古くからあるものを再定義して新しい価値を生み出す最先端の下町、蔵前

渋谷、表参道、青山など東京のおしゃれスポットは東京のウェストサイド(西側)に集中しているのに対して、東京のブルックリンと呼ばれる洗練されたスポットが増えてきたことで近年注目を集めている東京のイーストサイド(東側)。

イーストサイドの中でも一際注目を集めているのが台東区蔵前です。蔵前には玩具や雑貨の卸問屋などが入ったオフィスが立ち並び、周辺エリアには大手玩具メーカーのバンダイやエポックなどの本社が立地するなど、蔵前は東京を代表するものづくりの街です。

そんな蔵前には近年多くのクリエイターが集まるようになり、古いビルを活用したスタイリッシュな飲食店や雑貨店など尖ったテイストのお店が増えてきました。

蔵前に集まる個性的なお店には、既存の商品に新たな価値を見出しこれまでとは異なる視点で商品を提供することで、新しいライフスタイルを提案するという特徴があります。

最先端の下町、蔵前にこうした新しいムーブメントが訪れたのはなぜなのでしょうか。



蔵前が最先端の下町になったヒントはこの街の歴史的背景に隠されています。

そもそもこのエリアが蔵前と呼ばれているのは、江戸幕府の年貢米を貯蔵する「御米蔵(おこめぐら)」が現在の蔵前一丁目から二丁目にかけて広がっていたことに由来します。

そんな蔵前エリアでは1657年の明暦の大火によって数多くの寺社が消失し、寺社の再建を行うにあたって仏具や銀器などを作る職人がこのエリアに集まってきました。

さらに近隣の浅草寺の参拝客向けのお土産を作る職人なども集まってきたことで、次第に蔵前エリアは職人の街になっていきました。

こうした歴史的背景もあって台東区に拠点を構える製造業は約2,900事業所、卸売業は約4,700事業所と東京23区の中でも突出して高く、蔵前は名実ともにものづくりの街なのです。



しかし、そんなものづくりの街、蔵前も時代の波に飲まれていくようになります。商品の生産や加工が海外に次々と流出していく中、台東区の人口は減少し始め、それに伴い廃業率が上昇し始めたことでものづくりの街が揺らぎ始めたのです。

そうした状況に危機感を抱いた台東区はデザビレ(台東デザイナーズビレッジ)という施設を開設しました。これはクリエイターを育成して起業を促す目的で2004年に作られた施設で、廃校となった旧小島小学校をリノベーションして作られました。

ここに所属するクリエイターたちは、小学校の校舎を最長3年間アトリエとして使用することができ、デザビレの卒業生が蔵前エリアでお店を開くことによって、ものづくりの街としての名を守り続けています。



冒頭でも紹介したように、蔵前の個性的なお店の特徴として挙げられるのが「既存の商品に新しい価値を見出し、新しいライフスタイルを提案する」という点です。

例えば、自分だけのノートやインクを作ることができる「カキモリ」というお店は、ペーパーレスの時代における「書く」を再定義して、手紙に綴られた手書きの文字には言葉にならない想いが滲み出るというコンセプトのもと運営されているお店です。

また、「結わえる」という飲食店も新しいライフスタイルを提案する蔵前を代表するお店の一つです。

結わえるではかつて日本人が主食としていた玄米を現在のライフスタイルにあった形で再提案することで、玄米を通じて日本人の食生活やライフスタイルを変えていく取り組みを行っています。





こうした個性的なお店が軒を連ねる蔵前に大きな注目が集まったキッカケとなったのが、アメリカ・サンフランシスコ発祥のチョコレート専門店「ダンデライオン」の蔵前上陸。

近年、クラフトビールやサードウェーブコーヒーを始めとした「クラフトブーム」がチョコレートの分野でも起こっており、良質なカカオ豆にこだわったチョコレート店がアメリカに次々と生まれ、ダンデライオンはその代表格です。

そんなダンデライオンが日本初出店先に、最先端の流行が集まる表参道や原宿ではなく、「蔵前」を選んだことで、これまであまり日の目を浴びてこなかった蔵前に一気に注目が集まることになりました。

ダンデライオンが蔵前を選んだのは同社のクラフト文化と蔵前の相性が良かったことにあります。ダンデライオンは築60年の元倉庫だった場所をリノンベーションして店舗として活用しているのですが、周辺店舗も同様に古い建物をリノベーションして店舗として使用するお店が多く、古いものに新しい価値を吹き込むという意味において、ダンデライオンは蔵前と価値観を共有しているのでしょう。







ダンデライオンの蔵前上陸をキッカケにこのエリアに注目が集まったことで、最先端の下町として蔵前は認識されるようになり、この街は今では東京のブルックリンと人々に認識されるようになりました。

昔ながらの下町文化をベースとして、そこに新しい価値を見出すお店が次々と出店する蔵前。

今後もこの街で生まれる新しいムーブメントから目が離せません。