「“大人だから”と躊躇しない」Maker(メイカー)が街の中に遊び場をつくりだす。

JR名古屋駅に直結し、地元の人にも観光客にも人気のショッピングスポット「ジェイアール名古屋タカシマヤ」。この中に「東急ハンズ 名古屋店」が、5階から11階までのフロアに入っています。

圧倒的な品数を誇る「東急ハンズ 名古屋店」でちょっと変わったコーナーとして知られているのが10階にある「男の書斎」や「地球研究室」…。

化石も並ぶこの10階の一角で、作品を展示・販売しているのが、名古屋駅から北にバスで30分ほどいった隣町、豊山町にお住まいの原田直樹さんです。

原田さんのマーブルマシンを買われる方はお子さん連れ、年配の方、女性もいる。お店を通じて受注されていたマーブルマシンは納品のため1週間しか展示できなかったこともある

「ピタゴラスイッチ」でおなじみのピタゴラ装置のようなマーブルマシン、電子工作、そしてオリジナルシンセサイザーなどをつくっている原田さん。
普段は航空機用エンジン部品を組み立てる仕事でサラリーマンをしながら、地域のイベントへの出店や工作ワークショップを行い、東京などで開催されている「Maker Faire(メイカーフェア)」にも遠征して10年になるそうです。



Makerとは、アメリカ発のテクノロジー系DIY工作専門雑誌「Make」から生まれた言葉。この雑誌の読者のように、クリエイティビティを発揮してDIYを楽しむ人のことを指します。

仕事にイベントにと忙しいスケジュールの中、原田さんは「東急ハンズ 名古屋店」やあちこちのイベントで展示・販売しているものをどのようにしてつくってきたのでしょう。

「仕事から帰ってきて夜につくりますね。プリント基板の配線を描いているとテンションが上がります。」という原田さんに、その作業場を見せていただいたところ、そこは見たことのない装置や部品の集まる“からくり秘密基地”のようになっていました。



Makerの原田直樹さん「最初はプリント基板を作る会社に入ったんですよ。でも、仕事自体は印刷屋さんだったんです。製造業についたからといって、必ずしも自分のやりたかったことができるわけではないんですね。」

「あれはなんだろう?」「このスイッチを押したらどうなるのだろう?」と取材をしながら部屋のものに視線を漂わせていると、原田さんは自分の使う道具や部品について次のようにお話ししてくれました。

「“ものをつくるためのもの”も自分でつくりますね。掃除機を改良したり、まっすぐにものが切れるようにするものをつくったり。」

「つくるための部品を探しにこの辺りのホームセンター、ラジコン屋さん、手芸屋さん、100均のお店、あるいは釣具屋さんなんかにも行きますね。あとはだいたい中国の通販サイトで買っています。小さな部品などは100個単位で買うんですけどね。基板工場も深圳(しんせん)にあるんですよ。」



親指の第一関節ほどのサイズの小さな基板を、慣れた手つきで仕上げていく原田さん。

秋葉原の30倍とも言われる規模の電気街がある中国の深圳には、大量生産のメーカーだけでなく、小ロットなMakerに対応する店が数多くあり、100万個ではなく100個の発注も不自然ではありません。

20年くらい前にはまだ国内から部品を集めるしか手段がなく、試作基板を作るだけでも10万、20万という費用がかかったのだそうですが、通販の普及によってその金額は、10分の1、20分の1というところまで下がってきているそうです。

そうして個人でも海外から部品を手軽に入手できるようになった上に、日本の街中では昨今、レーザー加工機や3Dプリンターを使わせてもらえる「街の図工室」のような場所が増えつつあります。

原田さんにおうかがいしたところ、名古屋にも「Maker Lab Nagoya」といった工作好きのボランティアで運営されている工作スペースがあったり、「cre8 BASE KANAYAMA」といった会員制のものづくりスペースができたりしているそうです。

▼ 「DIY (Do it yourself)」ではなく、「DIWO (Do it with others)」。いいものを見つける人も、ものづくりの参加者なのだ。

小学生向けのハンダ付けワークショップ。ものをつくるための道具を持っていないビギナーがものづくりができるようになり、ものづくりはどんどん身近になる。

ここ数年でMakerの作品を発信できるイベントが増えたという原田さんですが、原田さんにとって最も大きな転機となったのは、10年くらい前にYouTubeに作品の動画をアップするようになった時のことだそうです。

「日本語のキャプションをつけてマーブルマシンの動画をアップロードしたんですね。そうしたらYouTubeの人から連絡が来て、『英語で書いてください』と言うんですよ。そうした方が世界の人が理解できると。」

その動画のコメント欄には、「見ほれてしまった」「売ってくれ!」「俺にも売ってくれ!」といった熱いメッセージが寄せられています。

そもそも原田さんが「東急ハンズ 名古屋店」で展示・販売を始めたのも、岐阜県大垣市で一年おきに開催されている「Ogaki Mini Maker Faire」でマーブルマシンを展示していた際に、そのブースに訪れた「東急ハンズ 名古屋店」のフロアスタッフから「店に置かせてほしい」と言われたことがきっかけだったのだそうです。



再生回数400万を超える原田さんの動画。「子供時代は何かをつくったらお母さんや友達に見せて終わってしまっていた。大人になった今は、YouTubeに載せておくと、誰が見ているかわからない。」

「SNSでもリアルでも、プログラミングや電子工作の方ではメイカー同士のつながりがあります。でも、マーブルマシンではつながりがないんですよね。特殊なのでしょうか…?」

そうこぼすほどに、原田さんは極めてニッチなものの知識と経験を積み重ねてきたわけですが、原田さんのマーブルマシンは販売用も全て一人でつくっているためにショッピングモールなどで気軽に出会えないだけで、マーブルマシンに本能的に惹かれるのは実は大多数の人なのでしょう。

マーブルマシンのような、つくっている人に出会わない限り生で見ることのできない面白いものは意外とたくさんあるのかもしれません。

▼ 「おもちゃでも欲しいものがあったら恥ずかしがらずに買う。大人だからと躊躇しません。」



つくることを時々「遊ぶ」という原田さん曰く、「遊ぶのに1年くらいかかった」作品もあるのだとか…。

そんな原田さんはサラッと、「おもちゃでも欲しいものがあったら恥ずかしがらずに買う。大人だからと躊躇している人も、恥ずかしがらずに買ったらいいと思います。」と言います。

そういえば、いつの間にか「欲しい」という気持ちさえ掴みにくくなってしまったような気がします。原田さんのお話をうかがっていると、純粋に欲しいものを選ぶことを続けているうちに、「欲しい」けれど存在しないものを「つくろう」という気持ちに移行していくものなのかもしれないな、と思いました。

「夜勤上がりで起きたばかりです。」と言いつつ、「これは明日、小牧市のイベントで出すんですけどね」といって嬉しそうにマーブルマシンを見せてくれた原田さん。

名古屋市の隣に原田さんの暮らす豊山町、その隣にあるのが小牧市。その中心街にある商店街で開催されてきた「小牧城見市」(こまきしろみいち)では今回、手芸や雑貨なども含めたいろいろな作家が出店する「クリエイターコーナー」というマーケットが企画され、原田さんも作品を出展しました。



愛知のものづくりは、自動車やロボット、航空機、あるいはロケットといった巨大産業のイメージがあります。

しかし、フリマならぬ“クリマ”として開催されている名古屋の「クリエイターズマーケット」の出店者数は約2000人、そこに訪れる人の数は今や6万人を数えるいうことです。

雑貨や食べ物といった分野に加えてこれからは、自分が欲しいものをつくる技術系のクリエイターたちもどんどん増えていくことでしょう。子どもたちにマーブルマシンや電子工作を教えている原田さんの周りにも、そうした将来の芽が育ちつつあります。

「人を楽しませるモノを作らなければ、という義務感は少しだけ。まず自分が楽しむことが大前提です。」という原田さんのような、“大人だから”と我慢しないMakerたちが楽しむほど、街の中に面白いものは増えていくのかもしれません。


著者:関希実子・高橋将人 2019/1/8 (執筆当時の情報に基づいています)
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