普段何気なく使っている「住所」は、私たちの生活を支える大切な情報インフラです。それは建物につけられた、郵便屋さんや宅配業者向けの「名札」のようなものとも言えます。
一方、「地番」や「家屋番号」は、不動産の登記や税金といった、少し専門的な場面で登場します。これらの言葉の違いを理解することは、将来、不動産に関わるときに必ず役立ちます。
そこで今回は、不動産業界に20年以上身を置く私がこれらの違いを初心者の方にも分かりやすく徹底解説します。読み進めるうちに、「なるほど!」と納得し、不動産に関する知識に自信が持てるようになるでしょう。ぜひ、最後までお読みください。
住居表示とは?

住居表示とは、建物が所在する場所を示すための、いわゆる「住所」のことです。郵便物や宅配物の配送、緊急時の対応など、私たちの日常生活に欠かせない重大な役割を果たしています。
住居表示は、言わば市町村が「この建物はココ!」と判別するために決めている、建物の目印のような存在です。
地番との違い
地番とは、簡単に言えば土地の住所のことを言います。土地を特定するために法務局(登記所)が管理している識別番号のようなものです。
「土地」と「土地の上に建築されている建物」は別の不動産という扱いになるため、土地と建物を別に管理する必要性があります。そこで、見た目は境界がない土地であっても、「この土地はココからココまで!」とわかるように図示し番号を振り分けたものが地番です。
家屋番号との違い
家屋番号は、建物を大切な財産として登記するために、法務局が建物一つひとつに付けている番号のことです。これは住居表示とは完全に別モノで、建物の登記情報として使われ、固定資産税を計算するときなどに、どの建物かを特定するために役立ちます。
住居表示が、郵便物や訪問者が建物を見つけやすくする日常生活の目印であるのに対し、家屋番号は、法的な手続きのために使われることが多いという点が大きく異なります。
なお、賃貸マンションのように「建物全体が一人のオーナーの所有物」では一つの家屋番号になりますが、分譲マンションのように「各部屋が異なるオーナーの所有物」では、それぞれの部屋に異なる家屋番号が割り当てられます。
住居表示の附番方法
住居表示の番号付けには、主に「街区方式」と「道路方式」の2種類があります。
街区方式は日本の多くの自治体で採用されている方法です。
・道路や川などで区切られた区画を「街区」として番号を付けます
・街区内の建物には、玄関がある側に基づいて「住居番号」が割り当てられます
・住所は「町名(丁目)-街区番号-住居番号」の形になります
例えば「中央区銀座4-5-6」という住所では、「4」が丁目、「5」が街区番号、「6」が住居番号を表しています。「建物の玄関がどこにあるかによって番号が決まる」ため、同じ街区内でも隣り合う建物の番号が連続していないことがあるのはこういった理由からです。
道路方式は主に欧米で使われている方式で、日本では北海道浦河町や山形県東根市など一部地域でのみ採用されています。
・各道路に名前を付け、その道路に沿って建物に番号を振ります
・道路の片側は奇数、反対側は偶数というように規則的に番号が増えていきます
・住所は「道路名+番号」の形で表示されます
例えば「桜通り123番地」のような形式です。日本ではすべての道路に名前が付いているわけではないため、この方式はあまり普及していません。
どちらの方式も目的は建物を簡単に見つけられるようにすることですが、日本の土地事情に合わせて街区方式が一般的になっています。
住居表示が定められた背景
住居表示制度が確立された背景には、日本の地番制度の複雑化があります。
明治時代に整備された地番は、当初は連番でしたが、土地の合筆(2つ以上の土地を1つにまとめること)や分筆(1つの土地を2つ以上に分けること)が繰り返されることで、地番が「1番地の3」「1番地の3の2」のように複雑化していきました。
この状況を改善し、郵便物の配達の利便性向上や建物へ簡単にたどり着けるようにするため、1962年に「住居表示に関する法律」が制定されました。この法律によって、現在の住居表示制度が確立されたのです。
この住居表示制度のおかげで、私たちは複雑な地番に惑わされることなく、スムーズに目的地へたどり着けるようになりました。
もしあなたが特定の地域で物件をお探しでしたら、その地域の情報に詳しい不動産会社にリクエストしてみるのがおすすめです。住居表示をもとに、あなたの希望に合った物件を見つけてくれるでしょう。
住居表示の調べ方

住居表示がわからないときは、どのようにして調べることができるのでしょうか?ここでは、住居表示の調査方法を紹介します。
なお、賃貸物件にお住まいの人は、住居表示や地番は重要事項説明書や賃貸借契約書で確認することができます。手続きに住居表示は欠かせませんので、契約書をもらったらすぐに頭書部分を写真に納めておくとよいでしょう。
役所で調べる
最も確実な方法は、物件がある市区町村の役所で直接問い合わせることです。
住居表示を管理しているのは市区町村であるため、正確な情報を得ることができます。多くの場合、住民課や市民課で対応しています。
なお、賃貸物件では物件名を書く必要がなく、住居表示の最後に号室を書けば郵便物が届くケースがあります。不要かどうかは役場の担当者に聞くことで確認が可能です。
法務局で調べる・ブルーマップで調べる
法務局でも、住居表示に関する情報を提供している場合がありますが、主に地番や家屋番号といった登記に関する情報が中心です。ただし、住居表示実施地区の地図などを閲覧できる場合もあります。
登記所では、備えられている「ブルーマップ」と呼ばれる地図を確認するのがよいでしょう。ブルーマップは、住居表示と地番を併記した地図で、不動産業界でよく使用されています。
インターネットで調べる
近年では、インターネットを使って手軽に調べることも可能になっています。GoogleマップやYahoo!地図などの地図アプリでは、多くの場合住居表示が表示されています。また、国土地理院のウェブサイトでは、より詳細な地図情報を閲覧できます。
※出典:国土地理院「電子国土基本図 全国の都道府県一覧(閲覧)」
また、不動産情報サイトや地図検索サービスでも、住居表示で物件を検索することができます。ハウスコムのサイトでは「エリアから探す」を選ぶことで、物件検索が可能です。ぜひお部屋探しにお役立てください。
地番の調べ方

同様に、本項では地番の調べ方を紹介します。
賃貸物件にお住まいの人で地番を知りたいという人は少ないかもしれません。しかし、今後、不動産取引を行うにあたって地番の検索方法は知っておいて損はありません。この機会に地番の調べ方をマスターしておきましょう。
なお、賃貸物件にお住まいの人は、重要事項説明書に地番が掲載されていますので、そちらを参照するのがよいでしょう。
登記情報から調べる
登記情報を確認する方法がもっとも確実です。
法務局の窓口で登記事項証明書を取得するか、インターネット上の登記情報提供サービスを利用することで、地番をはじめとした土地の所有者などの情報を確認できます。
公的書類から調べる
固定資産税の納税通知書や評価証明書などの公的書類にも地番は記載されています。
特に固定資産税関連の書類は、不動産の所有者に毎年送付されるため、比較的簡単に確認できる方法です。また、不動産を所有している人であれば、権利証(登記識別情報)を必ず所有していますので、そちらで代用することも可能です。
なお、権利証(登記識別情報)を紛失したときは、その不動産を売却するときに別途費用が数万円かかりますので、くれぐれもなくさないようにしましょう。
法務局で調べる
法務局に赴き、ブルーマップから対象地の地番を検索することで、地番を把握することが可能です。なお、法務局に行く時間がない、というときは電話で住所から地番を照会することもできます。
地番の照会は、各法務局が管轄するエリアにある法務局に問い合わせをする必要があります。管轄エリアは以下のサイトから調べることが可能です。
※参考:法務局「管轄のご案内」
なお、登記情報は、すべての人が、すべての土地・建物の不動産に関する情報を、自由に閲覧することが可能です。そのため相続があったときや、分譲マンションにお住まいの人宛に「売却しませんか?」という名前の入ったダイレクトメールが届くのは、こういった登記閲覧制度によるものです。
住居表示・地番・家屋番号を知ることで役に立つこと

住居表示、地番、家屋番号に関する知識を持つことは、不動産に関する理解を深め、予期せぬトラブルを回避し、地域への理解を深める上で大いに役立ちます。
ここでは、これらの知識を得ることで享受できるメリットを照会します。
不動産知識を得ることができる
不動産知識は長期的なライフプランニングに欠かせず、これらの基本を知っておくことで将来の不動産取引で有利になります。
賃貸契約では住居表示が中心ですが、不動産売買や相続の場合は地番と家屋番号が基本となるため、これらの違いを理解しておく必要があります。
マイホーム購入時には重要事項説明書や登記簿に地番や家屋番号が記載されており、これを正しく理解できないと契約内容の把握が困難になります。また、相続時には地番や家屋番号に基づいて権利関係が整理されます。
相続時に、ある地番や家屋番号の相続登記が終わっていなかった、という事例は珍しくありません。その不動産を売却するときに無駄な手間がかかってしまうため、不動産を所有する人にとって必ず押さえておきたい基礎知識の一つといえるでしょう。
不動産トラブルを回避することができる
土地に関するトラブルは後を絶ちません。特に境界トラブルは多く発生しています。実際の土地には境界線は書かれていませんが、地番を通じて公図(字図)を確認することで、正確な境界を知ることができます。
字図の見方や土地の情報収集の方法を知っておけば、将来的な不動産トラブルを未然に防ぐことができます。特に、隣地との境界確認や土地の権利関係を明確にするときに役立ちますので、その前提知識として地番の存在は外せません。
なお、思っていた境界と実際の境界が異なることは、不動産実務ではよくあることです。特に都心部の売買では1m2の誤差が数百万円の誤差になることもあるため、土地の正確な範囲を把握しておくことは非常に重要です。
そのためには、土地に割り振られた地番、建物に割り振られた家屋番号、そして法務局で保管されている字図(土地の形状や地番が示された地図)の見方を知っておくことが、自身の財産を守る上で不可欠と言えるでしょう。
地域の事情や歴史に触れることができる
地番などの理解を深めることは、住んでいる地域への理解を深めるきっかけにもなります。特に、京都や北海道といった歴史的な背景を持つ地域では、住所の表示方法に特徴が見られます。
京都市では、住居表示制度が実施されておらず、伝統的な「通り名」を用いた住所表記が用いられています。これは、古くからの町名を大切にするという文化的な背景によるものです。
また、北海道では、札幌市をはじめとする多くの地域で、碁盤の目のような区画に「条丁目」を用いた住所表記が用いられています。これは、計画的に都市開発が進められた歴史を反映しています。
これらの地域特有の住所表記を理解することで、その地域の歴史や文化に触れることができ、より深く地域に根ざした生活を送ることができます。
このように、地番や住所の成り立ちを知ることは、単に場所を特定するだけでなく、その土地の歴史や文化を垣間見る面白い機会にも繋がります。
もしあなたが、これらの特徴的な住所を持つ京都や北海道などの地域で賃貸物件をお探しでしたら、その地域の不動産会社に直接リクエストしてみるのが効率的です。地域ならではの住所表記に精通した専門家が、あなたの希望に合った物件探しをサポートしてくれるでしょう。
また、初めて訪れる街でお部屋探しをするのであれば、なおさら希望エリアを絞る必要もあるため、プロに依頼するのが最善手です。
住居表示・地番の概要を知って不動産の知識を深めよう!
今回は、賃貸生活を送る上で知っておくと役立つ住居表示と地番に関する基本的な知識について解説しました。
住居表示は、日常生活における住所を示すためのものであり、郵便物や宅配物の配達、緊急時の対応などに不可欠です。一方で地番は、土地の登記を特定するための番号であり、不動産取引や税金などに用いられます。家屋番号は、建物(家)を特定するための番号です。
これらの違いを理解し、それぞれの情報を適切に利用することで、今後の不動産との関わり合いがより快適で安心なものになります。その都度、必要な書類や情報をしっかりと確認し、必要に応じて役所や法務局に問い合わせることで、これらの情報を容易に取り扱うことができるようになるでしょう。
特に、京都や北海道のように、住所の表示方法に特徴がある地域では、その地域の慣習を理解しておくことが、よりスムーズな生活を送る上で重要となります。
不動産に関する理解が深まり、よりスムーズな住まい選びや将来の資産形成にもつながります。住居表示と地番の知識は、不動産に関する基礎知識の一つとして、ぜひ身につけておきたいポイントの一つです。