最寄り駅から徒歩20分の陸の孤島「砂町銀座商店街」が今日も大繁盛なワケ
日本国内に1万以上あるとされる商店街のうち、客足が常に絶えず繁盛している商店街は1%に満たないと言われており、全国各地でシャッター商店街が問題となっています。
全国の商店街が苦境に立たされる一方で、江東区にある砂町銀座商店街の盛況ぶりは全国的に有名です。
全長670mに約180店舗が軒を連ねる同商店街は、当マガジンでも過去に紹介した十条銀座商店街や戸越銀座商店街と並ぶ東京の「三大銀座」と呼ばれており、平日には約15,000人、休日になると約20,000人もの人々が訪れます。
しかし砂町銀座商店街は最寄り駅の「西大島駅」から歩いて20分もかかり、お世辞にも立地に恵まれているとは言えません。
砂町銀座商店街は、西は明治通り、東は丸八通りに接していますが、地図を見てみると商店街の近くに鉄道駅はなく、どの駅からも1キロ以上離れているため「陸の孤島」のような存在です。
そのため、砂町銀座商店街のリピーターの中には毎日バスを乗り継いで買い物に訪れる人も少なくありません。
アクセス面で少々の不便さを抱える砂町銀座商店街。それにも関わらず、なぜこの商店街は大勢の買い物客で賑わうのでしょうか。
商店街の歴史を遡ると、もともとこの商店街は労働者のための生鮮品を提供する場所として発達したようです。
このエリアはかつて工業地帯で、大日本製糖や東芝を始めとした大企業が工場の拠点を構えており、町工場や運送業などの零細企業も多かったことから、工業地帯で働く働く人たち向けの野菜、肉、魚を扱う生鮮店を中心に砂町銀座商店街は発展しました。
しかし、昭和40年代になると工場は次々と郊外へと移転し、かつての工業地帯が団地へと姿を変えたことによって、衣料品店など消費者の暮らしに寄り添う店が出店するなど、この商店街は周辺住民とともに変化した歴史を持ちます。
このエリアは典型的な住宅街だけあって、砂町銀座商店街から歩いて5分のところには大型ショッピングモールのアリオ北砂、反対側の南砂にはイオンスタイル南砂など、商店街の競合とも言える大型商業施設がこの街にも進出してきました。
それにも関わらず砂町銀座商店街が健闘を続けているのは、この街がテーマ型商店街だからなのでしょう。
砂町銀座商店街は食べ歩きツアーが開催されるほど「食べ歩き」というテーマがハッキリしている商店街です。実際、東京都の商店街の食料品店が占める割合が全体の1割程度なのに対して、砂町銀座商店街では食料品店が占める割合は3割以上と突出しています。
それに加えて、このエリア一体はもともと少々の不便さを抱えた土地であることから、アリオ北砂やイオンスタイル南砂を除けば、大規模な開発が行われていないため土地価格が極端に高騰することなく、物価も低く抑えられているのです。
実際に商店街を歩くと、おでん屋、焼き鳥屋、精肉店など商店街のいたるところに食べ歩き可能な惣菜が販売されていて、いずれも数十円から買い求めることができるなど、圧倒的な安さを実現しています。
砂町銀座商店街の興味深い点は、どこか一店舗が激安商品を提供している訳ではなく、安さというテーマを商店街全体で共有し、集積しているところにあります。
毎月10日に開催される「ばか値市」では普段から安価で販売している商品をさらに値引きして商店街が一体となって店頭化することによって、一つのテーマパークのような雰囲気を作り出しているのです。
当然、こうした取り組みを行えば大勢の人々が商店街に足を運び、決して広くない商店街は大勢の人でいっぱいになります。実はここが砂町銀座商店街を語る上でミソになる要素です。
適度な人混みは何らかの価値がそこにあることを示すバロメーターとして機能し、実際に年末商戦などで生まれる人混みは買い物客にワクワク感を与えるものです。
商店街の生き残り戦略を語る上で、商店街の「テーマパーク化」がよく議論にあがりますが、テーマパーク化を実現する上でワクワク感の醸成は必要不可欠で、砂町銀座商店街は安さという「テーマの集積化」で雰囲気作りに成功しています。
人が集まれば、当然メディアもそこに集まるようになります。メディアによって商店街が外部にさらされることによって、人が集まるということは何かあるに違いないと人々に思わせることにあります。
実際に砂町銀座商店街は「昭和の雰囲気を色濃く残す人情商店街」や「1度は訪れてみたい商店街」など、様々な切り口で各種メディアに取り上げられ、観光的集客を成功させたことによって、ローカル商店街からテーマパーク型商店街へとその姿を変えました。
そうすることで、買い回り品を買う場所としてのショッピングモール、食べ歩き楽しむための商店街といった具合に、近隣にできた大型商業施設とは役割の棲み分けが行われるようになり、ショッピングモールは商店街にとって脅威ではなく、共存すべき仲間になったのです。
最寄り駅から徒歩20分と決して便利ではない場所に立地し、さらに近隣には大型商業施設が登場した砂町銀座商店街。それにも関わらず今日も大勢の客足を集めるその姿にこれからの商店街のあるべき姿を見出すことができます。