限られたスペースで家庭菜園に挑戦してみたいけれど、「初心者でも大丈夫?」「どんな野菜を植えればいい?」と悩んでいる方も多いでしょう。プランターで野菜を栽培すれば、小さなスペースでも手軽に野菜づくりを楽しめます。
そこで今回は、農家としての経験をもとに、プランター栽培におすすめの野菜や果物、ハーブなどをご紹介します。プランター栽培に適した土や肥料の選び方から、日々のお世話の方法なども紹介しているので、ぜひ参考にしてみてください。
プランターで野菜を栽培する魅力
ここでは、プランターで野菜を栽培する魅力をご紹介します。
初心者でも手軽に家庭菜園を始められる
プランターを使うと、機械を使用した土づくりなどの大がかりな準備が不要で、初心者でも手軽に家庭菜園を始められます。専門的な知識がなくても、必要な道具をそろえるだけですぐに始められ、失敗してもやり直せることが特徴です。
また畑で野菜を育てる場合は、同じ土壌に何度も野菜を植えるので、病気などの連作障害が問題になることがあります。一方、プランター栽培の場合は毎回土をリセットできるので、連作障害のリスクを回避できるメリットもあります。
新鮮な野菜を収穫できる
自分で野菜を育てると、収穫した野菜をすぐに食卓へ並べられます。とれたての新鮮な野菜を味わえるのは、家庭菜園の醍醐味であり、市販のものより香りが高く、風味も豊かです。また、農薬や肥料の使用なども自分で調整できるので、減農薬や有機栽培に挑戦することも可能です。
小さなスペースでも楽しめる
プランターで野菜を栽培する大きなメリットは、限られたスペースでも野菜を育てられることです。庭の一角やベランダ、窓際など小さなスペースでも設置できるため、賃貸物件でも気軽に家庭菜園を楽しめます。
プランターで野菜を栽培する際に必要になるもの

プランター栽培に必要な基本的なものをご紹介します。
プランター
市販されているプランターにはさまざまなサイズのものがあるので、育てたい野菜に合ったものを選ぶことが重要です。容量が小さすぎると生育が悪くなってしまうため、根が深く張るトマトなどの果菜や大根などの根菜は、プランターの深さが30cm以上あると安心です。一方、レタスなどの葉物野菜は根があまり深く張らないため、深さ20cm前後でも育てられます。
鉢底石
鉢底石とは、土を入れる前にプランターの底に敷く石のことで、土の流出を防いだり、水はけをよくしたりする効果があります。
培養土
野菜用培養土は、さまざまな種類が販売されています。なかには野菜ごとに適した配合になっているものや、果樹用、ハーブ用、オーガニック栽培用の培養土などもあります。これらは、野菜の初期生育に必要な堆肥、肥料などがバランスよく配合されているので、初心者でも失敗しにくいです。
肥料
野菜が順調に生育するためには、その野菜に適した肥料が必要です。肥料には、種まきや苗の植え付け前に土に施す「元肥」と、栽培中に追加で与える「追肥」があります。
野菜の種・苗
野菜を育てるには、種から育てる方法と苗から育てる方法があります。種から育てる場合は、発芽させるのが難しい野菜があったり、発芽してもうまく育たなかったりすることがあります。初心者の方は、まず市販されている苗から挑戦してみるのがおすすめです。
また、移植を嫌うにんじんや大根といった根菜は、種から育てるほうがよい場合があります。初めてでも種から育ててみたい方は、根菜や栽培期間の短い葉物野菜から挑戦してみるのもおすすめです。逆に、栽培期間が長くなるトマトなどの果菜のほうが、種から育てる難易度は高くなります。
道具類
プランター栽培で基本的に必要になる道具は、水やりのためのじょうろ、土を混ぜたりするための移植ゴテ、野菜を剪定したり収穫したりするための園芸ばさみなどです。そのほか、トマトなどの背が高くなる野菜には支柱、きゅうりなどつるが伸びる野菜には園芸ネットなどが必要になります。
プランター栽培におすすめの野菜

ここでは、私がこれまで農家として栽培してきた野菜のなかから、プランター栽培に特におすすめの野菜をご紹介します。
葉物野菜
家庭菜園初心者の方に特におすすめなのが、栽培期間の短い葉物野菜です。
レタス
種まき時期:春(3〜4月)、秋(9〜10月)
収穫時期:種まきから約30~60日
レタスは暑さに弱いので、真夏は避けて栽培します。レタスの種は「好光性種子」といって、発芽の際に光を必要とするため、あまり土の深くに種をまかないようにしましょう。
レタスは、ホームセンターなどで苗として販売されていることも多いので、苗から育ててみるのもおすすめです。玉レタスやリーフレタス、さらにお手軽に育てられるベビーリーフなども販売されているので、いろいろ試してみてください。
小松菜
種まき時期:春(3〜5月)、秋(9〜10月)が最適
収穫時期:種まきから約30〜40日
発芽しやすく成長も早いので、育てやすい野菜です。寒さにも強いので、冬にも育てられます。ただし小松菜などのアブラナ科野菜は、モンシロチョウなどの害虫の被害に遭うことが多いです。種まき時から、防虫ネットを設置するなどして防除しましょう。
ほうれん草
種まき時期:秋(9〜10月)が最適、春(3〜4月)
収穫時期:種まきから約40〜50日
ほうれん草は寒さに強く、特に冬に育てると甘みが増しておいしくなります。一般的なほうれん草から、ちぢみほうれん草、サラダほうれん草などの種も販売されています。小松菜などのアブラナ科野菜よりは少し成長に時間がかかりますが、種まきから比較的早く収穫できるので、プランター栽培におすすめです。
根菜
前述したように、根菜は移植を嫌うため、基本的にはプランターに直接種をまきましょう。土のなかにできる野菜のため、プランターは深めのほうがよいですが、品種を選べば浅めのプランターでも栽培できます。
ラディッシュ
種まき時期:春(3〜4月)、秋(9〜10月)
収穫時期:種まきから約30日
「二十日大根」とも呼ばれるラディッシュは、種まきから収穫までの期間が短いため、プランター栽培を手軽に始めてみたい方には特におすすめです。種も大きいのでまきやすく、水と温度が適していれば、発芽も比較的容易です。株間も5cm程度なので、1つのプランターで複数株育てられます。収穫も、種まきから1ヶ月前後と早いので、ぜひチャレンジしてみてください。
大根
種まき時期:秋(9〜10月)
収穫時期:種まきから約60〜70日
大根もラディッシュ同様に種が大きく、発芽も比較的容易なため、プランター栽培におすすめです。根が深く伸びていくため、深さ30cm以上のプランターを準備しましょう。大根は、地上の葉も大きく成長するため、株間も広めにとることが重要です。
品種もさまざまで、普通の長い大根からミニ大根、カラフルな大根なども販売されています。プランターでは、ミニ大根などの短めの大根がおすすめです。
にんじん
種まき時期:春(3〜4月)、夏(6〜7月)
収穫時期:種まきから約90〜120日
にんじんも、一般的なにんじんからミニ品種まであるので、プランターのサイズに合わせて選ぶとよいでしょう。にんじんを育てる場合の注意点としては、レタスと同じく発芽の際に光を必要とする好光性種子のため、深く種をまかないようにしましょう。
また、にんじんは発芽率が低めなので、発芽するまで土を乾かさないことと、少し多めに種まきをするのがおすすめです。
果菜
葉物野菜や根菜と比べると難易度は高くなる果菜ですが、栽培期間が長い分、収穫できたときの喜びもひとしおです。ここで紹介する果菜は、成長するにつれて背が高くなり、支柱が必要になります。また、株間も40cm以上と広めにとらなければならないので、大きめのプランターを準備するか、1つのプランターに1株植えるようにしましょう。
ミニトマト
植え付け時期:春(4~5月)
収穫時期:植え付けから約50〜60日
家庭菜園といえば王道のトマトですが、実は病気や湿気などに弱く、日当たりが悪いとうまく育たないなどデリケートな面もあります。そんなトマトでも、ミニトマトは病気などにも強く、プランターで栽培するのに特におすすめです。
花が咲いても実がならないといった問題が多いトマトですが、ミニトマトのほうが実もなりやすいです。黄色やオレンジなどカラフルな品種や、甘くなる品種などが販売されているなど、品種による味の違いも楽しめます。
きゅうり
植え付け時期:春(4〜5月)
収穫時期:植え付けから約40〜50日
きゅうりも、家庭菜園ではメジャーな野菜の1つです。トマトよりも成長が早く、収穫までの期間が短いため、プランターでも栽培しやすい野菜です。注意点としては、きゅうりが水切れに弱く、乾燥すると「うどんこ病」などにかかりやすくなることが挙げられます。そのため、毎日の細かなお世話が重要です。
ゴーヤ
植え付け時期:春(5〜6月)
収穫時期:植え付けから約60〜70日
健康効果が高いとされるゴーヤは、暑さや病気に強く、プランターでも栽培できます。特にベランダで、支柱とネットを設置して栽培すると、真夏に光を遮る緑のカーテンとしても楽しめます。
注意点は、実がなるために、雄花と雌花で受粉が必要な野菜であることです。畑とは違って、虫があまりいない住宅地の場合は、人工授粉をする必要があります。また、寒さには弱いので、霜が降りないようになってから、苗を植え付けましょう。
農家直伝!プランターで野菜を上手に育てる方法

農家である私が、プランターで野菜を上手に育てる方法を解説します。
プランター栽培に適した土や肥料の選び方
畑で野菜を栽培する場合は、土壌の栄養素のバランスを見ながら、野菜に必要な肥料を土に加えていきます。プランター栽培の場合は、野菜用培養土を使用するのが便利です。肥料には化学肥料と有機肥料があり、化学肥料は効きが早く、有機肥料は効きがゆっくりという特徴があります。
土や肥料を選ぶ際に気を付けたいのが、野菜によって生育に必要な肥料のバランスが異なることです。野菜ごとに特に必要な栄養素は、葉物:窒素、根菜:カリウム、果菜:リン酸といわれており、これらが十分に含まれているかを意識してみてください。
水やりなど毎日のお世話の基本
水やりは午前中に行い、夕方には土の表面が乾いている状態が理想です。表面を濡らすだけではなく、底まで水が行き渡っているかどうかを確認します。また、水をやりすぎてなかなか土が乾かない状態だと、根腐れや病気の原因になってしまいます。
水やりのポイントは、水を野菜の葉にかけるのではなく、土にかけることです。水が葉にかかると、カビなどが発生して、病気を引き起こす原因になることがあります。
また、特にトマトなどの果菜は、脇芽や不要な葉をとるなどの日々のお世話が必要です。作業は晴れた午前中に行い、切り口を乾かしてあげましょう。切り口が濡れたままだと、そこから病原菌が侵入してしまうことがあります。
害虫や病気の予防と対策
せっかく育てた野菜が、害虫や病気で収穫できなくなることを避けるために、対策しておくことをおすすめします。害虫や病気は、出てしまってからでは抑えるのが難しくなるので、予防が大切です。野菜同士の間隔が狭かったり、葉が混み合っていたりすると、害虫や病気の発生が多くなります。適切な株間で植えることや、風通しをよくするための選定を行うと効果的です。
農薬を使う場合は、苗の植え付け時から使えるものがあるので、早めに使うことで害虫や病気の発生を予防できます。無農薬で栽培する場合は、種まきや植え付けのときからプランター全体を防虫ネットで囲み、毎日葉裏などもよく観察して、害虫や病気の葉は見つけ次第取り除きましょう。
野菜以外にもプランターで育てられるハーブや果物
普段は農家として畑で野菜を育てていますが、果物やハーブは今でもプランターで栽培しています。果物は地植えしてしまうと後で移動できない、ハーブは繁殖力が強すぎるなど、畑に植えるよりプランターで栽培したほうがよいものもあります。
これまでプランターで栽培してきたなかで、おすすめの果物やハーブを見ていきましょう。
プランター栽培におすすめのハーブ3選
プランター栽培におすすめのハーブは、以下の3つです。
バジル
種まき時期:春(4〜5月)
収穫時期:種まきから約30~60日
料理に日常的に使うバジルは、自分で育てると新鮮で、より豊かな香りが楽しめます。ホームセンターで苗もよく販売されており、成長も早いため、育てやすいハーブです。トマトとの相性もよいので、一緒に育ててみるのもおすすめです。
ミント
種まき時期:春(4〜5月)
収穫時期:通年
ハーブティーやスイーツにも使えるミントは繁殖力が強いため、プランター栽培に最適です。自宅で栽培したミントを収穫し、フレッシュハーブティーを楽しめます。
ローズマリー
種まき時期:春(4〜5月)
収穫時期:通年
肉料理や魚料理にぴったりのローズマリーも、プランターでよく育ちます。多年草なので、一度植えると毎年収穫することが可能です。春には紫色の花が咲き、目でも楽しめます。
プランターで楽しめる果物3選
プランターで楽しめる果物は、以下の3つです。
イチゴ
植え付け時期:秋(9〜10月)
収穫時期:翌年の春(4〜6月)
イチゴは、植え付け時期の秋になるとたくさんの苗が販売され、栽培スペースも小さくてすむので、プランター栽培に特におすすめの果物です。できた実は害虫の被害に遭いやすいので、防虫ネットなどでしっかり対策しましょう。
ブルーベリー
植え付け時期:春(3〜4月)または秋(10〜11月)
収穫時期:夏(6〜8月)
ブルーベリーは、プランターでも実がなりやすい果樹です。酸性土壌を好むため、ブルーベリー専用の培養土を使用するとよいでしょう。1本だけ植えるよりも、複数の品種を植えると受粉率が高まります。収穫期には、鳥の食害に気を付けましょう。
ユズ
植え付け時期:春(3〜4月)
収穫時期:夏(11〜12月)
地植えにすると大きくなるユズは、プランターに植えるとあまり大きくならず、病気にも強いため育てやすいです。苗を購入して植えると、植えてから3年ほどで実を収穫できます。
おしゃれなキッチンガーデンを始めてみよう
プランター栽培では、料理によく使うハーブや野菜を集めたキッチンガーデンを楽しめます。1つのプランターに、複数種類の野菜やハーブを寄せ植えすることで、実用的で見た目もおしゃれな菜園になります。
ベランダや庭に十分なスペースがない方も、料理を彩るハーブやベビーリーフなどを窓際で栽培することで、新鮮な野菜をキッチンで収穫してそのまま料理に使うことが可能です。
賃貸物件でプランター栽培をする場合の注意点と物件条件

ここでは、賃貸物件でプランター栽培をする場合の注意点と、物件条件について見ていきましょう。
栽培に利用する場所が共用部分か専有部分かを事前に調べておく
賃貸物件でプランター栽培を始める前に、利用する場所が共用部分か専有部分かを確認することが重要です。廊下や共有テラスなどの共有部分にプランターを置くことは、ほかの住人の迷惑になるだけでなく、規約違反に該当する可能性もあるため、避けましょう。
専有部分であっても栽培上注意したい点
上記で紹介の通り、共有部分か専有部分かを調べることは大切ですが、専有部分であったとしてもどのような利用をしてもいいわけではない点に注意しましょう。集合住宅でのプランター栽培は、以下の問題が発生しやすい傾向にあります。
排水口を土や落ち葉で詰まらせてしまう可能性がある
プランター栽培で利用している土や、植物から枯れ落ちた葉っぱなどが排水口を詰まらせてしまうリスクがあります。水があふれて下の階や隣に被害を与えてしまう可能性に注意してください。排水溝の定期的な清掃を心がけましょう。
隣人に迷惑がかかる可能性がある
プランター栽培で虫が発生したり、管理が不十分なために悪臭が発生したりすると、隣人に迷惑がかかります。またお世話を怠ると、植物のツルや落ち葉が隣に侵入する可能性もあります。毎日の世話と隣(下の階含む)への気遣いを忘れないようにしましょう。
安全面に十分注意する
プランターを不安定な場所に設置していたり、固定が不十分だったりすると、強風や地震で落下してしまう可能性があります。通行人や他の住人に危険が及ぶ可能性があるので十分注意しましょう。また、避難はしごを塞いでしまい避難経路を確保できなくなることも、考えられますので、安全面は常に意識してください。
野菜栽培には南向き物件がおすすめ
家庭菜園で育てる野菜は、日光を好むものが多いため、南向きの物件が野菜栽培に最適です。葉物野菜など、日陰でも育つ野菜はありますが、特にトマトなどの果菜は日当たりが悪いと実が付きにくくなります。南向きのベランダやバルコニーがあれば、十分な日照時間が確保でき、育てられる野菜の種類が多くなります。
専用の庭が付いた物件も要チェック
専用庭付きの物件では、より広いスペースを確保できるため、さらに本格的な家庭菜園を楽しめます。大きめのプランターや複数のプランターを設置したり、おしゃれなシェルフを設置したり、より自由に野菜を育てることが可能です。
ルーフバルコニー活用時の注意点
ルーフバルコニーを活用するときの注意点は、以下のとおりです。
広さ
ルーフバルコニーを活用すると、野菜に十分な太陽の光を供給しやすくなります。比較的広いスペースが確保できるので、複数種類の野菜を育てられます。事前にルーフバルコニーの広さと、設置できるプランターの数やサイズを確認することが重要です。
排水管理
ルーフバルコニーでのプランター栽培では、排水管理をしっかり行うことが大事です。水やりの際に、排水が床面に流れ出すと、下の階に水漏れする可能性があるので、底面給水タイプのプランターを選ぶとよいでしょう。また、排水口がある場合は定期的に掃除するようにしましょう。
安全対策
ルーフバルコニーは高所ですので、強風や地震によりプランターが不安定になる可能性があります。落下に繋がらないようにプランター自体を固定したり、壁に寄せたりして安全対策をしておきましょう。また、台風などが迫った際は室内に避難させたり、収穫できそうなものは収穫しておいたりといった対策を忘れないようにしてください。
プランター栽培で家庭菜園を楽しもう
プランター栽培をすれば、賃貸物件でも手軽に野菜や果物、ハーブなどを育てられます。初心者の方でも、野菜の選び方や毎日のお世話のコツを押さえれば、失敗しにくい家庭菜園ライフを楽しめます。ぜひプランター栽培で日々の成長を楽しみながら、新鮮な野菜を味わってみませんか?

