
野方の小路で営む、365日営業のDaily Coffee Stand。「やってるかな?」ではなく「そこにある」のが理想のカフェ。
新宿から西武新宿線で約15分ほどの場所に位置する、野方というまち。駅を降りると放射線状に商店街や小路が延び、生活感溢れる街並みが広がります。そんな野方駅から徒歩で1分ほど歩くと、通りの先に洒落たガラス窓が顔を出します。 「Daily Coffee Stand」は3年前にこのまちにオープンし、個人での経営にも関わらず、店名のとおり365日営業というコンセプトを掲げるカフェです。 img_tag_2小路を折れて1分ほど歩くと、コーヒーマークが顔を覗かせる。 img_tag_1白と薄茶色が基調のシンプルな外観。軒先の椅子に座りながら通りを歩く人と話すことも。 「あることが当たり前」になってほしいとの思いではじめたというこの店には、老若男女さまざまなまちの人々が、まるでコンビニにでも入るかのように、ふらっと足を運びます。 野方のまちに生まれたオーナーの小川優さんは、このコンセプトについて、「コーヒー」と「生活」の密接な関係がヒントになっていると、次のように語ってくれました。 img_tag_3小川優さん。もとは広告代理店で働いていたそう。 「コーヒーっていうのは、好きな人にとって、基本的に毎日飲む物だと思うんです。習慣化されているからこそ、『今日は飲むぞ』という意識すらない。飲んでいることが“当たり前”なんです」 「それに、コーヒーというのは飲む目的が人によってかなり異なります。目を覚ましたいとき、一息つきたいとき、集中したいとき…オンオフ関わらず両方飲む。そういう意味で、『コーヒー=生活』というのは自ずと生まれた図式でした」 ▼ 「意識しなきゃできないこと」は「生活」ではない。今日開いてるかな? と思わせないのが大事 img_tag_4 だからこそDaily Coffee Standも、コーヒーという飲み物のように人々の生活に溶け込む存在にしていきたいと考えた小川さん。コーヒーが飲めない日が存在しないように、この店の定休日もありません。このこだわりは徹底しています。 「行きたい店がたまたま休みだったときって、結構ショックですよね。一回でもそういう経験をすると、僕は次から、営業日とかを検索するようになるんですが、この『営業日の検索』という行為も、どこか『生活』とは遠いような気がして」 「今日開いてるのかな? とか思わせることなく『ただそこにある』というのが、やっぱり理想です」 img_tag_5Daily Coffee Standは、住民が集まる「まちのハブ」的な存在。現在、店舗面積の拡大とイベントスペースの併設を検討しているという。(提供:Daily Coffee Stand) このコンセプト通り、取材中にも幼稚園児からお年寄りまで多くのお客さんがふらっと立ち寄り、他愛もない会話を楽しげにして帰っていきます。いまでこそお互いに自然体で話していますが、開店当初は、お客さんとのコミュニケーションも「ルール化」していたと話します。 「例えば常連さんと一見さんが同じ店内にいたとして、僕が常連さんと楽しげに話していたら、一見さんとしては居辛さを感じてしまうんじゃないかって。そういうことを勝手に気にして、あえてどちらにも話しかけないようにしたりとか」 「他にも、お客さんにもその日の気分があるだろうからって、向こうから話しかけられない限り話さないようにしようとか。そういう風に空気を読みすぎることで、暗黙のうちにルールができていたんです」 img_tag_6住民が家族のように寄り集まる。小川さんは「擬似サザエさん」のようだと話す。(提供:Daily Coffee Stand) 「でもコミュニケーションをルール化するのは違うなと思ったんです。そうやって無理してる空気はお客さんに伝わるし、店自体が嘘になる。生活に馴染むと決めたのだから、どう思われても自然体でいこうと」 その結果、いまでは常連さん同士、また常連さんと一見さんが一緒に話したりという光景が当たり前のように見られるようになったと言います。 まちの人にはそれぞれライフスタイルがあり、同じライフスタイルの人と、同じような時間帯に店で顔を合わせる。そこに「毎日営業」という要素が加わり、自然と、無理のないコミュニケーションが生まれるようになったそうです。 ▼ お客さんは、「不特定多数の誰か」ではなく「同じまちの住人」。だからこそ生まれる「緊張」もある img_tag_7 このようにして、まちに必要不可欠な存在となっていったDaily Coffee Stand。野方のまちのゆったりとした時の流れと調和した和やかな店内ですが、いまでもコーヒーを出すときは「緊張」していると、以下のように話してくれました。 「コーヒーって、お酒とかと違って、何杯も注文されるものではないですよね。基本的には一杯です。だから初めて来るお客さんからしたら、その一杯、その一口目で、その店の印象が決まることもあります。これって作り手からしたら緊張しますよね」 img_tag_8 「それに野方は生活のまちで、すぐにみんな顔見知りになるような距離感なんです。僕も野方の住人なので、お客さんは『不特定多数の誰か』というより『同じまちの住人』という意識があって、その近さから来る緊張感というのもあると思います」 こだわり抜き、「緊張」しながら出す一杯のコーヒー。だからこそ、その「出し方」についても考え抜いていると、小川さんは話します。 「味にこだわってはいるけど、そのことを前面に出すようなことはしていません。『〇〇製法で〇〇農園のコーヒーで、フローラルでしょ!』みたいな感じで売ると、飲むときにプレッシャーに感じる人もいます」 「そういう意味で、たった一杯のコーヒーでも、お客さんに口にしてもらう前の流れや雰囲気は重要で。『いまの言い方伝わってないんじゃない』『本当はさっきの人、ラテの方が頼みたかったんじゃない』的なプチ反省会を開くことも結構あります」 img_tag_9「ショット追加」ではなく「ラテ濃いめ」のように、わかりやすく表記されている。 「例えば『コーヒー分かんないからブレンドで』ってお客さんも2パターンいて。本当に何でもいい人と、他のものを注文するのにハードルがあったり迷ったりして結果ブレンドを選ぶ人。前者なら美味しいブレンドをそのまま出しますし、後者ならベストな注文ができるようにコミュニケーションで解決するように心がけます」 このような見極めは、「店員と客」ではなく、「人と人」「住民と住民」という意識のもとで、コミュニケーションを重ねているうちに分かってくるものだと小川さんは話します。 img_tag_10曜日問わず多くの住民でごった返す駅前の商店街。南北に店々が長く伸びる。 そんな小川さんの当初の目標は「カフェを出す」ことではなく、「自分が住んでいるまちを面白くする」ことでした。あくまでも「カフェ」というのは手段でしかなく、その人気ぶりから店舗面積の拡張を考えている一方、他店舗の出店は、いまのところ考えていないと言います。 コーヒーが人々の生活と密接に関係するように、野方の生活にそっと息づくDaily Coffee Stand。車が通ることのできない細い通りは、まちの足音と香ばしいにおいで満たされています。 【取材協力】 Daily Coffee Stand オーナー/小川 優さん 【アクセス】 東京都中野区野方5-31-8 西武新宿線野方駅から徒歩1分ほど 【リンク】 店舗HP <a href="https://www.dailycoffeestand.com">https://www.dailycoffeestand.com</a> インスタグラム <a href="https://www.instagram.com/dailycoffeestand/">https://www.instagram.com/dailycoffeestand/</a> 著者:清水翔太 2019/7/30 (執筆当時の情報に基づいています) ※本記事はライターの取材および見解に基づくものであり、ハウスコム社の立場、戦略、意見を代表するものではない場合があります。あらかじめご了承ください。









