酵母から培養するあなただけのオンリーワンブレッド、サワードウブレッドを作ってみませんか?粉と水のシンプルな材料から作る自家培養酵母は、作る人や材料、場所、環境で香りや味わいが異なります。できあがったパンは、唯一無二のあなたにしか作れない特別なパンです。
酵母を培養すると聞くと、パン作り上級者だけが楽しむ、難しいパン作りだと思う方も多いのではないでしょうか。しかし、パン作り初心者さんでも大丈夫なので、安心してください。酵母の培養は、材料を混ぜる、放置を繰り返すだけになります。そして、この酵母を使ってパン生地を作ったら、焼いて完成です。
おうち時間をもっと楽しむために、サワードウブレッド作りを一緒に始めてみましょう。
サワードウブレッドとは
サワードウブレッドは、近年海外からの発信を中心に、SNSへの投稿が増えています。日本でも人気が急上昇しており、お店で購入するだけでなく、自分で作る人も増えてきました。
おいしさだけでなく、クープアートなどの見た目の芸術性や栄養価が高いことから、作って楽しい・食べてうれしい・心も体も満たしてくれる素敵なパンです。意外と知らない、サワードウの意味やその特徴、魅力について見ていきましょう。
サワードウってなに?
サワードウは、英語で「Sourdough」と書きます。「Sour」は酸っぱい、「Dough」はパン生地という意味で、サワードウブレッド作りに必要なサワー種(発酵種)のことを言います。
サワードウは、小麦粉またはライ麦粉と水を混ぜて培養する酵母です。市販の酵母を使ったパン作りに比べると、食べられる状態になるまでに長い時間が必要です。そのため、時間をかけることでしか得られない香り、酸味、旨味、複雑な味わいがあります。酵母から育て、時間をかけて生地を仕込み、やっと焼き上がったパンを食べられたときの感動はひとしおです。
ザワータイク、ルヴァン、ライサワー種、サワー種の違い
地理的要因で小麦が育ちにくいドイツでは、栽培しやすいライ麦粉と水で培養された「ザワータイク」、小麦も育つフランスでは、ライ麦または小麦粉と水で培養された「ルヴァン」が使われています。小麦がよく育つアメリカでは、フランスと同じく、ライ麦粉または小麦粉と水で培養された「サワー種(ライ麦粉で培養したものをライサワー種と区別して呼ぶこともあります)」が使われています。
名前は違いますが、実はすべて小麦およびライ麦粉と水で培養した酵母のことです。それぞれの国で呼び名が異なるため、似ているものではありますが、それぞれの名で和訳されています。しかしながら、ドイツのザワータイクはサワー種と和訳されることもあるため、曖昧です。
発酵パンは、古代エジプト時代に、偶然から生まれたと考えられています。それ以前の遺跡では、小麦と水を混ぜた無発酵の平焼きパンやかゆが出土しており、火を通す前のそれらに野生酵母が付着し、偶然発酵パンになった説が有力とされています。
この発酵パンの技術や小麦栽培は、古代ギリシャ、古代ローマへと伝わり、貿易や布教活動とともに、山を越えて海を越え、時間をかけて世界に広がりました。その土地の風土や文明レベルに合わせて、変化と進化を遂げてきたのです。
サワードウブレッドの3つの健康効果
※左:小麦強力粉、中央:小麦全粒粉、右:ライ麦全粒粉
近年、サワードウブレッドが流行った背景には、コロナの流行による世界的なステイホームがありました。長いおうち時間を楽しく過ごす手段として作る人が増え、その健康効果も注目されるようになりました。
全粒粉には、外皮(ふすま)と胚芽が含まれており、栄養価が高いのが特徴です。特に小麦全粒粉では、普通の小麦粉に比べて、亜鉛、鉄分、ビタミンB1、E、葉酸が3倍以上です。さらに、ビタミンB6は5倍以上、マグネシウム、ビオチンは6倍以上、ナイアシンは7倍以上、ほかにも食物繊維が豊富に含まれています。
また、ライ麦全粒粉は小麦全粒粉よりもさらに食物繊維が多く、普通の小麦粉の4倍以上含まれています。これらの栄養素を摂取することで3つの健康効果が期待できるのです。
急な血糖値上昇の抑制
小麦、ライ麦の全粒粉に豊富に含まれる食物繊維は、糖の吸収を遅らせる働きがあります。小麦に含まれる水溶性タンパク質の小麦アルブミンには、食事と一緒に摂取することで血糖値が下がること、小麦ポリフェノールには脂肪の蓄積の抑制と、耐糖能(糖の代謝能力)の低下を抑制する働きがあることが分かっています。
※参照:栄養学雑誌「小麦全粒粉配合パンの食後血糖値上昇抑制効果」
※参照:産総研「小麦ポリフェノールの肥満抑制効果」
腸内環境の改善
全粒粉に含まれる外皮(ふすま)は不溶性食物繊維が豊富で、便通の改善をします。本来、腸内細菌を増やすのは水溶性食物繊維ですが、発酵性食物繊維のアラビノキシランを多く含むため、善玉菌を増やして腸内環境を整える効果もあります。
※参照:日本栄養・食糧学会誌「穀類含有食物繊維の肥満関連指標に対する改善効果に関する研究」
美肌効果
ビタミンB6、ビオチン、ナイアシンなどのビタミンB群は、糖質、タンパク質、脂質の代謝に必要な成分です。特に食事で吸収されたタンパク質は、アミノ酸に分解されたあと、細胞や皮膚、髪、骨、筋肉、コラーゲンなど、体内で必要な形に再合成されます。そのため、十分摂取することで、丈夫な髪の毛、皮膚の育成へつながります。
※参照:文部科学省「食品成分データベース(小麦の栄養素)」
※参照:文部科学省「食品成分データベース(ライムギの栄養素)」
サワードウブレッド作りは大きく3つの工程に分かれている!
サワードウブレッドの魅力を知って、実際に作ってみたくなってきたころではないでしょうか。今回のレシピは、初心者さんでも取り組みやすいように、極力材料を無駄にしない簡単な工程にしています。
メインの材料は、小麦粉、全粒粉(小麦かライ麦)、水、塩の4つです。そして、工程は「①自家培養酵母の培養」「②サワー種(スターター)作り」「③パン作り」の3つになります。
サワードウブレッドの作り方:①自家培養酵母
小麦とライ麦のどちらの全粒粉でも培養できますが、ライ麦のほうが酵母のほかに乳酸菌が増殖しやすく、酸味が強く出やすい特徴があります。好みに合わせて選びましょう。
必要な材料と道具
・小麦全粒粉またはライ麦全粒粉(細挽き推奨)
・湯冷まし
・煮沸した瓶(500ml前後推奨)
・清潔なスプーン、ヘラ
STEP1. 全粒粉10gと湯冷まし10gをよく混ぜて放置を繰り返す
この工程には、全粒粉内や空気中に浮遊する酵母に餌を与えて、増やす目的があります。新鮮な餌と空気を送ることを繰り返し、温度を適切に保つことで増殖が活発になり、元気な酵母に育てられます。最低でも、3回は繰り返しましょう。
①1回目
瓶に全粒粉10g、湯冷まし10gをよく混ぜ、20度以上25度以下の環境に24時間放置します。余裕があれば、12時間経過時に清潔なスプーンでかき混ぜ、新しい空気を送り込みましょう。
マスキングテープで増えたことが分かるように、印をつけておきます。また、蓋は閉めずにかぶせておきましょう。(新しい空気が入るようにします)変化がなくても、次の工程へ進んでください。
温度管理が成功のカギになるので、エアコンなどを使用し、室温を20度から25度に保ちましょう。
②2回目
➀に全粒粉10g、湯冷まし10gを加えてよく混ぜ、20度以上25度以下の環境に24時間放置します。余裕があれば、12時間経過時に清潔なスプーンでかき混ぜ、新しい空気を送り込みましょう。
マスキングテープの位置を変えることを忘れないようしましょう。また、蓋は閉めずにかぶせておきます。(新しい空気が入るようにします)
生地の中に、小さな泡ができるようになります。
※小さな泡ができ始めた様子
24時間以内に2倍になったら、残りの時間は冷蔵庫で休ませましょう。変化がなくても、次の工程へ進みます。
※2倍になった様子(マスキングテープを貼っていない側面から撮影)
③3回目
②を繰り返します。24時間以内には、2倍に膨らむようになります。
※4~6時間で2倍になった様子、大きい気泡も多数見られます。
膨らまない場合は、温度が低いことが考えられます。直射日光の当たらない温かい場所に置くか、エアコンで室温調整をしましょう。
STEP2. 全粒粉60gと湯冷まし60gをよく混ぜて、より生地を膨らませる
この工程では、STEP1で培養した酵母に、パンを膨らませる力があるかをチェックします。
全粒粉60g、湯冷まし60gをよく混ぜ、マスキングテープの位置をずらします。20度以上25度以下の環境に置いて、4~6時間で2倍になれば完成です。
STEP3. もし膨らまないのならば…
もし膨らまない場合に考えられる原因は温度です。20度を下回ると、膨らむスピードが大幅に落ちます。室温が20度以上25度以下になるよう、エアコンなどでコントロールしましょう。
このとき、生地の上に水分が溜まっていたら、酵母が餌不足になっています。120gを取り除き(この作業を捨て種といいます)、④をもう一度します。取り除いたものは、パンケーキやクッキー、クラッカーの生地に加えて焼くことで、食べられます。
※餌不足の様子
サワードウブレッドの作り方:②サワー種(スターター)
この工程では、酵母にパン生地作りで使う小麦粉を与えて、餌の変化に対応させる目的があります。そのまま使うよりも、安定して膨らむ効果が得られます。
必要な材料と道具
・自家培養酵母40g
・小麦強力粉80g
・ぬるま湯80g
・煮沸した瓶(500ml前後推奨)
・清潔なスプーン、ヘラ
STEP1. サワー種40gに80gのぬるま湯を入れてよく溶かす
自家培養酵母40gに、80gのぬるま湯を入れてよく溶かします。
STEP2. 小麦粉80gを入れよくかき混ぜて、倍の大きさになるまで発酵
小麦強力粉80gを入れてよくかき混ぜて、20度以上25度以下の環境で、2倍になるまで発酵します。(4~6時間)
※2倍になった様子
膨らまない場合は、温度が低いことが考えられます。直射日光の当たらない温かい場所に置くか、エアコンで室温調整をしましょう。
サワードウブレッドの作り方:③パン作り
ここまで来たら、あと少しです。パン作りを楽しみましょう。
必要な材料と道具
・小麦強力粉160g
・全粒粉(小麦強力粉タイプ)40g
・ぬるま湯100g
・サワー種スターター全量200g(うち全粒粉20g、小麦強力粉80g、水100g)
・塩5g
・ぬるま湯10g※塩を溶かす用
・サラダ油適量※離型用
・米粉または小麦強力粉適量※打ち粉用
・ゴムベラ
・スケッパー(カード)
・ボール
・ラップ
・オーブン
・オーブン使用可の蓋付き鍋18cmもしくはボール
・コルプ型、ボール
・綿か麻の布巾
STEP1. サワー種(スターター)を攪拌
前工程で作ったサワー種(スターター)をボールに入れ、ぬるま湯を注ぎ、よく混ぜます。このとき、サワー種が入っていた瓶でぬるま湯を計量し、よく振ってからボールに注ぐことで、サワー種を余すことなく使えます。
STEP2. 小麦粉を入れよくこねていく
小麦強力粉と全粒粉を入れ、ゴムベラでよく混ぜてひとかたまりにし、ラップをかけて30分放置します。
最初はべたつくため、ボールから出したら20回ほど台にこすりつけて、大きく広げて集めるを繰り返します。
台離れがよくなったら塩をまぶし、ぬるま湯を手に付けて馴染ませ、膜ができるまでこねたら完了です。
30分放置することで、粉と水が馴染み、作業がしやすくなります。塩には、パン生地を硬くする効果と、酵母の発酵を抑える効果があります。後入れすることでこねやすく、発酵しやすい状態になるのです。
STEP3. 20度以上25度以下の場所で2倍の大きさになるまで放置する
生地を丸めて張らせたら、サラダ油を塗ったボールに入れ、乾燥しないようにラップをかけます。20度以上25度以下の場所で、2倍になるまで放置します。(4~6時間)
ボールにサラダ油を塗ることで、ボールにパン生地が張り付いてしまうのを防ぎます。
STEP4. 表面全体に小麦粉をまぶしたら生地を取り出す
④パン生地が台に張り付くのを防ぐため、表面全体に小麦粉をまぶしてボールを返し、そっと生地を取り出します。
膨らんだパン生地が潰れないように、自重で落ちてくるのを待ちます。
STEP5. 生地を発酵していく
上下、左右、対角の順に生地の中心でくっつけ、仕上げに米粉または強力粉をまぶします。
生地がちょうど入るサイズのコルプ型やボールに布巾をかぶせ、米粉または小麦強力粉をふるいます。パン生地のつるっとしたほうが下になるように入れて、布巾で包み込み、20度以上25度以下の場所で発酵させます。(90分~2時間)
米粉のほうがべたつきにくく、型に張り付きにくいのでおすすめです。
丸く膨らみ、指で生地を押したときに、ゆっくり戻ってくるがうっすら跡が残る程度で発酵完了です。
STEP6. オーブンの予熱をしていく(250度)
発酵完了に合わせて、オーブンを温めておきます。⑧天板と、オーブン使用可の蓋付き鍋(18センチ)またはボールを入れ、オーブン予熱250度で温めます。
STEP7. 250℃20分、蓋を外して230度に下げて20分で完成
パン生地をオーブンシートにそっと取り出し、濡らしたナイフで薄く好きな切れ目を入れます。
十字かシャープがおすすめです。
アツアツの鍋にオーブンシートごと生地を入れ、蓋をしてオーブンへ入れます。ボールの場合は先に生地を天板に乗せ、ボールをかぶせます。
250℃20分、蓋、ボールを外して230度に下げて、20分で完成です。
鍋に入れて焼くことで、蒸気が逃げずにクープが開きやすくなり、エッジが立ちます。最後に蓋を外すことで蒸気を逃がして焼き色を付け、バリっとしたクラスト(パンの皮部分)に仕上げたら完成です。
おうちでサワードウブレッド作りを楽しんでみよう!
順番にポイントを押さえて進めれば、誰でもできるサワードウブレッドが完成します。酵母の観察を楽しんだり、パン作りを楽しんだり、食べることを楽しんだり、楽しみ方はいろいろです。
あなただけのオンリーワンブレッド作り、サワードウブレッド作りを楽しんでみましょう!