宅地建物取引業法の「取引態様」は、不動産広告などに明示することが義務付けられていることから、賃貸住宅において重要な項目の1つです。取引態様の種類によって、仲介手数料をはじめとした初期費用の金額や、宅地建物取引業法の適用有無が異なります。
しかし、賃貸住宅を借りる際に取引態様を意識する方は少ないのが現状です。あまり知られていない取引態様ですが、実は重要な意味合いを持っています。
そこで今回は、取引態様の種類や、それぞれのメリット・注意点を詳しく解説します。これから賃貸物件を探す予定の方は、どんな取引態様になっているか確認するようにしましょう。
取引態様とは
普段の生活では見慣れない「取引態様」は、「とりひきたいよう」と読みます。
主に不動産会社が「取引」をする「態様(=立場)」を示しており、意識されることは少ないですが、取引態様によって意味合いが大きく異なるので注意が必要です。
取引態様は、宅地建物取引業法34条「取引態様の明示」により、取引が成立するタイミングまでに、不動産会社によって顧客へ明示することが定められています。これは取引態様の種別により、初期費用などの金銭に関して違いが生じることや、不動産会社の媒介方法などが異なり、不動産取引に大きな影響を与えるためです。
取引態様の種類
賃貸住宅を扱う不動産会社の取引態様は「貸主」「代理」「媒介(仲介)」の3種類が存在します。それぞれの違いを以下の表で確認しましょう。
【取引態様の比較表】
貸主 | 代理 | 仲介 | |
---|---|---|---|
概要 | 物件のオーナーが借主と直接契約をおこなう | 貸主の代理が借主との契約手続きをおこなう | 不動産会社が貸主と借主の間に立ち、契約業務をおこなう |
取引・交渉の相手 | 物件のオーナー | 代理となる不動産会社 | 仲介をおこなう不動産会社 |
仲介手数料 | なし | 発生する場合あり | あり |
手数料の上限 | なし | 貸借主 合わせて家賃の1ケ月分以内 | 貸借主 合わせて家賃の1ケ月分以内 |
重要事項説明 | なし | あり | あり |
宅地建物取引業法(宅建業法) | 適用されない | 適用 | 適用 |
※取引態様が貸主の場合、媒介契約は必要ありません。
代理による仲介手数料の扱いは状況によって異なるため、それぞれの違いとともに以下で詳しく説明します。
代理
大家さんから多くの権限を委任された不動産会社のことを「代理」と表示します。
不動産会社は大家さん(貸主)とは異なりますが、入居者の審査や家賃の値下げ可否など、多くの決定権を有している点が大きな特徴です。
賃貸住宅の大家さんは個人家主であることが多く、不動産投資の側面に重きを置いている場合、人によっては「宅地建物取引業法」や「借地借家法」に対して不理解な面も多く見られます。そのため、法律に反した言動が見受けられるケースが考えられますが、代理であれば不動産会社の権限が大きいため、そうしたトラブルを回避できることは大きなメリットでしょう。
貸主
賃貸住宅の貸主(大家さん)が不動産会社である場合、取引態様は「貸主」と表示します。
一般的な賃貸住宅の流れと異なり、あくまで貸主である不動産会社(または個人)と、借主である顧客が直接契約を締結をするため、仲介手数料が発生しないことがメリットです。
一方で、宅地建物取引業法が適用されない取引となるため、不動産会社は重要事項説明の義務を負いません。それでも「別に困らないのでは?」と考えられますが、もしトラブルが発生した場合でも行政による監督指導の対象とならず、借主は自ら解決しなければなりません。
宅地建物取引業法が適用されることにより、毎月の家賃の支払い、退去時の原状回復費用などが明確化されることも事実です。
仲介(媒介)
仲介(媒介)は賃貸住宅の取引において、もっともポピュラーな取引態様です。
賃貸住宅を貸したい大家さん(貸主)と、借りたい顧客(借主)との関係を仲介(媒介)することで、不動産会社は仲介手数料を得られます。大半の取引態様は媒介(仲介)であるため、世間一般的に賃貸住宅を借りる際に語られる場合、この形態を示しています。
また仲介(媒介)では、不動産会社と貸主の間で「媒介契約」を締結しています。この媒介契約の種別により「契約締結時の報酬」「入居者募集の制約・状況報告」などが異なりますが、ここでは「借主」に影響する内容を説明します。
【仲介形態の比較表】
専属専任媒介契約 | 専任媒介契約 | 一般媒介契約 | |
---|---|---|---|
物件の取り扱い会社 | 一社のみ | 一社のみ | 複数の不動産会社 |
探し方 | 不動産ポータルサイト/不動産会社に訪問 等 | 不動産会社HP/不動産会社に訪問/営業担当者からの紹介 等 | 不動産会社HP/不動産会社に訪問/営業担当者からの紹介 等 |
一般媒介契約は物件情報の公開範囲が広いため見つけやすいですが、多くの人が同じ物件を見つけるため競合性が高く、特に条件の良い物件は早く契約されてしまいます。
一方で、専任媒介契約は情報の公開範囲が狭いため、他の人が見つけられない物件に出会えることがあります。中には条件の良い物件も含まれています。
なお、手数料面では大きな差がないため、借主が一般物件と専任物件をあまり気にする必要はありません。
専属専任媒介契約
借貸主は専属専任媒介契約を締結した不動産会社を通じてのみ、該当の賃貸住宅を借りることが可能です。つまり管理しているのが大家さんだったとしても、不動産会社を経由して契約する必要があります。
なお、取引する不動産会社との商談中に他で契約が決定することがない点は安心できるでしょう。
専任媒介契約
専任媒介契約は専属専任媒介契約と同じく、取引する不動産会社は1社ですが、借主が自ら賃貸物件を探すことが認められています。そのため、不動産会社を通さずに賃貸契約の取引をすることが可能です。
一般媒介契約
「専任」ではなく「一般」と表現されるように、多くの規制が設けられていない契約が一般媒介契約です。複数の不動産会社に対して取引依頼をしているため、多くの顧客の目に触れることになり、借主としてはライバルが多い点は注意が必要でしょう。
一方で、仲介不動産会社を固定しておらず関係性も強くないことから、様々な交渉がしやすい傾向にあります。(ただしあくまで傾向であり、「一般媒介契約だから気軽に交渉に応じてくれる」というわけではありません)
取引態様が「代理」のメリット・注意点
取引態様が「代理」の場合は、貸主と媒介(仲介)の中間的なメリットと注意点が混在します。簡単に表現するなら「貸主は別だが権限は持っている」のが代理の特徴です。
メリット
貸主と同様程度の権限を持ちながら「宅地建物取引業法が適用される」点は大きな利点です。また、不動産会社が受け取ることができる仲介手数料は家賃1ヶ月分ですが、この金額は貸主・借主のどちらか一方に請求することも、折半とすることも可能です。
そのため、交渉により仲介手数料を削減できる可能性もあるなど、金銭的なメリットが多いのも特徴といえます。
注意点
不動産会社が代理になっている場合、貸主の代わりに取引ができる状態です。そのため、貸主の意向が強く反映していることから、家賃交渉や初期費用の減額などの交渉そのものに応じないケースも存在します。
取引態様が「貸主」のメリット・注意点
取引態様が「貸主」の場合、大きな特徴は「宅地建物取引業法の適用外」である点です。
この法律は賃貸住宅において、不動産会社の行動を制限するとともに借主に対して重要な事項を説明する義務を設けるなど、正常な取引に導く側面が存在します。
そのため、借主が自ら書面などで不明点や重要な事項について確認するなど、トラブル回避に向けた知識が求められます。
メリット
大きなメリットは金銭面です。前述のとおり「宅地建物取引業法の適用外」であることから、仲介手数料の対象とはなりません。また貸主自らと交渉するため、敷金・礼金などの初期費用や、毎月の家賃・共益費などの値引き交渉が行いやすい点があげられます。
また意思決定の速さも特徴的で、短期間で賃貸住宅を決定したい場合には大きな利点となるでしょう。
注意点
宅地建物取引業法の適用外となるため、行政による監督指導の対象外です。さらに、重要事項説明の責任義務も不動産会社が負わないことから、家賃の支払い方法や退去時の原状回復費用、更新時の費用など金銭をはじめとしたトラブルが多い点が懸念されます。
また、契約締結時に仲介手数料は不要ですが、事務手数料などの名目で支払いを求められるケースがあるため注意が必要です。メリットも大きいですが、費用面での注意点があることを知っておきましょう。
取引態様が「仲介(媒介)」のメリット・注意点
賃貸住宅の大多数が「媒介(仲介)」といえます。不動産会社が貸主と借主の間に入り、不動産取引を中立に行うための手助けを行う立場です。
大きな特徴は貸主に対する交渉なども含めて、すべてを不動産会社に実施してもらえる点があげられます。
一般・専任媒介で共通してみられるメリット
家賃や初期費用の交渉、または入居時期など諸条件に対する交渉などを、仲介不動産会社に委任できる点は大きなメリットでしょう。
また、当然ながら宅地建物取引業法が適用されるため、取引の成立にかかわる重要な点を説明する「重要事項説明」も義務付けられているなど、安心して契約を締結することが可能です。
さらに、専属専任や専任契約で依頼すれば、物件探しを不動産会社が行ってくれるため、手間が省けるメリットもあります。
一般媒介のみでみられるメリット
一般媒介で依頼するメリットは「複数の不動産会社に媒介を依頼できる」「理想の物件を見つけやすい」などがあります。複数の不動産会社と媒介契約を交わせるため、理想の物件を見つけやすくなるのがメリットです。
複数の物件の中から自分が好む物件を選べるため、依頼者にとっては広範囲な選択肢が提供されます。そのため依頼者は、自分のニーズや予算に合った物件を見つけやすくなり、不動産会社が提供するアドバイスや情報を元に、より良い選択を行うことが可能です。
専任媒介のみでみられるメリット
専任媒介契約を結ぶことで、不動産会社は依頼者に対して優先的に物件情報を提供します。そのため新しい物件が市場に出た際に、依頼者に最新の情報を迅速に提供することが可能です。
これにより依頼者は、競争の激しい人気物件の争奪戦で優位に立てます。専任媒介契約では、不動産会社が依頼者の代わりに物件を探します。依頼者は手続きの煩雑さやストレスを軽減し、スムーズな引越しの実現が可能です。
一般・専任媒介で共通してみられる注意点
注意点としては、取引態様が「媒介(仲介)」の場合、仲介手数料が必要であることです。
さらに取り扱う物件が多数となるため、仲介する不動産会社の担当者において、物件に対する知識が不足している可能性があることなどが考えられます。
また、あくまで賃貸借契約後のカギ渡しまでが仲介不動産会社の業務となるため、入居時・入居後のトラブルについては仲介した不動産会社ではなく、管理会社との交渉が必要です。
一般媒介のみでみられる注意点
一般媒介で依頼した場合、不動産会社が積極的に物件探しをしてくれないケースもあります。
一般媒介の場合、多くの不動産会社に依頼が可能です。そのため、不動産会社の立場からすれば、せっかく物件を探しても他の不動産会社が探した物件が選ばれてしまう恐れがあります。
この場合、物件探しの効率が悪いため積極的に物件を探してもらえない恐れがあります。
専任媒介のみでみられる注意点
専任媒介の場合、一つの不動産会社にしか物件探しを依頼できません。そのため、複数の不動産会社に依頼するよりも、検討できる物件数が限られます。
また、専属専任媒介契約であれば自分で見つけた物件があっても、媒介契約を交わしている不動産会社に仲介を依頼することが必要です。一般的に自主管理をしている物件の場合、不動産会社を通さずに契約できるため「仲介手数料」を節約できます。
しかし専属専任契約の場合、自分で物件を見つけても不動産会社を介す必要があるため「仲介手数料」が必要になるケースが一般的です。
チェックしておきたい「貸主」と「借主」の関係性
貸主は物件の所有者であり、借主は物件を借りて住む一般顧客を指します。「入居後」は借地借家法により借主が守られる傾向にありますが、「入居前」に注意するべきは、貸主が個人・法人・不動産会社など、どのような立場にあるのかです。
特にトラブルがなければ気にする必要はありませんが、トラブルを回避する観点から、事前に知るべき点でもあります。
賃貸を借りる前に確認すべき取引態様による影響・注意点
賃貸住宅を探す際には取引態様を意識するようにしましょう。初期費用を抑えたいのであれば、取引態様が貸主や代理となる物件を優先的に選ぶことも考えられます。
しかし、トラブルなどを未然に防ぐという意味合いも含め、重要事項説明などを確認して安心して住める物件がどうかを判断したい場合は、仲介や代理を優先すると良いでしょう。
取引態様によって初期費用が異なるため気をつける
仲介手数料だけではなく、敷金・礼金などの初期費用に関する価格交渉の難易度も、取引態様により異なります。
敷金は原状回復費用などを差し引いて将来的に手元に戻る性質がありますが、そうではない仲介手数料や礼金はできるだけ安く済ませたいと考えがちです。引越し費用や家具家電の買い替え費用のためにも、取引態様に応じた交渉を検討してみましょう。ただし気持ちよく契約するためにも、無理難題を押し付けないよう注意してください。。
更新料や原状回復費用の負担の有無なども確認する
入居後や退去後に必要な更新料や原状回復費用などの費用負担については、重要事項説明書に記載されます。しかし取引態様が貸主の場合は、そもそも重要事項説明が不要なため、未確認のまま契約が締結されることも少なくありません。
後々のトラブルを回避するためにも、書面により確認することが重要です。
家賃や間取りだけではなく、取引態様の種類も確認しよう
賃貸住宅を探す際の条件としては立地と家賃、そして間取りが優先されます。その次に、築年数や設備、防犯性などが挙げられるのが一般的であり、取引態様が意識される機会はあまり多くないでしょう。
しかし取引態様により初期費用の金額、トラブルに備える考え方など大きく異なりますので、しっかりと確認したうえで検討することをおすすめします。
これから賃貸物件を探す方は、取引態様にも注目したうえで物件を選びましょう。