不動産の売却や賃貸物件の検討を進めるなかで、「元付」や「客付」といった専門用語に戸惑ったことはありませんか?どちらも仲介に関わる不動産会社を指しますが、担当する立場や役割は大きく異なります。この違いを正しく理解しておくことで、取引をスムーズかつ納得のいく形で進めやすくなります。
本記事では、「元付」と「客付」の基本的な違いから、それぞれの業務内容、両手仲介・片手仲介の仕組み、仲介手数料の考え方まで、不動産初心者にもわかりやすく丁寧に解説します。これから売却や賃貸を検討している方は、ぜひ参考にして、信頼できる不動産会社選びにお役立てください。
不動産業界で使われる専門用語「元付」とは
不動産の売買や賃貸の現場では、「元付(もとづけ)」という用語が頻繁に使われますが、一般の方にはあまり知られていないかもしれません。ここでは、元付の意味や役割、客付との違いについてわかりやすく解説します。
「元付」の定義
「元付(もとづけ)」とは、不動産の売主や貸主から直接依頼を受けて、物件の販売や募集活動を行う不動産会社を指します。
不動産取引の起点となる存在であり、物件情報を最初に把握・保有しているのが大きな特徴です。元付業者は、所有者と「媒介契約」を締結し、価格の査定、広告活動、契約書類の準備など多岐にわたる業務を担います。
一般の消費者にとってはあまり聞き慣れない用語かもしれませんが、不動産業界では日常的に使われる役割です。特に売却や賃貸の依頼主にとっては、どの業者が元付となるかにより取引のスムーズさや成約の成否を左右することもあります。信頼できる元付業者を選ぶことは、不動産取引を円滑に進めるうえでの第一歩と言えるでしょう。
「元付」と「客付(先付)」の違い
「元付」は売主や貸主から物件の販売・募集を委任されている不動産会社であるのに対し、「客付(きゃくづけ※先付とも呼ばれる)」は、購入希望者や入居希望者の相談に乗り、条件に合う物件を探して紹介する役割を持ちます。
つまり、元付は物件側、客付はお客様側という立ち位置で、それぞれ異なる依頼主と利害を持つことが特徴です。
実際の取引においては、元付業者が公開している物件情報を客付業者が利用し、買主・借主に紹介する形で商談が進みます。両者が協力して成約を目指すケースも多く、分業体制によって取引の効率化が図られています。
この役割の違いを理解することで、不動産会社選びや交渉時の判断がしやすくなります。
元付業者が担当する売主・貸主側の立場とは
元付業者は、物件を提供する売主や貸主の立場に立って、販売や賃貸に向けたあらゆる準備と対応を行います。
具体的には、物件の価格査定や現地調査、写真撮影、広告文作成、レインズやポータルサイトへの掲載など、物件を魅力的に見せる工夫を施します。また、内見の調整や条件交渉も担当し、成約に向けたサポートを行います。
媒介契約の種類によっては、進捗報告義務や専任性が発生し、業務の幅も変わります。元付業者は、売主や貸主の希望条件を正確に汲み取り、相場感と市場ニーズのバランスを見ながら最適な取引を導くことが求められます。
依頼主にとっては「営業担当者」というより「パートナー」として信頼できる存在であることが理想です。
元付業者の主な役割と取引の流れ

元付業者は売主や貸主からの依頼を受けて、不動産取引を進めるうえで中心的な役割を担います。ここでは、元付業者が実際にどんな業務を行い、どのような流れで取引を進めていくのかを詳しく見ていきましょう。
元付業者の主な役割
元付業者の主な役割は、売主や貸主からの依頼を受けて、物件の販売・賃貸活動を全面的にサポートすることです。
物件調査や相場を踏まえた価格査定に始まり、広告戦略の立案、ポータルサイトへの掲載、内見の調整や交渉対応、契約書の作成補助など、業務は多岐にわたります。取引に関わるさまざまな業者や顧客との調整を一手に担う「調整役」としての動きも求められます。
また、依頼主が不動産の売却や賃貸を通じて実現したい目的(早期売却・収益確保・トラブル回避など)を正確に汲み取り、最適な方法で進める提案力も重要です。不動産取引は高額で専門的な知識を要するため、売主・貸主にとって元付業者は単なる営業担当ではなく、心強いパートナーとなる存在です。
売却・賃貸に向けて媒介契約を結ぶ
元付業者が売却・賃貸活動を行うためには、まず所有者と「媒介契約」を結ぶ必要があります(※賃貸では媒介契約書面の交付義務はなし)。媒介契約とは、不動産会社にどこまでの業務を任せるかを明確にするもので、以下の3つの契約形態があります。
・専属専任媒介契約
・専任媒介契約
・一般媒介契約
専属専任媒介契約や専任媒介契約は、1社のみに依頼する代わりに、業者には販売・募集状況の報告義務(1週間に1回または2週間に1回)が課されます。さらに、レインズ(指定流通機構)への登録も義務付けられています。
一方、一般媒介契約では複数の業者に同時に依頼できる反面、業者側の優先度が下がりやすく、積極的な営業活動が行われにくい側面もあります。
契約形態によって、売主・貸主が他社に同時依頼できるか、業者の営業範囲や登録義務の有無などが異なります。自身の希望する成約スピードや戦略に応じて、最適な媒介契約を選ぶことが重要です。媒介契約は不動産会社との信頼関係を築く出発点となるため、内容をよく理解したうえで締結しましょう。
レインズ・ポータルサイト等への登録
媒介契約を締結すると、元付業者は物件情報を「レインズ(指定流通機構)」に登録します。これは不動産会社間で情報を共有する仕組みで、専属専任または専任媒介契約では登録が義務づけられています。これにより、他の仲介業者(客付業者)も物件情報を閲覧・紹介できるようになり、成約の機会が広がります。
また、一般の消費者向けには不動産ポータルサイトへの掲載も重要です。物件写真や間取り図、キャッチコピーなどを工夫し、物件の魅力を最大限に伝える必要があります。登録内容の質によって反響数が大きく変わるため、元付業者の広告作成力・反響対応力は、成約までのスピードにも直結します。
既存顧客へ紹介して水面下で取引することも
すべての物件が公開市場に出るとは限らず、元付業者が抱える「既存顧客」へ直接紹介することで成約に至る「水面下(すいめんか)取引」も存在します。
これは、過去に購入・賃貸経験のある顧客や条件登録をしている見込み客に対して、一般公開前に提案する形式です。売主や貸主が「不特定多数には知らせたくない」という場合にも活用できます。
水面下取引のメリットは、広告費や余計な手間が省けること、条件交渉がスムーズに進みやすいことです。一方で、情報が広く行き渡らないため、タイミングが合わないと成約の機会を逃すリスクもあります。元付業者の顧客ネットワークの広さと、的確なマッチング力が問われる取引手法です。
客付業者との連携と契約成立までの流れ
不動産取引では、元付業者が売主・貸主の窓口となり、客付業者が買主・借主を担当する形で連携しながら、成約に向けて話を進めていくのが一般的です。ここでは、内見から契約成立までの流れを5つのステップに分けて解説します。
STEP 1:物件情報の公開・募集開始
元付業者が不動産ポータルサイト、レインズなどに物件情報を掲載し、募集活動を開始します。客付業者はその情報をもとに、自社の顧客に物件を紹介していきます。
STEP 2:問い合わせ・内見の調整
購入や入居希望者からの問い合わせが入ると、客付業者が内見を希望する日時を元付業者と調整します。内見当日は、客付業者が現地案内を行うのが一般的です。
STEP 3:条件交渉・申込み
内見後、希望者が申し込みをすると、元付業者が売主・貸主の意向を確認しながら、客付業者と連携して契約条件の調整を行います。価格や賃料、引き渡し日などの細かな条件をすり合わせる重要なステップです。
STEP 4:重要事項説明書の作成・説明
契約前には、宅地建物取引士による重要事項説明が行われます。物件に関する法的な情報や契約内容を丁寧に説明し、買主・借主に十分な理解を得たうえで次のステップに進みます。
STEP 5:売買契約・賃貸借契約の締結
すべての条件がまとまったら、売買契約書または賃貸借契約書を作成し、双方が署名・押印します。売買では手付金、賃貸では敷金・礼金などの初期費用の授受もこの段階で行われ、契約が正式に成立します。
このように、元付業者と客付業者がしっかり連携することで、売主・貸主と買主・借主双方にとって納得感のある取引が実現します。各ステップの役割と流れを把握しておくことで、安心して契約に臨めるでしょう。
元付・客付の関係と「両手仲介」とは
不動産取引では、元付業者と客付業者の2社が関わる「片手仲介」が一般的ですが、1社のみで売主・買主の両方を担当する「両手仲介」という仕組みも存在します。
この章では、両手仲介の特徴や元付・客付の関係性、さらに片手仲介との違いや手数料の仕組みについて詳しく解説します。
両手仲介の仕組み
不動産取引における「両手仲介(りょうてちゅうかい)」とは、1つの不動産会社が売主(または貸主)と買主(または借主)の双方から仲介を依頼され、1社で取引を完結させる形態を指します。つまり、その会社が「元付」と「客付」の両方を兼ねており、契約の全体を一貫して担当する点が特徴です。
両手仲介のメリットは、交渉や手続きがスムーズに進みやすいことです。1社内で情報共有が完結するため、意思決定のスピードが速く、条件交渉も効率的に行われます。
一方で、買主と売主の両方の利益を調整する必要があり、中立性や公平性が求められるため、業者の対応力や説明責任がより重要となります。
片手仲介との違いと報酬の差
不動産仲介では、「片手仲介」と「両手仲介」で報酬の仕組みが大きく異なります。両手仲介は、1社の不動産会社が売主(または貸主)と買主(または借主)の両方から依頼を受けるため、双方から仲介手数料を受け取ることができます。これに対して片手仲介は、どちらか一方のみの仲介を行う形で、手数料は依頼主側からしか発生しません。業者にとっては、両手仲介の方が報酬が2倍になるため、利益面で大きな違いが生まれます。
例えば、売主から依頼された元付業者が、他社の客付業者を通じて買主を見つけた場合、元付と客付がそれぞれ一方の仲介を行う片手仲介となります。報酬は双方で分かれるため、1社の取り分は半額になりますが、そのぶん透明性が保たれやすく、公平な取引が期待できる点がメリットです。
ただし、業者によっては両手仲介を優先するために物件情報の公開を制限する「囲い込み」が行われる場合もあり、消費者としては、担当業者がどの立場で動いているかを意識しながら取引に臨むことが重要です。
両手仲介の具体的な報酬シミュレーション
例えば、売買価格が3,000万円の中古マンションを両手仲介で成約させた場合、不動産会社は売主・買主双方から仲介手数料を受け取ることができます。仲介手数料の上限は「売買価格の3%+6万円(税抜)」と定められているため、片側からは96万円(税込105.6万円)を受け取れる計算になります。
両手仲介であればこれが単純に倍となり、合計で192万円(税抜)、税込で211.2万円の手数料収入となります。これは不動産会社にとって大きなインセンティブとなり、囲い込み(他社への情報開示を制限する)につながるケースもあります。
売主や買主の立場では、取引の透明性や納得感を確保するため、担当者がどの立場で動いているのかを意識しておくことが大切です。
元付業者を選ぶときのチェックポイント

不動産の売却や賃貸契約を成功させるためには、信頼できる元付業者の選定が欠かせません。ここでは、元付業者を選ぶ際に確認しておきたい重要なポイントを3つに分けてご紹介します。
売主・貸主としての希望を正確に理解してくれるか
不動産の売却や賃貸の募集は、依頼主の事情や目的に応じて最適な戦略が異なります。例えば「早く現金化したい」「家族構成に変化があり貸したい」「できるだけ高く売りたい」など、取引の背景によって求める優先事項は大きく変わります。
このような要望を正確にヒアリングし、それを前提とした提案をしてくれる業者であるかは、非常に重要なポイントです。単に話を聞くだけでなく、こちらの意向に共感し、デメリットも含めて率直にアドバイスしてくれる業者は信頼できると言えるでしょう。
また、物件の特性や立地に合わせた柔軟な対応力も欠かせません。依頼主の立場に立った提案ができる元付業者であれば、ストレスの少ないスムーズな取引が期待できます。
広告戦略や集客力があるかどうか
物件の魅力を的確に伝え、多くの人に見てもらうには、元付業者の広告力と集客力が不可欠です。大手ポータルサイトへの掲載はもちろん、SNSや自社HP、近年では動画コンテンツやバーチャル内見を活用する業者も増えています。どのような媒体を活用しているか、どれほどの反響を得られる仕組みを持っているかは、比較の大きな指標となります。
また、物件写真のクオリティやキャッチコピーの工夫、内見動線を考えた案内の仕方など、見せ方ひとつで反響数は大きく変わります。特に競合が多いエリアでは、広告の差が成約スピードに直結します。元付業者の過去の広告事例を確認したり、反響数や成約件数の目安を尋ねたりして、実力を見極めましょう。
過去の取引実績や口コミ・対応力の確認
信頼できる元付業者を見極めるうえで、過去の取引実績は非常に重要な判断材料です。「どのようなエリアで実績があるのか」「売却までにかかった平均期間はどのくらいか」「似た条件の物件でどんな結果が出たか」など、できるだけ具体的な事例を確認しましょう。実績のある業者は、地域相場や市場動向を的確に読み取り、説得力のあるアドバイスをしてくれる傾向があります。
加えて、口コミや評判、問い合わせ時の対応の早さ・丁寧さもチェックポイントです。メールの返信が遅い、説明が曖昧といった印象を受けた場合は、契約後の対応にも不安が残る可能性があります。
可能であれば、知人の紹介や地域密着型の業者にも目を向けると、誠実な対応をしてくれる元付業者に出会える確率が高まります。
「元付」と「客付」に関するよくある質問
元付と客付の違いや役割は、実際の不動産取引に関わると気になることが多いテーマです。この章では、よくある疑問についてQ&A形式でわかりやすく解説します。
Q. 元付と管理会社は同じなの?
A. 元付業者と管理会社は、場合によっては同じ会社であることもありますが、本来はそれぞれ役割が異なります。
元付は「取引(売買・賃貸)の仲介」を担う立場であり、物件の販売活動や契約交渉を担当します。一方、管理会社は「入居後の対応や建物の維持管理」を中心に行う業者で、入居者からのクレーム対応や設備の修繕、共用部分の清掃などを主な業務としています。
例えば、賃貸物件であれば、入居前の募集・契約は元付、入居後の鍵のトラブルや家賃管理は管理会社が対応するという分担になります。同じ会社が両方の機能を持っていることもありますが、すべてのケースでそうとは限りません。不動産取引のどの段階で、どの会社が担当しているのかを意識しておくと、問い合わせの際にもスムーズです。
Q. どちらに相談したほうが早く成約する?
A. 基本的には、売主や貸主であれば「元付業者」に相談するのが正解です。なぜなら、物件の募集や広告掲載を実際に行うのは元付業者であり、販売価格や賃料、条件の設定にも直接関わっているためです。
一方、買主や借主の立場で物件を探している場合は、「客付業者」に相談することで、希望条件に合う物件を幅広く提案してもらえます。ただし、元付業者が自社の顧客をすでに抱えている場合、水面下でスムーズに取引が成立することもあるため、売却や賃貸を希望する人にとっては、集客力のある元付業者と早めに契約することが成約への近道となります
Q. 仲介手数料が両方に発生するの?
A. 不動産の売買や賃貸では、元付業者と客付業者がそれぞれ別の会社である場合、それぞれの業者に対して仲介手数料が発生するように思えるかもしれません。しかし、原則として仲介手数料は「自分が依頼した側の業者」に対して支払うものであり、両方に支払うわけではありません。売主は元付業者に、買主は客付業者にという形が一般的です。
ただし、1社が元付と客付を兼ねる「両手仲介」の場合には、売主・買主の双方が同じ業者にそれぞれ仲介手数料を支払うケースもあります。手数料は法律で上限が定められており、売買では「物件価格の3%+6万円(税抜)」、賃貸では「家賃1ヶ月分(税抜)」が一般的です。事前に契約内容や支払い先を確認しておくことで、トラブルを未然に防ぐことができます。
元付と客付の違いを把握して賢く相談しよう
不動産取引における「元付」と「客付」は、それぞれ売主・貸主と買主・借主の立場に寄り添った業者であり、明確に役割が異なります。元付業者は物件を所有する側から依頼を受けて募集や契約業務を担当し、客付業者は購入・入居希望者に物件を紹介する役割を担います。この2つの関係性を正しく理解しておくことで、取引の流れや相談先を見誤ることなく、スムーズに手続きを進めることができます。
特に、売却や賃貸を検討している方は、信頼できる元付業者を選ぶことで、的確な価格設定や集客戦略によって早期成約の実現が期待できます。一方、物件を探している側は、複数の客付業者を活用して情報収集を広げることが効果的です。
不動産取引は高額かつ専門的な内容が多いため、立場に応じた適切な相談先を見極め、納得のいく取引を目指しましょう。





