個人事業主として賃貸物件を借りる際、入居審査が厳しくて困った経験がある人もいるでしょう。会社員に比べて収入が安定していないと見なされることが多く、特に独立したばかりの個人事業主は審査に通りにくいことがあります。
しかし、適切な準備と対策を講じることで、個人事業主でも賃貸物件を借りることは十分可能です。そこでこの記事では、個人事業主が賃貸審査を通過するための方法や押さえておくべき審査項目について詳しく解説します。また、事務所として借りれなかった場合の対処法やよくある質問についても解説します。
これから賃貸物件を借りようと考えている個人事業主の方は、ぜひ参考にしてみてください。
個人事業主でも賃貸は借りられる?
個人事業主が賃貸物件を借りることは十分可能です。個人事業主であることは賃貸審査においてマイナス要因となることがあるものの、対策を講じることで審査を通過できます。個人事業主であっても一定の収入や信用情報を提示できれば、大家さんにとっても安心感が得られるからです。
たとえば、収入証明書や確定申告書など「事業の安定性」が分かる書類を用意することや、保証人を立てることが挙げられます。これらの対策を取ることで、賃貸審査を通過しやすくなるため、賃貸物件を借りることは可能です。
独立したての個人事業主は賃貸審査に落ちやすい傾向がある
独立したての個人事業主は、収入の安定性や信用情報が不十分であることから入居審査に落ちやすい傾向があります。
たとえば、独立したばかりのころは収入証明書や確定申告書などの書類が揃っていないことから審査において不利になりやすいです。また、売上や収入が少ないケースも多いため、審査機関から家賃の支払い能力が低いと判断されます。
独立したばかりの個人事業主は、賃貸審査に通るために連帯保証人をたてたり、収入を安定させたりするなどの準備が必要です。
個人事業主が賃貸を借りる方法は主に2種類
個人事業主が賃貸物件を借りる方法は、主に「個人契約」と「個人事業契約」の2種類があります。どちらの方法を選ぶかによって必要な書類や審査の基準が異なるため、自身の状況に合った方法を選ぶことが重要です。
ここでは、個人事業主が賃貸物件を借りる2つの方法について解説します。
個人契約
個人契約とは、個人事業主が自身の名義で賃貸物件を借りる方法です。個人の返済能力や信頼性を重視するために、大家さんや保証会社によって信用情報や収入状況が審査されます。
個人契約の場合には以下の書類が必要です。
・収入証明書(確定申告書の写しや納税証明書)
・本人確認書類(運転免許証やマイナンバーカード)
・住民票や印鑑証明書
個人契約では、連帯保証人を立てることで審査に通りやすくなります。個人契約で借りる場合は、収入や信用情報をしっかり整えておくことが重要です。
個人事業契約
個人事業契約とは、個人事業主が事業名義で賃貸物件を借りる方法です。大家さんや保証会社は、事業の安定性や将来性を重視するため、信用度や収益性が審査の対象となります。
個人事業契約の場合には以下の書類が必要です。
・事業計画書
・収支計画書
・収入証明書(確定申告書の写しや納税証明書)
さらに、個人事業の開業届出書や取引状況などを提出することで信用度が高まります。個人事業契約を選ぶ際は、事業の信頼性を示す書類をしっかりと準備することが審査通過のポイントとなります。
個人事業主が押さえておくべき賃貸の審査項目
個人事業主が賃貸物件を借りる際には、いくつかの重要な審査項目があります。これらを事前に準備しておくことで、スムーズな審査通過が期待できます。ここでは、具体的な項目を示しますので確認しておきましょう。
本人確認の書類(運転免許証やマイナンバーカードなど)
本人確認の書類は、賃貸審査において最も基本的な項目です。運転免許証やマイナンバーカード、パスポートなどを準備しましょう。
一般的には、顔写真付きの証明書が必要になります。また、身分証明書のコピーも必要になる場合があるため、予備も用意しておきましょう。
収入証明書(源泉徴収票や所得証明書など)
収入証明書は、個人事業主が安定した収入を得ていることを証明するために必要です。確定申告書の写しや、所得証明書、源泉徴収票などが該当します。
これらの書類を提出することで、収入の安定性や信頼性を示すことが可能です。直近2〜3年分の収入証明を求められることもあるため、最新のものだけでなく過去の書類も保管しておくようにしましょう。
住民票や印鑑証明書
住民票は現住所を確認するために使われ、印鑑証明書は契約書に押印する印鑑が正当なものであることを証明します。これらの書類は、市区町村役場(マイナンバーカードがあればコンビニでも取得可能)で取得可能です。
特に印鑑証明書は発行に時間がかかる場合があるため、早めに準備しておくとスムーズに進められます。契約手続きの際には、忘れずに持参しましょう。
保証会社の審査
賃貸契約には、保証会社の審査があるのが一般的です。保証会社は、賃貸契約者が家賃を支払えない場合に代わりに支払う役割を担います。
個人事業主の場合、収入の安定性が評価のポイントとなります。保証会社の審査に通るためには、前述の収入証明書や事業計画書などを提出し、事業の信頼性を示すことが重要です。
なお、保証会社によって審査方法が異なるケースがあります。複数の保証会社に同時に申し込むことを検討すると、審査通過の可能性が高まるでしょう。
個人事業主の賃貸審査を通りやすくするポイント
個人事業主が賃貸物件の審査を通過するためには、いくつかのポイントを押さえることが重要です。ここでは、個人事業主の審査が通りやすくなるためのポイントを7つ解説します。
収入に見合った家賃の物件を選ぶ
個人事業主が賃貸審査を通過するためには、収入に見合った家賃の物件を選ぶことが重要です。一般的に、家賃は月収の30%以内が適正とされており、これを超えると審査に通りにくくなるため、収入に合った物件を選ぶことが求められます。
たとえば、月収30万円であれば、家賃は9万円以内が理想です。今後の事業収支を見越したうえで無理せず、自分の収入に見合う家賃の物件を選びましょう。
連帯保証人を立てる
連帯保証人を立てることで、賃貸審査が通過しやすくなります。連帯保証人は、借主が家賃を支払えない場合に「代わりに支払う」義務を負う役目です。
そのため、信頼性や経済力が高い連帯保証人を立てることで、審査のハードルが下がることがあります。仕事をしていて収入が安定している親や兄弟がいれば、依頼してみるのがおすすめです。
登記可の物件を探す
個人事業主が賃貸物件を探す際には、登記可能な物件を選ぶことも有効です。事業の所在地として登記できるため「信頼性」が高まります。
また、税務申告や各種許認可の取得には、事業所の正式な所在地が必要です。登記ができる物件であれば、これらの書類に正確な住所を記載することができ、手続きがスムーズに進みます。
さらに、登記可能な物件を選ぶことで、事業の長期的な安定を示し、大家さんや不動産業者に対して信頼を得ることが可能です。あらかじめ、大家さんや管理会社に登記可能な物件かどうかを確認しておきましょう。
事業が安定してから借りる
賃貸審査に通過するためには、事業が安定してから物件を借りることも一つの方法です。事業開始から少なくとも1年以上経過し、安定した収入を得ていることを証明できると、審査において有利に働きます。
一度でも賃貸審査に通過できない場合、「審査不承認」の履歴が残ります。ケースによっては、物件探しの際に不利になることもあるため、無理をしないこともポイントです。
現状の事業規模で賃貸審査に通過するか不安な場合は、ある程度事業を安定させたうえで借りるようにしましょう。
身だしなみや態度に気を遣う
賃貸審査では、身だしなみや態度も重要な要素です。信頼を得るためには、清潔感のある服装や礼儀正しい態度が求められます。
不動産業者や大家さんとの面談時には、ビジネスマナーを守り、誠実な姿勢を示すことが大切です。これにより、信用度を高めることができ、審査通過の可能性が高まります。
大家さんに事情を説明したうえで交渉をする
開業したばかりで収入が安定していない場合は、大家さんに事情を説明して交渉を行うことも審査を通過するためのポイントです。個人事業主としての状況や収入の安定性を詳しく説明し、信頼を得るようにしましょう。
たとえば、事業内容や将来の見通しについて具体的に話すことで、理解を深めてもらえる可能性があります。交渉の際には、今後の収支予測や収入を確保する方法などを細かく説明するようにしましょう。
同居人名義で借りる
個人事業主の場合、同居人名義で賃貸物件を借りる方法があります。同居人が安定した収入である場合、その名義で契約を結ぶことで、審査を通過しやすくなるからです。
たとえば、配偶者やパートナーの名義で契約し、実際には共同生活を営む形をとることが考えられます。この方法により、個人事業主としてのハードルを下げることが可能です。
事務所としても利用可能な住まいを探す際には「事務所可」や「事務所使用の相談可」などの物件を選びましょう。
個人事業主が賃貸を事業所にできなかった場合の対処法
個人事業主が賃貸物件を事業所として利用できない場合でも、事業活動を円滑に進めるための選択肢はいくつかあります。ここでは、具体的な3つの対処法を解説します。これらの方法を活用すれば、業務効率を維持しながら事業を展開することが可能です。
シェアオフィス・コワーキングスペースを利用する
シェアオフィスやコワーキングスペースは、個人事業主にとって非常に便利な選択肢です。これらのスペースを利用することで、初期費用を抑えながら快適な作業環境を得られます。
たとえば、共用の設備や会議室が整っている場合、インターネットやプリンターなどの基本的なオフィス機能を自由に利用できます。日単位なら1日3,000円くらいで利用できて、座席が固定されていないオフィスなら月額でも1〜3万円程度で利用可能です。
独立したオフィスを借りるよりも低コストで利用できるため、経費を抑えることが可能です。
一方で、共用スペースのためプライバシーが確保しにくい点がデメリットです。多くの人がいても仕事に集中できる人は、シェアオフィスやコワーキングスペースがおすすめです。
レンタルオフィスを借りる
レンタルオフィスを借りることで、必要な設備が整った環境で業務がスタートできます。レンタルオフィスには必要な家具や通信設備、会議室などが完備されており、初期投資を抑えつつ即座に業務を開始できるためです。
たとえば、東京や大阪などの都市部には多くのレンタルオフィスがあり、月単位での契約が可能です。完全に独立したオフィスもあるため、プライバシーが守られます。
しかし、レンタルオフィスは便利な立地や充実した設備が提供されるため、月々の利用料が高額になることがあり、月額20万円以上のところもあります。特に、都市部の一等地に位置するレンタルオフィスは、賃料が高く設定されている場合が多いです。そのため、経営計画や予算に応じて、慎重に検討するようにしましょう。
バーチャルオフィスを利用する
バーチャルオフィスとは、物理的なオフィススペースを持たずに、住所や電話番号などのオフィス機能を利用できるサービスです。バーチャルオフィスを利用することで、オフィスを持たずにビジネスを展開できます。
バーチャルオフィスは住所や電話番号などのオフィス機能を提供し、物理的なスペースを必要としません。たとえば、個人事業主が東京の丸の内にバーチャルオフィスを契約すると、以下のような利用が可能です。
・名刺やウェブサイトに「東京都千代田区丸の内」といった一等地の住所を記載し、信頼性が高まる
・クライアントからの郵便物や宅配便は、バーチャルオフィスのスタッフが受け取り、必要に応じて転送してもらえる
・ビジネス用の電話番号が提供され、プロのオペレーターが電話応対を行う
・重要な会議やプレゼンテーションがある場合には、バーチャルオフィスの会議室を一時的に借りて利用できる
使用料も1〜3万円くらいで抑えられるため、コストを抑えつつ、質の高いビジネス運営が可能になります。バーチャルオフィスは、低コストで事業活動を支援する便利なサービスです。
ただし、物理的な作業スペースが確保できないため、作業量が多い事業の場合はスペースが確保できるオフィスを借りるのがおすすめです。
個人事業主が賃貸物件を借りる際によくあるQ&A
ここでは、個人事業主が賃貸物件を借りる際に抱く疑問について、よくある質問とその回答をQ&A形式で解説します。
Q. 自宅で仕事をする場合は居住用で借りられる?
A.はい、可能です。ただし、賃貸契約書で定められた使用目的に従う必要があります。なぜなら居住用賃貸物件では、基本的に住居としての使用が前提となっているためです。
たとえば、在宅ワークやフリーランスの仕事など、騒音や来客が少ない業務であれば、大家さんの許可を得て居住用として借りられます。あらかじめ契約内容を確認し、必要であれば大家さんに相談して許可を得るようにしましょう。
Q. 賃貸物件の家賃を経費で計上できる?
A.はい、計上できます。ただし、居住部分と事業部分を明確に区分する必要があります。理由は、税務上、事業経費として認められる部分と居住費用を明確に分ける必要があるためです。
たとえば、50㎡の部屋のうち30㎡を事業用、20㎡を居住用とする場合、家賃の60%を事業経費として計上することが可能です。このように、面積に基づいて按分することで、適切な経費計上ができます。
Q. なぜ収入が高いのに審査に落ちるのか?
A.収入以外にも、信用情報や安定性が審査の重要なポイントだからです。賃貸審査では収入の他に、過去の賃貸契約履歴やクレジットカードの信用チェック、安定した収入源の有無なども考慮されます。
たとえば、収入が高くても、過去に家賃の滞納歴がある場合や収入が不安定な場合、審査に通らないことがあります。また、保証人の有無や保証会社の審査結果も影響します。そのため、全体的な信用情報や安定性を高めることが重要です。
個人事業主でも賃貸は借りられる!
個人事業主でも賃貸物件を借りることは十分に可能です。独立したての事業主は、収入の不安定さや信用情報の不足により審査に落ちやすい傾向がありますが、適切な対策を講じることで審査を通過する確率が高まります。
また、賃貸物件の審査に落ちた場合でも、シェアオフィスやレンタルオフィスなどを利用して事業を展開できるため、安心です。
それでも、適切な準備と対策を講じれば、個人事業主でも問題なく賃貸物件を借りることが可能です。安定した事業運営を行うことで賃貸審査をクリアし、理想の住まいを手に入れましょう。