デジタル時代に再注目される日本屈指の繊維問屋街、日暮里

近年、大注目を浴びる谷根千エリアが広がる山手線日暮里駅の西口。その反対側の東口に目を向けると、約90店舗もの布製品を取り扱うお店が軒を連ねる日暮里繊維街が広がっています。

日暮里繊維街は一見どこにでもありそうな商店街なのですが、実は近年爆発的に拡大しているハンドクラフト産業を支える生地の一大聖地として、日本国内はもとより海外からも注目されています。

日本屈指の繊維問屋街である日暮里が、デジタル時代に再注目されるのは一体なぜなのでしょうか?



日暮里がデジタル時代に再評価されるようになった経緯を理解するには、日暮里の街の成り立ちを理解する必要があります。

実はかつての日暮里はまだ閑散としていて、明治時代までは浅草に布業者が集中していたのですが、明治に入ると浅草は観光地化してしまい、当時の法律によって布業者は郊外に移転しなければならなくなりました。

立ち退きを迫られた布業者たちは、当時それほど繁栄していなかった日暮里を繊維の街にしようと集団で移動し、新たな繊維問屋街を形成していきました。



平日の昼間にも関わらず大賑わいの日暮里繊維街。老若男女が各々好みの布を探し求めにやってくる。

こうした流れは大正から昭和の終わり頃まで続き、日暮里には衣類などの専門業者向けの卸売り問屋が数多く立ち並んでいたそうです。

しかし高度経済成長期を迎えると、既製品を買う人が増えたことで衣類を手作りする人が激減、さらに衣類メーカー等が生産拠点を海外に移すことで日暮里は徐々に寂れていきます。

衰退の一途を辿っていた日暮里ですが、復活のキッカケになったのが、専門店向けの卸売りから、個人に対する小売への転換でした。



日暮里繊維街でもっとも有名な問屋「TOMATO」。同繊維街で複数店舗を運営しており、服地からインテリアファブリックまで、ありとあらゆる手芸材料が揃っている。「ないものはない」と言われるほど豊富な品揃えが特徴。

生活衣類を手作りする人が減った一方で、趣味で服や手芸を嗜む人が爆発的に増加し、日暮里繊維街はハンドクラフトブームの恩恵を大きく受けることになりました。

現在、ホビー市場全体の市場規模は2兆円に迫る勢いで、編み物、織物、趣味手芸、洋裁といったクラフト市場も約9000億円規模に成長したことによって、クラフト関連の活動を行っている人口は約2000万人にものぼります。

東京ビックサイトで行われているデザインフェスタやクラフトフェア、日本各地で行われている「手作り市」などを見てもその熱量の高さが伺えますが、こうした手作りブームの下支えになっているのがウェブでした。

ここ数年の間で続々と登場した「minne」「iichi」「Creema」を始めとしたCtoCオンラインハンドメイドマーケットの登場で、これまで個人的な趣味として完結していたハンドクラフトが、他の誰かから評価され、時には仕事として成り立ってしまう時代が到来したのです。



こうした時代の変化によって日暮里に訪れるお客さんは、中小の既製服メーカーや洋裁教室の先生など布の取り扱いを生業としていた人々から、趣味でハンドクラフトを行う高齢者やフリマで副業をする人、コスプレの材料を探しにくる若者などへシフトしていきました。

自ら手作りした作品をウェブ上で共有し、それを互いに評価し合ったり売買し合うことが当たり前になったことで、ありとあらゆる人がクリエイターとして活躍できるようになった時代。

こうした時代の大きな流れを日暮里は見逃しませんでした。東京日暮里繊維卸協同組合は日暮里繊維街公式ホームページを設置し、現在では『にっぽり繊維街まっぷ』を作成して、公式ホームページ上で公開しています。

同ホームページ上では日暮里繊維街にあるお店一覧ページがあるのですが、それぞれの店舗がInstagramやTwitterなどを駆使してウェブに対応した販売戦略に取り組んでおり、それは創業100年を迎えようとしている老舗販売店も同様です。


https://www.nippori-senigai.com/shop_category/all/

それぞれの店舗がハンドクラフトブームに合わせてお店のあり方を変えていく一方で、日暮里がある荒川区も同様に「繊維の街 日暮里」を盛り上げる取り組みをはじめました。

荒川区では地域活性化事業として、誰もが自由に活用できる創作スペースやシェア工房の設置が進められており、2021年1月には「荒川区立日暮里地域活性化施設(仮称)」が完成予定です。

同施設では趣味としてのものづくりを楽しむホビー層から、フリマアプリやクラフトフェアなどで販売を行うプロのクリエイターまで、様々なニーズに対応できる機器やサービスの提供を予定しており、日暮里は今後ますますハンドクラフトの聖地として注目を集めることになるでしょう。

ありとあらゆる人がクリエイターになれる現代。もしかすると、あなたが昨日フリマで購入した手作り商品の材料はここ日暮里で調達されたものだったのかもしれません。