不動産における「従物」とは?主物との違いも含めわかりやすく解説

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不動産の売買や賃貸契約を行う際、「これは契約に含まれているのか?」と疑問に思ったことはありませんか?そのカギを握るのが、民法上の「従物(じゅうぶつ)」という概念です。一見聞きなれない言葉ですが、契約内容に大きな影響を与える重要なポイントでもあります。

この記事では、「従物」の基本的な意味や法律上の位置づけ、実際の不動産取引における具体例、契約トラブルを防ぐための注意点までを具体的に解説します。不動産に関わる方だけでなく、これから家を買う・借りる予定のある方にも役立つ内容となっていますので、ぜひ参考にしてください。

「従物」の意味と定義

不動産や契約実務の現場で登場する「従物」という言葉ですが、法律上はどのように定義されているのでしょうか。ここでは、民法に基づく従物の基本的な意味や、契約への影響、主物との関係性について解説します。

民法における「従物」の定義

民法第87条では、「従物」とは主物の効用を助けるために附属された物であると定義されています。法律上は主物と独立した物でありながら、経済的・機能的には主物と一体的に扱われるのが特徴です。

例えば、建物に設置されたエアコンや照明器具、庭に置かれた石灯籠などが従物として扱われることがあります。重要なのは、従物は「主物の常用のため」に存在しており、用途や使用実態に基づいて従属関係が判断される点です。

また、従物と認められるためには以下のような要件を満たす必要があります。

・主物の常用に供せられるものであること(継続的に主物の効用を助けるもの)

・特定の主物に附属すると認められる程度の場所的関係にあること

・独立した物であること

・主物と同一の所有者に属すること

従物はあくまで独立性を保ちつつ、主物とセットで取引される対象とされるのが大きなポイントです。

※参照:一般財団法人住宅金融普及協会

「従物」が契約に与える影響

従物は、民法第87条第2項により「主物の処分に従う」とされており、売買や賃貸などの契約においても主物と一緒に取引されるのが原則です。

例えば、建物を売却した場合に、そこに設置されているエアコンや照明器具などが従物として自動的に引き渡されることになります。これは、契約書に明記がなくても民法の規定により当然のこととして扱われるため、取引の前提として押さえておくべきポイントです。

一方で、現実の契約実務では従物かどうかの判断があいまいなケースも多く、トラブルにつながることがあります。例えば、借主が入居時にエアコンがあると認識していたのに、貸主の手配により入居前に撤去してしまったというようなケースです。

このような齟齬を防ぐためにも、契約書の中で従物の範囲を明確に記載し、特に備え付け設備や家具の扱いについては明示しておくことが重要です。

「主物」との関係性

従物は、あくまで「主物」の用途や価値を補完する存在であり、その存在意義は主物との関係によって成り立ちます。主物とは、従物が常用される対象となる物を指し、不動産であれば建物や土地が主物にあたります。例えば建物に備え付けられたブラインドやカーテンレールなどは、その建物の用途を助ける従物として認識されることがあります。

このように、従物は主物があってこそ意味を持ちますが、その判断には経済的・機能的な結びつきが必要です。また、従物は主物から分離可能であることが前提であり、建物の壁や基礎のように不可分なものは構成部分や付合物とされます。従物かどうかの判断には、設置目的、所有関係、使用実態といった複数の要素を総合的に検討することが求められます。

従物として扱われるものの具体例

従物とひとことで言っても、その内容は不動産や動産によってさまざまです。このセクションでは、具体的にどのようなものが従物として扱われるのか、代表的な例と判断基準を紹介します。

不動産における従物の例

不動産において従物とされるものには、建物本体に附属している設備や装飾品などが含まれます。具体的には以下のとおりです。

・エアコン

・照明器具

・カーテンレール

・ビルトインコンロ

・ブラインド など

これらは取り外し可能で独立した存在ではあるものの、建物の機能性や利便性を高める目的で設置されているため、主物である建物に従属していると見なされます。

また、宅地における従物の例としては、庭石・石灯籠・簡易的な物置・外構フェンスなどが挙げられます。これらも土地の利用や景観の形成に資する目的で設置されていることから、主物である土地や建物の効用を補完していると判断されやすいです。

ただし、コンクリートで固定されたカーポートなどは付合物や定着物と判断される場合もあるため、具体的な設置状況によって評価が異なります。

動産における従物の例

動産においても、主物に対して従属するものは従物とされる可能性があります。例えば、自動車に付属するスペアタイヤやカーナビ、ドライブレコーダーなどが該当します。これらは主物と分離可能ですが、用途上は主物とセットで使用されるため、従物と認識されるケースが多いです。

また、オフィスや店舗における動産取引では、什器や設備機器に加えて設置用の工具や専用備品なども従物扱いとなることがあります。例えば、業務用冷蔵庫に接続する棚や温度管理パネルなどがそれにあたります。

このような動産の従物は、取引の対象範囲や契約内容によって扱いが変わるため、売買契約書や引き渡しリストに明記することが望ましいでしょう。

従物かどうかを判断する基準

ある物が従物に該当するかどうかは、民法第87条に基づき「主物の常用のために附属された物かどうか」で判断されます。判断基準は以下の通りです。

①主物の常用に供せられるものであること(継続的に主物の効用を助けるもの)

②特定の主物に附属すると認められる程度の場所的関係にあること

③独立した物であること

④主物と同一の所有者に属すること

これらの要素を総合的に勘案する必要があり、明確な線引きが難しいケースも少なくありません。

実務においては、「使用目的」と「一体性」が特に重要です。例えば、賃貸住宅に設置されたエアコンは、生活利便性を高める目的で備え付けられており、建物の常用に資するものとして従物と判断されやすいです。

一方、単に同じ敷地に置かれているだけで機能的な関連がない物(貸主が保管している別の家具など)は、従物とはみなされません。こうした判断の難しさを踏まえ、契約時には取引対象の範囲を文書で明示することがトラブル防止につながります。

主物と従物の違い

従物という概念を正しく理解するには、「主物」との違いを知ることが欠かせません。ここでは、似たような概念である付合物・定着物・附属設備との違いにも触れながら、主物と従物の関係を整理します。

付合物との違い

付合物とは、民法第242条で規定されている「土地や建物などの主物に付着して容易に分離できないもの」を指します。例えば、建物に取り付けられた壁や柱、屋根などがそれにあたり、これらは物理的に主物の一部となっているため、独立して取引することはできません。付合物は主物の構成要素として一体化している点で、主物と従物の関係とは大きく異なります。

一方、従物は主物から物理的に分離が可能であり、あくまで主物の効用を補完する独立した物です。例えば、建物に設置されたエアコンや照明器具は簡単に取り外すことができますが、日常的に主物と一緒に使用されるため従物とみなされます。このように、付合物は分離困難で法的にも主物の一部となるのに対し、従物は独立性を保ちつつも主物と経済的・機能的に従属しているところが異なる点です。

定着物との違い

定着物とは、土地にしっかりと固定された建物や構造物のことを指し、不動産の分類上「土地の定着物」として扱われます。

例えば、建物本体、塀、基礎付きカーポートなどは定着物に該当します。これらは法的に不動産として扱われるため、売買や登記の対象にもなります。定着物は物理的に土地から切り離すことが難しく、所有権や処分の際に特別な手続きが必要です。

一方、従物は定着物とは異なり、物理的に取り外すことが可能で、主物の所有権に従って一緒に処分されるものです。

例えば、置き型の物置や植木鉢などは、土地の定着物ではなく、状況によっては従物として扱われることがあります。このように、定着物は「不動産としての扱い」が前提であるのに対し、従物は主物の用途に応じて付随的に扱われる独立性のある物であるという点が大きな違いです。

附属設備との違い

附属設備とは、不動産の売買や賃貸契約において、建物や部屋に標準的に備え付けられている設備を意味する実務上の用語です。

例えば、エアコン、給湯器、照明器具、インターホン、キッチン収納などが附属設備に該当します。これらは契約書の「設備表」などで明示され、入居者が使用できる前提で引き渡されるものです。

一方、従物は法律用語としての概念であり、民法上の規定に基づいて主物と一体的に扱われるものです。附属設備と従物が重なるケースも多いですが、附属設備はあくまで契約上の合意内容としての位置づけが強く、従物のように自動的に権利が移転するとは限りません。

つまり、附属設備は「契約書で明記されるべき実務上の対象」、従物は「民法に基づいて法的に主物に従う存在」という違いがある点に注意が必要です。

不動産売買・賃貸契約における従物の扱い

従物は、売買契約や賃貸契約において、トラブルになりやすいポイントのひとつです。ここでは、法律上のルールに加え、契約実務での取り扱い方や注意点についても解説します。

売買契約では従物も自動的に含まれる?

民法第87条第2項では、「従物は主物の処分に従う」と明記されています。つまり、不動産の売買においては、主物である土地や建物を売却すれば、それに附属している従物も特別な取り決めがない限り自動的に買主へ移転されることになります。

例えば、建物に備え付けられたエアコンや照明器具などが従物に該当し、これらも引き渡しの対象となるのが原則です。とはいえ、実務では「何が従物に含まれるか」の認識が売主と買主の間で食い違うケースもあります。特に高価な設備や個人的に愛着のある物品(アンティーク照明や特注家具など)は、売主が持ち出したいと考えることもあるため、トラブルの火種になりかねません。

このような齟齬を防ぐには、売買契約書や重要事項説明書で従物として扱う対象を明記し、合意形成を図ることが不可欠です。

賃貸契約で「従物」扱いになるもの

賃貸契約においても、建物の一部として借主に使用される物の中には、従物として認識されるものがあります。具体的には、以下のようなものが該当します。

・エアコン

・照明器具

・カーテンレール

・ビルトインコンロ

・シューズボックスなど

これらは、部屋の機能を補い、入居者の生活利便性を高めるために設置されているため、主物である建物に従属していると判断されやすいです。

ただし、賃貸では売買と異なり「使用権」の貸与にとどまるため、従物の範囲や管理・修繕の責任が明確でないとトラブルに発展することがあります。

例えば、入居者が「当然使えると思っていたエアコン」が故障していたのに、貸主側が「サービス品なので修理義務はない」と主張するケースです。このような事態を避けるには、契約時に「設備表」や「特約」を用いて付属品の有無や取り扱い(修理・交換義務の有無)を明文化することが大切です。

従物の明記がない場合のトラブル事例と予防策

契約書に従物の取り扱いが明記されていない場合、後になって「あるはずのものがない」「撤去されていた」などのトラブルが発生するリスクがあります。典型的なのは、備え付けのエアコンやカーテンレールなどを売主・貸主が自由に持ち出してしまい、買主・借主が困惑するケースです。特に照明器具や家具など、従物か否かの判断が分かれやすいものは注意が必要です。

このようなトラブルを未然に防ぐためには、「従物として含めるもの」「含めないもの」を契約書に明確に記載しておくことが効果的です。売買契約であれば、設備表や引き渡しリストに具体的な品目を列記し、口頭のやりとりだけで済ませないこと。賃貸契約では、附属設備に関する修繕義務や管理責任の所在もあわせて明記しておくと、よりトラブル防止に役立ちます。

法的規定だけに頼るのではなく、現場の実情に即した丁寧な契約書づくりが求められます。

従物に関するよくある質問

従物という言葉に馴染みがない方も多いかもしれませんが、実は不動産取引や賃貸契約でよく問題になる要素の一つです。ここでは、従物に関して寄せられる質問の中から、特に多い疑問を取り上げて解説します。

Q. 従物に所有権はある?

A. 従物は独立した物であるため、それ自体に所有権は存在します。ただし、主物と従物の所有者が異なる場合、その従属性が認められるかどうかは状況により異なります。

民法上は、従物は原則として主物と同一の所有者によって所有されていることが前提とされており、異なる所有関係がある場合には「従物」としての法的効果が認められないこともあります。

例えば、建物(主物)の所有者がAさんで、そこに設置された照明器具(従物)が別の業者の所有である場合、その照明器具はAさんの所有とはなりません。そのため、売買や賃貸などの取引時に、従物として引き渡されるものが第三者所有である場合は、所有権の移転に注意が必要です。契約書に所有者や扱いを記載しておくことで、こうした誤解やトラブルを防ぐことができます。

Q. 従物を後から撤去することはできる?

A. 従物は基本的に主物の効用を補うために設置されているため、原則として主物の処分と一緒に取り扱われます。そのため、売買契約や賃貸契約の成立後に、売主や貸主が従物を勝手に撤去することは原則として許されません。撤去した場合には、契約違反とみなされる可能性があります。

ただし、契約時に「従物に含まれるが撤去予定」などといった合意があれば、撤去は可能です。例えば、「照明器具は従物ではあるが売主が取り外す」などの文言を契約書に明記すれば、トラブルを防げます。逆に、合意や明記がない状態で撤去を行えば、買主や借主から損害賠償を請求されるリスクもあるため、撤去を予定している場合は事前の合意と書面での確認が不可欠です。

Q. 契約書に従物の記載がない場合はどうなる?

A. 契約書に従物の記載がない場合でも、民法第87条により従物は主物に従うとされています。つまり、明記されていなくても主物の取引に含まれるのが原則です。

ただし、これはあくまで法律上の解釈であり、実務では認識のズレや解釈の違いからトラブルにつながることも少なくありません。

特に、エアコンやブラインド、照明などの従物は、売主・貸主が「撤去予定だった」と主張し、買主・借主と揉めるケースがあります。こうしたトラブルを防ぐには、契約書や重要事項説明書の中に、「従物として含む設備一覧」や「撤去予定の物」などを明記しておくことが有効です。文言の一つひとつが、トラブル予防と信頼関係構築につながります。

従物の理解は契約トラブル防止の第一歩

不動産の取引において、「従物」という民法上の概念は非常に重要な役割を果たします。従物は主物に従って処分されるという原則があるため、売買や賃貸契約においてその扱いを曖昧にしてしまうと、引き渡し後のトラブルや誤解につながるリスクがあります。特に住宅設備や家具など、従物と判断されやすい物については、契約時にしっかりと確認することが大切です。

また、法律上の解釈だけに頼るのではなく、契約書や設備表などの文書に明示しておくことが、実務上のトラブル防止につながります。どこまでが主物で、どこからが従物なのか、その違いを理解しておくことで、売主・貸主、買主・借主すべての当事者が納得した取引を実現できます。従物の理解は、不動産契約を安全かつ円滑に進めるための「第一歩」といえるでしょう。