波は着実に押し寄せています。とりわけ、住宅では冷暖房や給湯など生活に必要なエネルギーを消費するため、省エネ性能を基準に住宅を選択する人も少なくありません。
今回は、省エネ性能がトップクラスに優れている「パッシブハウス」について解説します。まだまだ日本では聞きなれない言葉ですが、その住環境や省エネ性能は高い断熱性と気密性、そして自然エネルギーの最大限活用という、画期的な技術が組み合わさった最高峰の住宅として知られています。
今後、さらに省エネや断熱性能は重視される可能性が高いです。今から最先端の住宅情報を学ぶことは、将来の賃貸物件選びや住宅建築に役立つでしょう。ぜひ最後までお読みください。
「パッシブハウス」とは?

パッシブハウスとは、自然エネルギーを最大限に活用し、少ないエネルギーで快適な室内環境を実現する住宅のことです。冷暖房などの機械的な設備に頼らず、建物の構造や素材、設計によって、冬でも暖かく、夏でも涼しい室内環境を保つことが可能です。
パッシブハウスの住宅性能基準①年間の冷暖房負荷
パッシブハウスの大きな特徴の一つは、年間の冷暖房負荷が非常に少ないことです。冷暖房負荷とは、建物を快適な温度に保つために必要な冷暖房に利用するエネルギー量を、建物の広さで割った値のこと。この数値が、一般的な住宅と比べて極めて低いことがパッシブハウスの特徴です。
パッシブハウスでは、この値を15kWh/m²/年以下と定められています。これは、一般的な住宅の約6分の1に相当する値であり、いかに冷暖房を使うことなく生活可能な環境が提供されているか、住宅性能の高さがよくわかる数値です。
パッシブハウスの住宅性能基準②一次エネルギー消費量
パッシブハウスは、年間の冷暖房だけでなく、建物全体で消費する「一次エネルギー消費量」が極めて少ない高性能な住宅です。一次エネルギー消費量とは、冷暖房・給湯・照明など、住宅内で消費されるすべてのエネルギーを合計し、住宅の広さで割った値で表されます。
パッシブハウスでは、この値が一般的な住宅の半分以下、年間120kWh/m²以下という非常に厳しい基準が設定されています。光熱費を大幅に削減し、環境負荷の軽減にも貢献することができるでしょう。
パッシブハウスの住宅性能基準③機密性能
パッシブハウスは、住宅の隙間が少ないことも特徴の一つです。隙間があると、室内の空気が外に漏れたり、外気が入り込んだりするため、室内の温度が安定しません。
この気密性能は、建物を50Paの圧力で加圧した際の空気の漏れ方を数値で表し、一般的に0.6回/h以下と定められています。空気の入ったビーチボールを上から押したとき、1時間かけても空気穴から半分と少ししか漏れないとイメージすれば、気密性の高さがよくわかります。
この高い気密性が、パッシブハウスの断熱性能を最大限に引き出し、外気に左右されにくい居住環境を実現しています。一般的な住宅では窓の近くですきま風を感じることがありますが、パッシブハウスではこのようなことはほぼないと考えてよいでしょう。
パッシブハウスとZEHの違い
パッシブハウスとZEH(ネット・ゼロ・エネルギー・ハウス)は、どちらも省エネ住宅として注目されています。そもそもZEH住宅とは、住宅での消費エネルギーと、太陽光発電などでつくる創エネルギー量の収支を年間でゼロ以下にする住宅のことをいいます。
両者の違いとして以下のような点を挙げることができます。
・エネルギーの捉え方
・建築設備や設計の考え方
パッシブハウスは太陽光などの自然エネルギーを最大限に活用し、エネルギー消費を「減らす」ことに重点を置いています。一方のZEHは、エネルギーを消費するだけでなく、自らエネルギーを「作り出し」、消費エネルギーと創出エネルギーのバランスを取ることを目指している点に違いがあります。
また、パッシブハウスは、高断熱・高気密な建物構造や、太陽の光を効率的に取り込めるような建物や窓の配置計画がなされるなど、工夫された建築が特徴です。ZEHは、パッシブハウスの要素を取り入れることもありますが、太陽光パネルなどの創エネ設備を積極的に取り入れている点が特徴です。
パッシブハウスとLCCM住宅の違い
LCCM住宅というカテゴリーがあります。LCCM住宅とは、「ライフサイクルカーボンマイナス住宅」の略で、住宅の建設から解体されるまでの間、つまり一生涯においてCO2の排出量をマイナスにすることを目指した住宅のことです。
パッシブハウスとLCCM住宅との違いは、おもに両者の着眼点にあります。
パッシブハウスが建物自体が持つ性能にフォーカスを当てた住宅であるのに対し、LCCM住宅は、住宅のライフサイクル全体に着目した住宅です。建築段階から解体・廃棄までの全過程において、CO2排出量を最小限に抑え、再生可能エネルギーの創出によって、住宅の生涯を通じてCO2の収支をマイナスにすることを目指しています。
地球温暖化が世界の注目課題となっており、住宅においてもCO2排出量を減らすことが求められています。環境問題に貢献したい人にとって、LCCM住宅を選ぶことはより良い選択肢となるでしょう。
パッシブハウスとBELSの関係性
BELS(建築物省エネルギー性能表示制度)とは、建物の省エネ性能を評価し、星の数で表示する制度です。国が定めた基準に基づき、第三者機関が客観的に建物の省エネ性能を評価。その評価項目は、断熱性能・窓の性能・照明・空調など多岐にわたります。
パッシブハウスは、BELSの評価基準をはるかに上回る高い断熱性や気密性などを備えています。そのため、BELS評価においても最高の評価を獲得できる可能性が高いといえるでしょう。
パッシブハウスのメリット

高気密・高断熱・自然エネルギーの最大活用と魅力的なパッシブハウスですが、具体的にはどのようなメリットがあるのでしょうか。
ここでは、パッシブハウスのメリットを深掘りします。
季節を問わず快適に過ごすことができる
パッシブハウスでは、夏は涼しく冬は暖かく、何よりも快適に過ごせる点がメリットです。
パッシブハウスは、いわば快適さを重視したオーダーメイドの家と言えます。なぜなら、高い断熱性や気密性はもちろんのこと、住宅を建てる場所の気候や日照条件を熟慮した設計がなされているからです。
例えば、冬は太陽の光を最大限に室内に取り込み、室温を上げるように窓を配置します。夏は日射を遮るように庇や軒を設けるなど、季節の変化に合わせた工夫が凝らされています。これらの綿密な工夫により、年中快適な生活を過ごすことができるのです。
冷暖房を使う頻度が少ないため経済的
パッシブハウスは高い断熱性と気密性により、室内の温度を安定させるため、冷暖房の使用頻度を大幅に減らすことが可能です。
太陽熱を効果的に活用することで、季節を問わず快適な室内環境を実現できますので、光熱費を大幅に削減でき、長期的に見ると経済的な住宅というメリットが期待できるでしょう。
健康的な生活が営める可能性が高い
パッシブハウスの快適な生活は健康面にも良い影響を及ぼします。
住宅内での健康被害といえば、湿気の発生によるカビが挙げられます。しかし、パッシブハウスは、高い気密性によって室内の空気が外気と混ざりにくい構造です。外気の影響を受けづらく、結露も発生しにくいため、カビが発生しにくい環境となり、健康的な生活が営めるでしょう。
また、気密性が高いと空気がこもりシックハウス症候群を発症することが心配ですが、パッシブハウスではそのような心配はありません。なぜなら、高度な熱交換システムが採用されることが多いからです。熱交換システムとは、汚れた室内の空気を排出し、新鮮な外部の空気を機械的に交換するときに、温度の交換を行う設備のことです。
パッシブハウスでは厳しい基準をクリアした熱交換システムが採用されるため、換気とエアコンが一体となったものが利用されることが多い傾向にあります。そのため、高気密であるにも関わらず、外気を室内の温度に近い温度で室内に循環させることができますので、いつも新鮮な空気のなかで生活することが可能です。
建物が長持ちする
パッシブハウスのメリットとして、住宅が長持ちするという点も見逃せません。その理由には、パッシブハウスの特徴である高気密高断熱が挙げられます。
これらの性能により、建物基礎構造(基礎・柱・壁・屋根などの内部環境)が外気の影響を受けにくいため、住宅の主要構造部において劣化が抑えられます。さらに、耐久性が高く、環境負荷の少ない自然素材を使用するため、住宅の寿命が長くなる傾向にあります。
このような建物の長寿命化は、上述した経済的なメリットにも繋がる重要なポイントといえるでしょう。
パッシブハウスの注意点(デメリット)
パッシブハウスには良い点が多いことは間違いありませんが、マイナスの要素は注意しなければいけないポイントも存在しています。
ここでは、パッシブハウスを建築したり、パッシブハウスへの入居を検討したりするときに押さえておきたい注意点やデメリットを紹介します。
高額になる
パッシブハウスはその高い基準を満たすために、さまざまなコストがかかり、建物の建築費用が高額になる点がデメリットです。
建築資材はもちろんのことですが、立地の選定コスト・詳細な条件を想定した配置計画などの設計コスト・導入する設備コストなど、多くの費用がかさみます。
しかし、これらイニシャルコストは、住宅利用中のランニングコストダウンメリットのほか、住宅の長寿命によるメンテナンスコストの低減を考えると、決して高すぎるものではありません。
パッシブハウスを検討するときは、住宅の利用可能期間やランニングコストをも視野に入れてトータルで検討することが重要です。
広い敷地面積が必要
一般的にパッシブハウスの建築では通常よりも広い敷地面積が求められることがあります。なぜなら、採光を十分にとるための配置計画を実現する必要性があるほか、住宅の外壁を厚くする必要性があるからです。
パッシブハウスは太陽光を中心とした自然エネルギーを最大限活用します。そのため、隣地との距離が近すぎると、パッシブハウスが求める通風や日射条件を満たすことができなくなることがあります。
また、高気密高断熱という高度な住宅性能を維持するためには、断熱材を厚くすることも避けられません。外壁を厚くすることは、住宅が大きくなるということ。わずか数十センチであってもその影響は少なからずありますので、注意が必要です。
工期が長い
パッシブハウスでは、土地選び・設計・建築の一連の過程が長期化する傾向にあります。なぜなら、想定すべき条件が多岐にわたるからです。
一般的な注文住宅であれば、土地が決まればおおむね8ヶ月〜10ヶ月程度で住宅の引渡しが完了します。しかし、パッシブハウスでは、土地の選定、設計シミュレーション、建築に多くの工程が求められるため、工期が長期化することが多いです。
例えば、上述した高気密のテストなども、建築途中と建築完了後の2回実施されます。これは、建築途中に気密性に不具合があると判明すれば、補修対応が容易だからです。一般の注文住宅では建築完了後に実施されることが多いため、気密性のテストだけでも倍の工程がかかるのです。
パッシブハウスの建築を検討するときは、工期が一般の住宅建築よりも長くかかる点は必ず理解しておきましょう。
間取りなどの自由度が下がることがある
パッシブハウスの建築では、意匠・間取りなどの面で自由度が下がることがあります。なぜなら、高い断熱性能や気密性、そして太陽熱の最大限活用といった厳しい基準を満たすため、断熱材の種類や厚さ・窓の性能・住宅の構造・素材・窓の配置や大きさなど、設計の自由度が制限されるケースがあるからです。
また、通風や日照条件も考慮するため、敷地の好きなところに建築できない、ということも考えられるでしょう。
パッシブハウスの賃貸住宅を探す方法
快適な生活が約束されたパッシブハウスを賃貸で探すには、どうすればよいのでしょうか。
残念ながら、パッシブハウスはまだまだ普及段階にあるため、賃貸物件でパッシブハウスを見つけることは極めて困難な状況です。偶然見つけた戸建て住宅がパッシブハウスだった、ということ以外には現段階で良い方法はありません。
しかし、今後はパッシブハウスとまではいかなくとも、高気密高断熱の住宅性能を有した賃貸物件が増加してくることは間違いありません。次項では、パッシブハウスに近い機能を有する物件について紹介します。
パッシブハウスに近い住宅環境を得る方法

パッシブハウスは高額であり普及には時間がかかる見込みですが、高性能な住宅はたくさん存在しています。また、機能的なカバー以外にも、快適な環境を提供してくれる住宅は意外とあるもの。
ここでは、快適な住宅環境を持つ物件の特徴を紹介します。
南向きで採光が広く取れている物件
快適な生活環境に太陽光は欠かせません。そのため、南向きで窓が大きく、日中は光がずっと差し込む物件などは、よい生活環境を感じることができるでしょう。
夏場の直射日光は室内の温度を際限なく上げてしまいます。しかし、外部に日よけを設け、室内でもカーテンで直射日光を遮ることで、直射日光の影響を下げることが可能です。また、冬は直接日光を室内に取り込めば、自然と部屋も暖かくなります。
直射日光とうまく付き合うことで、冷暖房への依存度を少し下げることができ、自然エネルギーを活用した暮らしを体感することができるでしょう。
なお、風を感じたい人には、2面以上の採光がある部屋を選ぶこともポイントです。風の通り道ができることで、室内に空気がこもることもありませんし、より風を感じることができるでしょう。
床下暖房や全館空調の物件
自然のエネルギーを感じるには立地や物件の方位など、自分では変えることのできない要素に左右されてしまいます。そのため、室内環境を整える設備として「床下暖房」や「全館空調」が備わった物件を選ぶことでも、快適な生活を営むことができます。
床下暖房とは、簡単にいえば床下ピットに設置されたエアコンで室内全体を暖める設備のことです。暖かい空気は軽いため上に上がろうとする力を利用して、建物全体を緩やかに暖めることが可能です。
「全館空調」とは、文字通り大きな1台のエアコンから出た冷暖風を住宅内すべての部屋に送り、各部屋や廊下の温度差をなくす空調スタイルのことで、ヒートショック対策にも有効とされています。
これらの設備は、自然エネルギーを活用したものではありませんが、機械的とはいえ快適な空間を得るという意味において、パッシブハウスに似た環境を作ることができるでしょう。
太陽熱温水器・エコキュートの物件
太陽熱温水器とは、一戸建ての屋根に設置した鏡のような集熱器で太陽の光を効果的に集めることにより、お湯を沸かす設備のことです。一方、エコキュートとは、空気中の熱を圧縮し高温化させたエネルギーを利用してお湯を沸かすシステムのことです。
これらは、自然由来のエネルギーを利用したエコな給湯システムであるため、パッシブハウスの求める自然エネルギーの活用に類する設備といえます。省エネ性能も高く環境にやさしい設備でもあるため、このような設備が付帯されている物件を選ぶことでも、パッシブハウスの精神を感じることが可能です。
外断熱工法の物件
外断熱工法とは、グラスウールのような断熱材を充填するのではなく、住宅の外部をぐるりとほとんど隙間なく囲んでしまうことにより、魔法瓶のような効果を生じさせる断熱工法のことを指します。
外気と内気が直接触れることがないため、室内の温度が外気に左右されにくいという点において、夏も冬も快適に過ごすことが可能です。
室内の温度は外気の影響を少なからず受けます。そして、もっとも影響を受けやすいのは窓と言われています。そのため外断熱工法ならすべて快適、というわけではありません。しかし、一般的には外断熱工法で建築された住宅ではその気密性を維持するために、高い断熱性能を持つ窓が採用されていることがほとんどです。
外断熱工法の住宅ではパッシブハウスのような高気密高断熱な生活を存分に体感することができるでしょう。
パッシブハウスの可能性を知り検討候補に入れよう
ここまでパッシブハウスについて詳しく解説してきました。パッシブハウスは、高い断熱性と気密性によって、少ないエネルギーで快適な住環境を実現する住宅です。自然エネルギーを最大限に活用し、環境にも優しい点は、共感する人も多いのではないでしょうか。
しかし、パッシブハウスはまだまだ普及の初期段階にあります。そのため、なかなかお目にかかれる機会も少ないほか、パッシブハウスを建築できる技術やノウハウを有する工務店が少ないことも現状です。
そのため、すぐにパッシブハウスを体感することは困難ですが、パッシブハウスに近い性能やマインドを有した住宅は数多く存在します。ZEH・LCCM・外断熱工法の住宅などがその例です。これらの住宅も、パッシブハウスのような、高性能で環境に配慮した住宅として注目されています。
性能が高いゆえに初期費用が高い、というデメリットもあるパッシブハウスですが、将来の住宅建築のことを考えると、知っておいて損はない内容といえるでしょう。環境問題に関心があり、快適で健康的な暮らしを送りたい人は、ぜひこの機会にパッシブハウスについて、もっと調べてみてはいかがでしょうか。