「プレハブ住宅」という言葉を聞いたことがある人は多いと思います。しかし、この言葉に「古い」「簡易的」という印象を抱いている人も一定数いるのではないでしょうか。
プレハブ住宅は、近年多くのハウスメーカーが採用している住宅建築の工法の一つです。実は、私たちの身近にもプレハブ工法で建てられた住宅が数多く存在しており、今も立派な新築がこの工法で建ち続けています。そのため、言葉が持つ印象の家ばかりでは決してありません。
今回は、そんな従来の建築方法とは異なる特徴を持つプレハブ住宅について、一緒に見ていきましょう。
「プレハブ住宅」とは
「プレハブ」という言葉は「Pre-fabrication(プレ・ファブリケーション)」の略で、あらかじめ部材を製作しておくことを意味します。プレハブ住宅とは、従来の現場で一から建てる方法とは異なり、柱や梁、床、壁などの主要な部分を可能な限り工場で生産し、それを建築現場に運び込んで組み立てるシステムを採用した住宅のことを指します。
プレハブ住宅の最大の特徴は、工場での部材生産によって品質が安定し、工期を短縮できること、その結果としてコストダウンが可能になることです。これらの利点により、多くのハウスメーカーがプレハブ住宅の研究開発に力を入れ、独自の工法や構造を開発してきました。
プレハブ住宅の歴史
プレハブ住宅は近代的な建築方式ですが、意外に長い歴史があります。日本におけるプレハブ住宅の歴史は、1960年頃の高度経済成長期に始まりました。戦後の深刻な住宅難と都市部への人口流入を背景に、短期間で大量生産が可能なプレハブ住宅が注目されるようになったのです。
1959年に大和ハウス工業が「ミゼットハウス」を発表し、これを皮切りに多くのメーカーが参入しました。1960年には積水ハウスが「セキスイハウスA型」を、1961年には松下電工(現パナソニック)が「松下1号型住宅」を発表しています。
1960年代前半は主に平屋建てで簡素な造りのプレハブ住宅が主流でした。当初は冒頭でも触れた通り、「画一的なデザイン」や「安普請」というイメージがありましたが、技術の進歩や競争によって次第に品質が向上していきます。
ミサワホームも1960年に木質パネル工法による住宅を開発し、その後ヒット商品を次々と生み出しました。1960年代末にはプレハブ住宅が大きな市場をもつ産業となり、多くの企業が住宅事業に参入しました。
近年、プレハブ工法で建てられる新築住宅の割合は約13~15%で推移しています。(国土交通省「令和5年度 住宅経済関連データ」より)特に賃貸アパート建設では、短い工期や安定した品質、コスト削減効果から人気を集めています。次に、プレハブ住宅と従来の住宅工法との違いを解説していきましょう。
木造軸組み工法との違い
木造軸組み工法は日本の在来工法で、柱や梁で家を支える構造です。プレハブ工法が工場生産部材を使用し、現場での施工時間を短縮するのに対し、木造軸組み工法は現場での施工が主体となります。
形状や間取りの自由度が高く、リフォームや増改築もしやすいのが特徴ですが、建設期間は長くなります。ただし、最近では木造軸組み工法でも壁パネルを工場で組み立てるプレハブ的な手法が採用されることもあり、両者の境界は以前ほど明確ではなくなっています。
2×4(ツーバイフォー)工法との違い
2×4工法は、2インチ×4インチの木材を主に使用する木造枠組壁構法です。この工法は主に北米から伝わり、面で建物を支える構造で、耐震性や気密性に優れています。
2×4工法は規格化された材料を使用するため、工期が短く、品質が安定しているのが特徴です。一方で、リフォーム・増改築の難しさや工事中の雨に弱いといったデメリットもあります。近年では木造軸組工法と同様に、壁パネルを工場で組み立てるプレハブ的な2×4工法も登場しています。
ユニットハウスとの違い
ユニットハウスもプレハブ工法の一種ですが、一般的なプレハブ住宅が部材を現場で組み立てるのに対し、ユニットハウスは工場で完成した箱型のユニットやコンテナをそのまま現場に運び設置します。ユニットハウスは工事現場での組立作業が最小限となるため、一般的なプレハブ住宅よりもさらに施工時間を短くできます。
ユニットハウスは移設や再利用をしやすい特徴もあり、主に仮設住宅や工事現場の事務所などに使用されていますが、最近では戸建て住宅やアパート建築への応用事例も出てきています。
プレハブ住宅の工法の種類

プレハブ住宅には主に4つの工法があり、それぞれ特徴が異なります。以下、各工法について詳しく説明します。
木質系プレハブ
木質系プレハブは、木材を主要構造材とする工法で、パネル方式が主流です。ミサワホーム、住友林業、三井ホームなどが代表的なメーカーです。
主に戸建て住宅で多く採用されており、賃貸アパートにも使用されることがあります。経済的で断熱性にも優れ、在来木造住宅のような自由度の高いデザインや間取りが可能なことも大きな特徴です。また、木材を利用するためCO2排出量の削減に貢献し、環境にも優しい工法といえるでしょう。
軽量鉄骨系プレハブ
軽量鉄骨系プレハブは、厚さ6mm未満の軽量鉄骨を使用する工法です。大和ハウス工業、積水ハウス、セキスイハイム、パナソニック ホームズなどが代表的なメーカーです。
軸組方式とパネル方式があり、賃貸アパートでは最も代表的な建築工法で、採用される物件数が多くなっています。耐震性や耐久性に優れ、工期が短く品質が安定しているのが特徴です。
コンクリート系プレハブ
コンクリート系プレハブは、工場で製造するプレキャスト(PC)コンクリートパネルを使用する工法です。大成建設ハウジング ・パルコンなどが代表的なメーカーです。
鉄筋コンクリート造(RC造)に匹敵する高い耐久性、耐震性、断熱性があり、特に耐火性と遮音性に優れていることも大きな特徴です。コンクリートの特性を活かして、高性能で高級感のある居住環境を提供できる点が高く評価されていますが、建設費も高くなる傾向があります。
ユニットハウス系プレハブ
ユニットハウス系プレハブは、工場で完成した箱型のユニットやコンテナを現場に運び設置する工法です。プレハブ住宅の中でも極めて短期間での建設が可能で、設置が速く移動も容易です。この特性を活かし、被災地の仮設住宅や緊急時の対応、一時的な居住空間の提供に適しています。
近年はデザイン性や断熱性など高機能なものも登場しており、短期滞在者向けの賃貸物件などにも採用されることがあります。
プレハブ住宅のメリット

プレハブ住宅には、工期短縮、工事費の削減、品質の安定性という3つのメリットがあります。これらの特徴により、効率的で経済的な住宅供給が可能となっています。
工期が短縮できる
プレハブ住宅の最大のメリットは、工期の大幅な短縮です。工場での部材生産により、現場での施工期間が大幅に削減されます。また、多くの作業が工場で行われるため天候に左右されにくく、計画通りに工事を進められます。
これにより、賃貸事業では短期間で多くの住宅を供給でき、オーナーは早期に確実な収益を得られ、入居希望者も希望の時期に合わせて入居しやすくなります。
建築費を削減できる
プレハブ住宅の大きな特徴の一つは、建築コストの削減効果です。工場での大量生産により部材のコストが抑えられ、また、現場での工期が短縮されるため、人件費を削減できます。
これらの効果により、プレハブ住宅は従来の在来工法で建てる住宅と比べて、全体的な建築費用を抑えられる傾向にあります。特に賃貸住宅の場合、この建築コストの削減が家賃に反映されます。オーナーは比較的低い家賃設定が可能となり、入居希望者にとっては手頃な価格の住宅の選択肢が増えることになります。
品質が安定している
プレハブ住宅のもうひとつのメリットは、安定した品質です。大手メーカーの工場で、最新のコンピューターやロボット技術を用いて主要部材が生産されるため、高精度で均一な品質が保たれます。
この徹底した品質管理により、耐震性や断熱性などの居住環境の安定性が確保されやすくなります。さらに、規格化された部材を使用するため、メンテナンスが比較的容易で、長期的な性能と品質の維持も期待できます。
プレハブ住宅のデメリット(注意点)
プレハブ住宅には多くのメリットだけでなく、注意すべき重要なポイントもあります。以下に主なデメリットを説明します。
間取りやデザインの制約がある
プレハブ住宅は規格化された部材と構造設計を使用するため、間取りやデザインに制約があります。似たような外観や間取りが多く、壁の少ない広いLDKや吹き抜けなどの、個性的な間取りやデザインを実現することが難しい場合があります。
また、外観デザインも規格化されているため、街並みの中で特別な個性を出しにくい傾向があります。
リフォームや増改築の難しさ
プレハブ住宅は構造上、壁の移動や間取りの変更が困難です。壁そのものが建物を支えており、自由にこれらを移動するのが難しい傾向があります。
このため、大規模なリフォームや増改築が難しく、賃貸市場やライフスタイルの変化に合わせた改修が制限されることがあります。
防音性能・断熱性能が低いことがある
プレハブ住宅は在来工法と比べて壁の厚さが薄い傾向があり、防音性能や断熱性能が劣ることがあります。隣室や外部からの音漏れが気になる可能性があり、特に、鉄筋コンクリート造(RC造)マンションに比べると、大きな差があるといえます。
築年数の古いプレハブ住宅は性能が不足していることがある
プレハブ住宅では、在来工法以上に、築年数による性能や機能の違いが大きい傾向があります。プレハブ住宅はその構造上、建てた後の大規模な改修が難しいため、古い物件では耐震性や断熱性、防音性などが改善されず、性能が不十分なケースがあります。
プレハブ賃貸物件がおすすめな人

プレハブ賃貸物件は、以下のような人におすすめです。
家賃の安さを重視したい人
プレハブ住宅は、建築部材の共通化や工期の短縮により、比較的安い家賃設定が可能です。これは、予算を抑えて住まいを探している方にとって大きな魅力となっています。
特に都市部での一人暮らしを始める方や、初めての賃貸物件を探している方にとって、プレハブ住宅はおすすめの住宅タイプといえます。
耐震性や安心感を求める人
プレハブ住宅は、地震に対する不安が大きい方や、安心して暮らせる住まいを求める方におすすめです。
プレハブ住宅の大きな特徴の一つが、大手メーカーが製造することによる品質の安定性や高い耐震性です。工場での高度な生産管理により、一定の品質が保たれているため、物件選びの際の不安が少なくなります。
特に、同じメーカーの物件であれば性能の違いが少ないため、比較や評価がしやすいのも利点です。
新築・築浅物件を求める人
プレハブ住宅は比較的新しい工法であるため、新築や築浅の物件が多く供給されており、清潔感や快適性を重視する方にとって大きな魅力となります。
新しい物件では、最新の設備が整っていることが多く、メンテナンス面でも安心感があります。ピカピカの住まいで新生活をスタートさせたい方にとって、プレハブ住宅は理想的な選択肢のひとつになるでしょう。
プレハブ住宅を理解して後悔のない選択をしよう
プレハブ住宅の賃貸物件は、新築物件が多く、品質が安定しており家賃も手頃ですが、防音性やデザインの自由度など注意すべき点もあります。物件選びの際は、以下のポイントに注意しましょう。
・築年数
プレハブ住宅は新しい物件ほど性能が向上しているため、築年数をチェックしましょう。
・防音性能
内見時に壁の厚さや隣室からの音の聞こえ方を確認しましょう。
・断熱性能
特に古い物件では、快適さや冷暖房効率に影響するため注意が必要です。
物件選びでは、自分のライフスタイルや優先順位を明確にし、メリットとデメリットを十分に理解する必要があります。また、内見時には実際に物件を見て、触れて、感じることが大切です。不動産業者や管理会社に対して、プレハブ住宅特有の特徴や注意点について積極的に質問しましょう。さらに、周辺環境や日当たり、設備の使い勝手なども確認し、総合的に判断することが大切です。
プレハブ住宅の技術は日々進歩しており、品質や性能は大きく向上しています。その特性を理解し、自分の希望に合っているかを慎重に見極めて、快適で経済的な住まいを見つけましょう。