
「植物って何で鉢に植えるの?」小さな疑問から壮大なアートを生む、川越発の植物ブランド”KIYOU KAWASHIMA。
江戸時代には城下町として栄え、神社や寺院などの歴史的建造物が多くあり、文化財の数において関東地方では鎌倉市、日光市に次ぐ埼玉県川越市。 戦争や震災、都市開発等により、そのような「歴史都市」を思わせる街並みは限られてきていますが、それでも古き良き街並みが広がるいわゆる「小江戸」と称されるエリアは、いまも観光客のあいだでは人気を誇ります。 img_tag_1川越市駅から徒歩10分ほど、「小江戸」を思わせる古風な家屋が顔を覗かせる。 一方で、例えば「日光江戸村」などのような一般的な観光エリアと異なる点は、観光地というだけでなく普通に住民が暮らしているという点であり、均整の取れた景観のなかで、住居と観光スポットが混在している希少な空間とも言えます。 そんな小江戸エリアのなかで、ガラス張りで一際目立つ外観を持っているのが、クリエイターのカワシマタカヒロさんが営むKIYOU KAWASHIMAと名付けられた植物専門店です。 ▼ 日常に落ちてる”小さな違和感”から、壮大なアートが生まれる img_tag_2 店の名前であると同時に植物ブランドでもあるKIYOU KAWASHIMA。 店内を満たす植物の多くは、鉢に植わっているような一般的なスタイルではなく、靴やカメラ、便器、逆さに吊るされたパソコンデスクなど、一見植物とは無縁な無機物に植えられています。 この特異な見せ方について、カワシマさんは「違和感」というキーワードを元に、以下のように語ってくれました。 「僕は昔から草花が好きなんですが、植木鉢に植わっている植物を見て、違和感のようなものを感じることが多くあったんです」 「というのも植物が本来持っている、巻きついたりへばりついたり、光に向かって上方向に咲いたりっている性質はどこに植えても変わらないんだから、わざわざ植木鉢に植える必要はないんじゃないかって。なのに誰しもがそうしていることが不自然だなあと」 img_tag_3もともとは大学で建築を勉強していたというカワシマさん。花と空間デザインの掛け算はKIYOU KAWASHIMAの大きな特徴。 「別に、靴とかカメラとか、楽器とか、そういう日常的な物のなかに植物が生えていてもいいし、むしろそういうほうが自然なんですよね」 「例えば蘭という植物は地球上で最後の植物と言われていて、だからこそなかなか場所がなかったんですけど、結果的に、土以外でも水分がある所であれば育つことが出来ました。そう考えると、仮に人類が滅びて地球が荒野になったときに、水が残っている便器に蘭が密生する光景というのは、ある意味自然だろうと」 img_tag_4店の隅に置かれた洋式便器。水の底からは植物が力強く生えている。 「僕はもともと“違和感”を抱きやすい性格なんです。分かりやすいところでいうと、満員電車とか。これだけ広い世界なのに、ある一時点において人がパンパンに詰められた状況って、何かおかしいなと。そういうことを感じながら生きてきて、それを好きな植物で表現しているんです」 この“違和感”というのは、出店場所に川越というまちを選んだことにも関係していました。 img_tag_5小江戸の街並み。平日の日中にも関わらず多くの観光客で満たされている。 伝統的な街並みが続く「小江戸」エリア。そのなかにあるガラス張りの植物専門店というのは、街並みとしては“違和感”であり、それこそがカワシマさんの狙いでした。観光客が多いエリアゆえに、「なんだろうこれは?」と興味を持って入ってくれることが多いのです。 一方で川越というまちへの配慮から「異物」であってはならないというカワシマさん。そのため、店内に入ると障子が飾られていたりと、ある程度「調和」を取り入れることで「違和感」というバランスを測っているそうです。 ▼ 簡単なものが溢れている世の中だからこそ、「育てづらい」が価値になる img_tag_6KIYOU KAWASHIMAの名を全国に広めるきっかけとなったハーバリウム。 このように一風変わった見せ方だからこそ、お客さんに「育てづらいでしょ?」と聞かれることもあるといいます。こうした質問についてカワシマさんは、以下のように答えているそうです。 「そりゃやっぱり育てづらいですよ。でも例えば服も同じで、スウェットとかって着やすいけど、基本的にはそれで外に出ないですよね? おしゃれしたいなら、多少着心地が悪くても我慢できる。植物も同じ考え方なんです」 img_tag_7KIYOU KAWASHIMAの色鮮やかな店内。天井からも無数の植物が垂れている。 「いまはインターネットの普及とかもあって、簡単なものが世の中に溢れてる。でもそれって本当にいいことなのかなって。ちょっと苦労したり手が込んでいたりするほうが、自然じゃない? って思うんです」 一般的に言われる”普通”こそ”違和感”であり、”違和感”こそ”普通”であるというカワシマさんの哲学。この考えは、KIYOU KAWASHIMAが世間から注目を受けるきっかけとなったある商品にも影響していました。 それは、ガラス窓越しにきらびやかに光るハーバリウム。今でこそ、とくに女性を中心に注目を受ける存在となりましたが、カワシマさんが始めた当初はあまり知られていなかったといいます。 img_tag_8店内に陳列されたハーバリウム。電球のなかに浸けられている。 デザインを考えて花を摘み、オイルに浸すという、一手間が必要になるハーバリウム。しかしこの工程こそ、カワシマさんにとって”違和感”だったといいます。 「オイルに植物を浸けてボトルに入れるなんて、多分花が本当に好きな人からしたら違和感がある。でもそこが良かった。それも植物のひとつの在り方だなって思うんです」 「当時あんまりハーバリウムが浸透していなかったのも、まさにこの“違和感”が理由だと思っていて。多くの人は、違和感があるからやらない。だからこそ僕は、やるんです」 img_tag_9なかでもカワシマさんお気に入りのハーバリウム。なかには半導体チップが浮かび、明らかな異物感を醸し出している。 いまではハーバリウム作りの体験会などを実施しているカワシマさん。観光地区であると同時に居住地区でもあるため、観光客だけでなく近所の主婦など、幅広い層の人がKIYOU KAWASHIMAを訪れるようになりました。 常識を疑いながらも、調和を忘れないカワシマさん。最後に、店の展望や川越というまちについて、次のとおり話してくれました。 「今後もやっぱり“心地よい違和感”を提供していきたいですね。適度に“調和”を織り交ぜて川越のまちにも順応しながら、何これ? というフックを作っていく」 「川越のなかでも、ここは伝統建築物保存地区と呼ばれる景観に制限があるエリアなんです。こういうある種の“縛り”があるまちだからからこそ、うちみたいな店が存在する理由があると思うんです」 img_tag_10KIYOU KAWASHIMAが店を構える一番街。近所同士で回覧板を回したり情報交換したり、「地域」としても川越に馴染む。 店舗であると同時に、植物ブランドでもあるKIYOU KAWASHIMA。またカワシマさんの生き方自身を表現しているという意味においては、「僕屋さん」でもあるといいます。 日常にある小さな違和感が詰め込まれた不思議な空間。住民も観光者も混在する未知のこの空間は、訪れた人すべてに日常を疑う小さな種をそっと植えつけるようです。 【取材協力】 KIYOU KAWASHIMA プランツクリエイター/カワシマ タカヒロ 店HP:<a href="https://kiyoukawashima.com/">https://kiyoukawashima.com/</a> 【アクセス】 埼玉県川越市幸町3-7 東武東上線川越市駅・西武新宿線本川越駅より徒歩15分ほど 著者:清水翔太 2019/12/5 (執筆当時の情報に基づいています) ※本記事はライターの取材および見解に基づくものであり、ハウスコム社の立場、戦略、意見を代表するものではない場合があります。あらかじめご了承ください。










