経年劣化とは?通常損耗との違いと見分けるポイント、原状回復費用負担が必要な場合を解説します

目次

賃貸物件を退去する際に、原状回復費用がどこまで必要なのか気になる方も多いでしょう。「画鋲(がびょう)の穴は入居者の負担?」「お風呂の水垢は大家さん負担?」「そもそも経年劣化ってなに?」など、経年劣化の特徴や、どちらが負担すべきなのかが分からない方も少なくありません。

そこでこの記事では、経年劣化を見分けるポイントや確認すべき注意点などを、賃貸仲介営業のプロが解説します。この記事を読めば、経年劣化の特徴や見分け方が分かるので、ぜひ最後まで読んでみてください。

経年劣化とは

経年劣化は、年数の経過により自然と品質が落ちていくことです。賃貸物件においては、以下のようなものが挙げられます。

・壁紙の汚れ

・畳の色あせ

・床の日焼け

・トイレやお風呂の黄ばみ

似たような現象の「通常損耗」や「原状回復」などとは、どのような違いがあるのでしょうか。ここでは、それぞれの特徴や経年劣化との違いを解説します。

通常損耗(つうじょうそんもう)と経年劣化との違い

通常損耗と経年劣化の違いは、以下のとおりです。

特徴共通点
通常損耗普通の暮らしで生じると予想される劣化基本的に貸主の負担で修繕義務がない
経年劣化年数の経過が原因での劣化基本的に貸主の負担で修繕義務がない

経年劣化は、時間の経過により生じます。一方で、通常損耗は家具を置いてできた床の傷や、画鋲(がびょう)を刺してできた小さな穴などが該当します。つまり、生活するうえで避けられない損耗です。

通常損耗と経年劣化は、どちらも退去時に入居者による修繕義務はありません。ただし、故意に傷や汚れをつけた場合は「特別損耗」になり、入居者の修繕負担となる恐れがあるため、注意しましょう。

経年劣化と原状回復の関係

経年劣化と原状回復には、以下のような違いがあります。

特徴
経年劣化年数の経過が原因での劣化
原状回復入居者が故意もしくは不注意などが原因で破損、汚損したものを修繕すること

2020年4月に施行された民法改正により、経年劣化や通常損耗に関して、入居者は原状回復義務を負わないことが明確化されました。ルールが明確化されたことで、退去時にスムーズな精算が期待できるため、賃貸物件で安心した生活を送れるでしょう。

しかし、入居者による故意もしくは不注意などが原因で破損、汚損した場合は、原状回復費用が必要になります。経年劣化や通常損耗は大家さん負担で修繕しますが、原状回復は入居者負担での修繕が必要になるため、注意しましょう。

参照資料:法務省「賃貸借契約に関するルールの見直し

経年劣化に該当しなくなってしまう代表的な要因

一方で、入居者の負担で修繕が必要になる代表的な要因には、以下のようなものがあります。

・タバコによる壁の黄ばみや匂い

・ペットによる傷や匂い

・引越し作業で生じた傷

・けんかなどのトラブルによる窓ガラスの破損

・掃除を怠ったことで発生したお風呂のカビや水垢

経年劣化に該当しなくなると、退去時に入居者の負担で修繕が必要になるため、思わぬ出費になります。これらの汚れや傷は、注意して生活すれば防げるため、しっかりと覚えておきましょう。

次項では、経年劣化を見分けるポイントを場所別で具体的に紹介します。

賃貸仲介営業の私が教える、経年劣化かどうかを見分けるポイント

ここでは、場所別に経年劣化かどうかを見分けるポイントを紹介します。住んでから後悔しないように、あらかじめ確認しておきましょう。

フローリング・畳の場合

フローリングや畳のケースは、以下のとおりです。細かな傷や汚れがつきやすい場所になります。

原状回復費の負担が不要のケース

ソファやテレビなどの細かな傷やへこみは、通常の使用でできたものになるため、原状回復費用の負担はありません。また、太陽の光による日焼けや色あせも同様です。

原状回復費を負担しなければいけないケース

一方で、引越しの際に大きな傷をつけたり、こぼれた調味料を放置したことで汚れがしみついたり、ペットの粗相によるシミなどは、原状回復費用を負担する可能性が高いといえます。

壁紙の場合

壁紙のケースは、以下のとおりです。壁の色によっては、傷や汚れが目立つため注意しましょう。

原状回復費の負担が不要のケース

日焼けや家具の配置による変色の場合、費用負担は不要です。また、下地まで貼り替える必要がない場合は、画鋲(がびょう)やビスなどによる小さな穴も該当しません。

原状回復費を負担しなければいけないケース

タバコのヤニによる黄ばみは、原状回復費用の負担が必要です。また、下地の貼り替えが必要な釘・ねじによる穴の補修や、故意に壁に穴を開けた場合などは費用負担になります。

水回り(バスやトイレなど)の場合

バスやトイレのケースは、以下のとおりです。湿気によるカビや、用を足す際の汚れが発生しやすい場所になります。

原状回復費の負担が不要のケース

バスの汚れや水垢、トイレの黄ばみなど、普段から掃除をしていても発生する汚れの場合は、経年劣化や通常損耗として判断されます。

原状回復費を負担しなければいけないケース

掃除をせずに汚れを放置した場合は、原状回復費用の負担が必要です。特にお風呂の鏡についた水垢は、注意していても入居者負担による取替えが必要になるケースが多いため、注意しましょう。

水回り(キッチン)の場合

キッチンのケースは、以下のとおりです。料理による汚れが目立ちやすい場所になります。

原状回復費の負担が不要のケース

シンクについた水垢や、換気扇や壁に付着した油汚れが軽度な場合は、通常損耗になります。また、水漏れの原因となる水道などのパッキンの取替えは、経年劣化として扱われるため負担は不要です。

原状回復費を負担しなければいけないケース

水垢や油汚れがひどい場合は、掃除を怠っていたとして、原状回復費用の負担が必要になるケースが多いです。湿気などにより、冷蔵庫を置いていた床の交換をする場合、張替え費用の負担が必要なケースもあります。

玄関周り

玄関周りのケースは、以下のとおりです。汚れの度合いによっては費用負担が必要です。

原状回復費の負担が不要のケース

玄関ドアについた軽度の傷や汚れは、費用負担が不要です。通常損耗とみなされます。

原状回復費を負担しなければいけないケース

故意に玄関ドアを破損したり、へこませたりすると、入居者の費用負担で修繕が必要です。玄関の傷やへこみは修繕できない場合があるため、まるごと交換になる恐れがあります。

賃貸契約書の原状回復について確認すべき具体的な内容と注意点

原状回復の内容については、賃貸契約書に詳しく記載があります。確認すべき具体的な内容や注意点などを把握しておきましょう。ここでは、3つの項目について解説します。

項目①明け渡し時の原状回復

一般的な契約書にある、明け渡し時の原状回復の内容は、以下のとおりです。

上記契約書にあるように、通常の使用で生じた損耗以外の場合に、原状回復が必要なことが記載してあります。修繕を行う業者の手配は甲(大家さん)が行い、入居者(乙)は支払うべき費用を甲(大家さん)に支払う必要があります。

項目②原状回復の条件

原状回復の条件は、前述した「明け渡し時の原状回復」の参考資料として記載してあるケースが多いです。

大家さんである貸主と、入居者である借主が負担すべき修繕内容が記載されています。

項目③原状回復の特約事項

原状回復の特約は、具体的な修繕内容を記載します。

特約事項には、項目②原状回復の条件に記載がない内容を追加で記載することが多いです。例えば、子どもが多い入居者の場合は「ドアのガラスを子どもが割った場合は入居者負担」などと、特約事項に追加で記載します。入居者の人数や家族構成などによって、特約事項の内容は異なるため、細かく確認しておきましょう。

経年劣化に関するよくあるQ&A

ここでは、経年劣化に関するQ&Aを紹介します。

Q1.洗面台にマットを敷いていたらカビでシミになっていました。経年劣化になりますか?

A1.定期的にマットを交換するなど、カビが生えないように注意していた場合は、経年劣化とみなされます。そのため、修繕の費用負担は大家さんになるケースが多いです。

しかし、マットを定期的に交換せず、敷いたままの状況にしたことがきっかけでカビが発生した場合は、入居者負担の原状回復費用がかかります。つまり、善良な管理を怠ったとして「故意過失による汚損」になる恐れがあるからです。

そのため、定期的なマットの交換や、換気を行うなどの対策を行いましょう。24時間換気システム付きの住まいなら、常に換気されている状態を保てるため、快適に暮らせます。

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Q2.太陽の光で壁と床が変色しました。入居者負担で修繕すべきでしょうか?

A2.太陽の光による壁や床の変色は、通常の生活で避けられないため、経年劣化となります。そのため、大家さんの費用負担で原状回復を行うのが一般的です。

しかし、調味料や飲料をこぼして放置していたことが原因で、フローリングが変色した場合などは「故意過失による汚損」に該当するため、入居者の原状回復費用負担になるでしょう。

Q3.お風呂掃除を2年間しておらず、カビや水垢がひどい状況です。通常使用による汚損なので、もちろん経年劣化ですよね?

A3.一般的に、入居期間が長い場合や掃除を定期的に行っている場合は、通常損耗に該当します。しかし、2年間で一度もお風呂掃除をせずに、カビや水垢がひどい状況は、明らかに入居者による落ち度が原因です。

この場合、入居者による原状回復費用の負担となります。さらにお風呂のカビが原因で、ほかの部屋に損害を被る場合、損害賠償請求が発生する恐れがあるため注意しましょう。

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経年劣化についてきちんと把握し、大事に部屋を使おう

経年劣化と原状回復の違いを理解しておけば、賃貸物件で快適な暮らしができます。当然、定期的に部屋の換気を行い、お風呂、トイレ掃除を徹底しておけば、原状回復費用を請求されることはありません。

賃貸契約書に記載してある、原状回復に関する内容をしっかりと確認して、分からない内容などは積極的に不動産会社に確認することがおすすめです。経年劣化と原状回復の違いを理解したうえで、快適な賃貸物件生活を実現させましょう。