鉄玉子とは、料理や水を沸騰させる際、鍋にポンと入れるだけで鉄分を手軽に補給できるキッチン便利グッズです。女性などに多い鉄分不足による鉄欠乏性貧血に一定の効果が期待できるといわれており、普段の食事からなかなか鉄分補給が難しい方にとって、非常にありがたい商品といえるでしょう。私自身も、鉄玉子を活用しています。
今回は、貧血がちな人や手軽に鉄分補給したい人に向けて、鉄玉子の効果・メリット、実際の使い方や注意点、日常のお手入れ方法と鉄玉子が「錆びたとき」の対処法などをわかりやすく解説します。
今回の内容で解説する要点さえ押さえれば、とても簡単に鉄玉子を使った鉄分補給が可能です。ぜひ参考にしていただき、鉄欠乏によるつらい貧血から抜け出しましょう!
鉄玉子とは
鉄玉子とは、その名のとおり玉子型の小さな鉄のかたまりのこと。鍋に入れることで鉄を溶け出させ、手軽に鉄分を補給できるキッチン便利グッズです。
もちろん安全性に問題はなく効率よく鉄分を補給できるため、鉄欠乏による貧血に悩む人や普段の食事からなかなか鉄分を補給できない方にとって、「知る人ぞ知る」お助けアイテムともいえます。
ただ、鉄のかたまりであるため錆びやすいことがデメリットといえ、使用後には水分の拭き取りなどのお手入れが必要なことを事前に理解しておきましょう。ほったらかしにしてしまうと一気に錆びてしまうため、とくに注意が必要です。
また、鉄玉子はネット通販で1,000円程度から購入でき、お手入れを欠かさなければ半永久的に使えることも大きなメリットです。岩手県の伝統工芸品である「南部鉄器」の鉄玉子が有名ですね。
玉子の形をしたものだけでなく、おなじみのキャラクターをかたどった可愛らしい鉄玉子もたくさんあります。可愛らしいキャラクターたちが鍋の底でグツグツと頑張っている姿を見ると、なぜか愛おしい気持ちになるのは私だけでしょうか…?
一度購入すればずっと使えて手軽に鉄分補給できる便利グッズ、ぜひあなたもお気に入りの鉄玉子をみつけ、効率よく鉄分補給しましょう。
鉄玉子の効果・メリット
ここからは、鉄玉子の効果・メリットについて詳しく解説していきます。
溶け出した鉄により鉄分を補給できる
鉄玉子の最大のメリットは、もちろん溶け出した鉄による鉄分補給です。では、実際にどれくらいの鉄を溶け出させることができるのでしょうか?
まずは、厚生労働省の資料から日本人に必要とされる鉄の摂取基準量をみていきましょう。
【鉄の食事摂取基準量(mg/日)】
■男性
年齢 | 推定平均必要量 | 推奨量 |
---|---|---|
3~5歳 | 4.0 | 5.5 |
18~29歳 | 6.0 | 7.0 |
30~49歳 | 6.5 | 7.5 |
■女性(月経なし)
年齢 | 推定平均必要量 | 推奨量 |
---|---|---|
3~5歳 | 4.0 | 5.5 |
18~29歳 | 5.0 | 6.0 |
30~49歳 | 5.5 | 6.5 |
■女性(月経あり)
年齢 | 推定平均必要量 | 推奨量 |
---|---|---|
18~29歳 | 8.5 | 10.5 |
30~49歳 | 9.0 | 11.0 |
つづいて、鉄玉子を利用して水1リットルを沸騰させたときの鉄分の溶出量です。
沸騰時 | 0.042mg |
沸騰したまま5分間放置 | 0.069mg |
※鉄玉子の商品取り扱い説明書準拠
こうみると、「あれ!?思ったより少ない!」と思うかもしれません。しかし、鉄玉子を入れなかった場合は鉄分自体が存在しない(もともと水道水に含まれている鉄分をのぞいて)ので、何もしないよりかは効果があるといえるでしょう。
また、栄養素としての鉄分には「2価鉄」であるヘム鉄と、「3価鉄」である非ヘム鉄の2種類あることにも注目です。2価鉄(ヘム鉄)は3価鉄(非ヘム鉄)に対し5~6倍吸収率がよく、鉄玉子から溶出する鉄の大部分は2価鉄であることから、効率よく鉄分を吸収できます。
※参考:J-STAGE 論文「調理中に鉄鍋から溶出する鉄量の変化」
水を沸騰させたときの鉄の溶出量は思ったより少ないかもしれませんが、効率よく吸収できる2価鉄であることから、試してみる価値は大いにあるといえるでしょう。また、鉄玉子からの溶出量を一気に上げる裏ワザものちほど紹介するので、ぜひ最後までご覧ください。
水のカルキ臭を低減させる
科学的なエビデンスははっきりしていないものの、水のカルキ臭を低減させる点は、多くの方の体験談として語られています。実際に私も経験していることとして、たしかにカルキ臭は低減します。
もちろん、浄水器を使用することでカルキ臭を除去できますが、鉄玉子との併用でさらにカルキ臭を低減させ、鉄分補給もできるため一石二鳥といえるでしょう。
鉄玉子を取り入れるにあたって気になりがちなポイント
鉄のかたまりを鍋に入れるのに抵抗がある方は少なくありません。そこで鉄玉子を使用するにあたって気になりがちなポイントも解説していきます。
鉄玉子(の錆)は体に悪い?
まず、鉄玉子を使用することに関して体に悪いということはありません。実際に病棟や外来の患者に提供するお茶に鉄玉子を活用している病院もあるため、安心して使用できそうです。
では、鉄玉子の錆についてはどうでしょうか?鉄玉子は非常に錆びやすく、お手入れを怠るとすぐに錆びてしまいます。
結論からいえば、鉄玉子の錆は直接的に体に悪くありません。錆は「酸化鉄」であるものの、「鉄」であることに変わりはないため無害であるといわれています。ただ、錆びた鉄玉子を使うと水が茶色く濁るため見た目は非常に悪くなります。体に悪くないからといって錆びた鉄玉子の使用は極力控えましょう。
鉄玉子を入れると味が変わる?
鉄玉子を入れても水や料理の味は変わりません。むしろ、エビデンスはないものの、水道水であればカルキ臭が低減するという体験をする方は私を含めたくさんいます。
ただし、錆びた鉄玉子を使ったり、長時間入れっぱなしにしたりすると鉄特有のにおいが移り、味が変わることはあります。そのため、錆びていない鉄玉子を使い、入れっぱなしにしないようにすることが重要です。
料理人が教える、鉄玉子の上手な使い方
ここからは、実際の鉄玉子の使い方を具体的に解説していきます。これらは、料理人である私が実際におこなっていた使い方であるため、ぜひ参考にしてください。
ご飯を炊くときに入れる
ご飯を炊くときに鉄玉子を入れると、鉄分が添加された白米を食べられます。洗った米に水を入れたあと、最後に鉄玉子を加えて炊飯器のスイッチをオンにするだけです。炊きあがったら鉄玉子を取り出し(熱いので素手ではなくしゃもじかお玉を使いましょう)、水で洗って拭き上げたのち乾燥させれば完了です。
出汁をとるときに入れる
味噌汁などの出汁をとるときにも鉄玉子は活躍します。水を入れた鍋に鉄玉子を入れて火にかけるだけでOKです。顆粒タイプの出汁のもとや出汁パックなど、どのようなものでも使えます。毎朝の朝食に、鉄分がプラスされた味噌汁を飲むと体によさそうですね。
ナスなどの煮物料理に使う
個人的におすすめなのが、ナスなどの煮物料理に鉄玉子を入れることです。とくに、ナスの煮物に鉄玉子を入れると、ナス本来の鮮やかな紫色が強く出るため料理の見た目がグンと上がります。もちろん、鉄玉子から溶け出した鉄によって鉄分の補給にもなります。
使い方としては、水の状態から鉄玉子を入れて出汁をとり、そのままお好みの味付けにしたうえでナスを加えて煮込むだけで大丈夫です。煮込み終われば鉄玉子を取り出し、水洗いして拭き上げ・乾燥させましょう。
ただ、鉄玉子を入れた状態で塩や醤油などの調味料を加えると、錆びやすくなるというデメリットもあるため、使用後はしっかりと水洗いすることが大切です。
効率よく鉄玉子の鉄を溶け出させる方法
鉄玉子を使うのであれば最大限活用したいという方に向けて、効率よく鉄玉子の鉄を溶け出させる「裏ワザ」を2つ紹介します。ちょっとしたコツを知って、少しでも多くの鉄分を摂取できるようにしましょう。
5分ほど入れたままにする
水を沸かす際に鉄玉子を使う場合は、沸騰したらすぐに取り出すのではなく、そのまま5分ほど沸騰させつづけましょう。
実際に、鉄玉子を入れたお湯の沸騰時の鉄溶出量は0.042mgに対し、5分間沸騰させつづけた場合は0.069mgの鉄が溶出されることがわかっています。少しでも多くの鉄を取り出したい場合、ぜひ5分間沸騰させつづけてみてください。
レモン果汁や少量の酢などを加える
鉄玉子にレモン果汁や少量の酢などを加えると、鉄の溶出量が増えることがいくつかの研究からわかっています。正確には、鉄玉子以外に鉄鍋を使って調理した実験のものもありますが、鉄玉子使用時にも同様の効果が期待できそうです。
※参考:J-STAGE 論文「調理中に鉄鍋から溶出する鉄量の変化」
まず、1リットルの水にレモン果汁5mlを加えて鉄玉子で煮出すと、0.076mgの鉄が溶出されることが判明しています。鉄玉子を入れて水を沸騰させるだけであれば0.042mgの溶出量であることから、大幅に増えているといえるでしょう。
水にレモン果汁を加えると味がスッキリすることもあり、鉄玉子を使って煮出したあとに冷やして飲めば、鉄分補給とともにお風呂上がりや夏場の飲み物としても最適ですね。
また、鉄鍋での実験結果ではあるものの、水50mlに対し食塩1%、酢10%、玉ねぎ100gを加えて煮込むと、鉄の溶出量は2.26mgと大幅に増加することもわかっています。この実験では、食塩や玉ねぎなどと同じ条件で、今度は酢ではなくケチャップを使用することで鉄の溶出量が1.04mg~1.45mgとなることも示しており、非常に興味深い結果といえるでしょう。
これらの条件をクリアできる料理として「酢豚」や「ケチャップ煮込み」が挙げられます。大幅に鉄分を摂取できるため、ぜひ参考にしてください。こちらは鉄鍋での実験のため、一概にはいえないものの、鉄玉子を使用した際にも同じような結果が期待できそうです。
ただ、レモン果汁や酢などの酸性のものを多く入れすぎると鉄玉子が錆びやすくなるため、使う際は分量に注意しましょう。
鉄玉子のお手入れ方法
せっかく買った鉄玉子を錆びさせないよう長く使うため、使用後のお手入れは重要です。お手入れといっても簡単なことなので、ぜひ欠かさずおこなうようにしてくださいね。
使い終わったら水分を拭き取る
大前提として、鉄玉子は水分がついたまま放置するとすぐに錆びてしまいます。使い終わったら、すぐに水分を乾いた布かキッチンペーパーで拭き取り、しっかり乾燥させましょう。
なお、煮込み料理などに使用し、油が酷く付着した場合は中性洗剤を使用して油を落とす方がいますが、洗剤のすすぎ残しのリスクがあるため私の経験からはあまりおすすめできません。また、中性洗剤で洗うと錆びやすくなるという意見もあるようです。
油が付着した場合は、沸騰したお湯でしばらく煮込むと油を除去できますので、長持ちという観点からもこちらをおすすめします。
もし、料理に使った鉄玉子を飲み物にも使用するのに抵抗がある方は、「湯沸かし用」と「料理用」の2つの鉄玉子を使い分けるのがいいかもしれませんね。
冷蔵庫で保管する
鉄玉子を乾いた布かキッチンペーパーで拭き取ったあとは、冷蔵庫で保管しましょう。冷蔵庫内は湿度が一定で乾燥しやすく、錆びるリスクが小さくなります。保管する際は乾いたキッチンペーパーで包み、ジッパー付きポリ袋などに入れて密閉するとなおよいでしょう。
鉄玉子が錆びてしまったときの対処法
もし、鉄玉子が錆びてしまった場合、どうすればよいのでしょうか?代表的な対処法を紹介します。
軽い錆なら布でこすり取る
うっすらとした軽い錆びであれば、緑茶をはじめとしたお茶を浸した布で軽くこすり取れば問題ありません。基本的に鉄玉子は「錆びるもの」という認識をもち、軽い錆が目立つようならお茶を浸した布でこすり取りましょう。
ただ、錆を一気に取りたいからといって、サンドペーパーや金たわしなどを使うのはNGです。サンドペーパーや金たわしなどを使ってこすると表面が傷つき、結果として余計に錆びやすくなってしまいます。
錆が強い場合は緑茶で煮込む
錆が強い場合は緑茶で鉄玉子を煮込むと錆を除去できます。お茶を浸した布でこすり取っても落ちない錆の場合、以下の方法できれいに錆がとれるので、ぜひ実践してみてください。錆びた鉄玉子を緑茶で煮込むと鍋のお湯が真っ黒になりますが、緑茶の成分であるタンニンと鉄分との反応であるためまったく問題はありません。
- 鍋に水と鉄玉子、緑茶を入れ火にかける。
- そのまま沸騰させ、30分ほど弱火で煮込む。
- 煮込んだあと、火を止めて3時間ほど放置する。
- お湯と緑茶を捨て、鍋の水を入れ替えて再度沸騰させる。
- お湯が黒く濁らなくなるまで数回水を入れ替え沸騰させる。
- お湯が濁らなくなれば鉄玉子を取り出して水洗い後、乾いた布やキッチンペーパーで水分を拭き取る。
【注意】錆びた鉄玉子を酢やクエン酸で煮込むのは避けよう
錆を強力に落とす作用があるものとして、酢やクエン酸などの強力な「酸」が有効に思いがちですが、鉄玉子の錆を落とすために使用するのは控えましょう。酢やクエン酸で煮込むと逆に酸化が進み内部まで錆びてしまいます。
内部まで錆が進行してしまうと、基本的にもう錆がとれなくなってしまいます。お茶を浸した布で軽くこすり取るか、緑茶を使って煮込む方法で錆をとりましょう。
鉄玉子を活用して効率よく鉄分を補給しよう
鉄玉子は不足しがちな鉄分を手軽に補給できるため、鉄欠乏による貧血を改善させる効果があるといわれています。普段の食事だけで鉄分を補えない方や、貧血気味の方にとって間違いなく重宝する便利グッズといえるでしょう。
おなじみのキャラクターをかたどった可愛らしい鉄玉子などは、使っているうちに愛着も沸いてきます。使い方も非常に簡単で安価なため、鉄分不足の解消にぜひ活用しましょう!