忙しい毎日でも、家に花が待っていれば、ほっと一息つける気持ちになれますよね。これは、気のせいではありません。花のある部屋で過ごす人は、緊張を引きおこす交感神経が25%抑えられ、リラックス状態に導く副交感神経の活動が29%高まったという調査結果もあります。花の癒やし効果は、医学的にも証明されているのです。
部屋に花を飾ろうとするとき、気軽に始めやすいものとして生け花が挙げられます。意外に思うかもしれませんが、生け花は日常生活になじみやすい花の楽しみ方です。この記事では、フラワーアレンジメントや華道との違い、簡単に生け花を楽しむ方法をご紹介します。
生け花とは
生け花は、花や葉などの植物を器に活けて飾る芸術です。近い言葉に「フラワーアレンジメント」「華道」があります。すべて同じように使われることも多い言葉ですが、実は成り立ちも目指すものも異なるのが特徴です。
ここからは、生け花とこれらの言葉の違いをご紹介します。
生け花とフラワーアレンジメントの違い
生け花の目的で最も大きいのは、自然の美しさを楽しみ味わうことです。フラワーアレンジメントは、イベントの特別感を演出するものといえます。
フラワーアレンジメントがおせち料理だとすると、生け花は毎日の献立だといえるでしょう。
生け花と華道の違い
華道は生け花から派生したと考えられ、生け花を精神の修養にまで高めたものです。室町時代以降、茶室に飾る花がしだいに日本の美意識に沿って、芸術として確立されました。
また、いわゆる「道」と呼ばれる柔道や茶道などと同じように、最初は「型」を学ぶのも特徴です。
生け花をするのに必要な道具

生け花には花材と道具が必要です。最初からはりきって道具をそろえる必要はありませんが、少しずつお気に入りをそろえるのも楽しいものですよ。ここからは、最初にそろえたい生け花の道具をご紹介します。
花器
水が入りさえすれば、なんでも花器として使えます。近年は、試験管やフラスコも人気です。代表的なものは、円筒形の花瓶や広口の花立てなどで、形状や素材によって使い分けます。
例えば、ユリのような細長い花や枝を長い状態のまま姿を生かして活けようとすると、高さのある花立てが似合うでしょう。花だけを強調したり、ボタンやアジサイなど頭の重たい花材を活けたりするときは、安定感のある鉢や皿がおすすめです。
花材に合った素材を選べば、花の美しさがいっそう際立ちます。庭の草花には自然な雰囲気の籐や竹、自然石を使った花器、華やかな花には陶器やガラス製の花器であれば、その花らしく楽しめるでしょう。初心者のうちは、単色でモノトーンの花器を選ぶのがおすすめです。
ハサミ
生け花に欠かせないのが、ハサミです。ハサミの切れ味で花の持ちも違ってきます。できれば切れ味がよく、力の入れやすい生け花用のハサミを購入しましょう。
剣山・花留め
剣山や花留めがあると花の固定が楽なので、1つは持っておくと便利でしょう。今は100均でも売っており、下に滑り止めがある方が花器を傷めないのでおすすめです。また、アクリルやガラスを使った花留めなら、存在感が少なく、簡単におしゃれな生け花を作れます。
新聞紙・ビニールシートなど
生け花をする前には、新聞紙やビニールシートを敷いておいて、落とした花や枝を最後にまとめると片づけが楽です。花の包装紙にも使えます。新聞紙なら1枚でなく、2〜3枚重ねた方が安心でしょう。花材を包んでいた紙を敷いて使ってもいいですね。
雑巾など
生け花は水を使うため、どうしても濡れたり、水がこぼれたりすることもあります。こまめにふき取ると気分よく作業ができるので、生け花の前には雑巾を用意して始めましょう。
生け花で使用する花材の入手方法

花材の入手方法はいろいろですが、おすすめの方法をご紹介します。
フラワーショップ
生け花をするといって一番に思いつくのが、フラワーショップではないでしょうか?フラワーショップのメリットや注意点は以下のとおりです。
メリット | ・プロと相談しながら決められる ・季節のお花が入手しやすい ・ポイントカードなどでお得に購入できる場合がある |
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注意点 | ・フラワーショップまで行く必要がある ・お目当てのお花がない場合がある ・値段が高い場合がある |
プロと相談しながら花を選べるうえ、珍しい園芸品種も手に入ります。フラワーショップでのコツは遠慮しないことです。予算や仕上がりのイメージを伝えれば、プロならではのアドバイスをしてくれるでしょう。
<フラワーショップがおすすめの人>
・プロと相談しながら決めたい人
・季節のお花が選びやすい
・ポイントカードを貯めている人
サブスク
最近、月ごとや週ごとに花材を届けてくれる定期便が増えてきました。サブスクのメリット・注意点は以下のとおりです。
メリット | ・自宅までお花を届けてくれる ・わざわざ自分で選ぶ必要がない ・季節のお花が届く |
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注意点 | ・自分でお花を選ぶ楽しさがない ・送料がかかる場合がある |
これらは、すでに花材を組み合わせて届けられます。リスクは、自分では選ばない花も入っている可能性があることです。
業者ごとに送られてくる花のイメージが違うため、自分の好きなサブスクを選ぶのがおすすめです。
<サブスクがおすすめの人>
・仕事や子育てなどで日々忙しい日常を送っている人
・自分で選ぶ手間を省きたい
庭やベランダの花
費用がかからず、自分らしい花材を手に入れるには庭やベランダも見逃せません。庭やベランダのお花を使うメリットと注意点は、以下のとおりです。
メリット | ・好きなときにお花を摘める ・お気に入りのお花だけを育てて入手できる |
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注意点 | ・天候によって育ちが遅いときがある ・多くの種類や本数を摘めない ・賃貸で育てることが禁止されているかもしれない |
園芸品種の花でなくても、身近な植物は生き生きとした魅力に満ちています。もちろん、自分で育てた花を活けるのも素敵です。
<庭やベランダの花がおすすめの人>
・自分で育てる楽しみから感じたい人
・お気に入りのお花を常に入手できる状態でいたい人
産地直送の店
産地直送の野菜を売っている店には、たいがい花も売っています。産地直送の店で入手するメリットや注意点は、以下のとおりです。
メリット | ・季節のお花が入手しやすい ・家まで宅配 ・郵送で届けてくれる |
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注意点 | ・プロの人に相談できない ・手に入れたいお花が入手できないかもしれない |
組み合わせの相談には乗ってもらえませんが、季節の魅力的な花がそろっているのが特徴です。
<産地直送の店がおすすめの人>
・季節のお花を入手したい人
・家まで届けてほしい人
生け花の手順とポイント

生け花の手順を知っておけば、余計な時間をとらずスムーズにできあがります。ここでは、初心者向けの手順を見ていきましょう。
①水揚げを行う
好みの花材を用意し、植物が長持ちするように水揚げをしましょう。水揚げの方法はいろいろですが、ここでは最もポピュラーな方法を紹介します。
比較的深めのバケツに水を張って、花材をつけましょう。切れ味のよいハサミを使って、花材の切り口先端から2センチから3センチくらいの位置で、水の中で斜めにカットします。
生け花を置く場所を決め、周囲を片づけて花器に水を入れ、剣山や花留めを置いてください。
②汚れてもよい服装に着替える
服装は、汚れてもかまわない服装かエプロンをするのがおすすめです。ヤニ汚れが手につくのが嫌な方、手荒れが気になる方は手袋をしましょう。
③仕上がりをイメージ・想像する
生け花をする前に、花材の個性と花器、場所をあわせてイメージを固めておきましょう。必要以上に花材を切り過ぎて、無駄になるのを防ぐことが可能です。
インターネットには、たくさん素敵な生け花があげられています。花材を入力すれば、生け花のイメージがたくさん出てくるでしょう。初心者のうちは、花材や花器が似た画像を選んで、それに沿って活けるとやりやすいです。正解はないので、自分の素敵だと感じる生け花を見本にしましょう。
④骨格となる花材から活けていく
生け花の骨格となる、メインの花材を選びましょう。イメージにあわせて花材を切り、活けます。次に大きな花を下に、最後に小さな花を、すべての花材をつなげるように活けるとやりやすいでしょう。
⑤片づけをする
活け終わったら、残った茎や葉を敷いておいた新聞紙や紙、ビニールシートで包み廃棄します。
生け花におすすめしたい季節のお花
生け花は活けるのも楽しいけれど、花材選びも楽しいものです。ここでは、季節ごとにおすすめの花材選びをご紹介します。
春におすすめの花材
長い冬を経てめぐり合う春の花は、生きる喜びに満ちています。活けやすく手に入りやすいのは、以下の花材です。
・スイートピー
・チューリップ
・梅
・桃
・桜
・ネコヤナギ
・コデマリ
・ミモザ
とくに春に楽しんでほしいのが、梅や桃、桜などの木の花です。ツボミがついた枝であれば、花が咲き、葉が出るまで季節の移り変わりが楽しめます。

夏におすすめの花材
夏には、春に比べて爽やかな花やビビッドな色彩の花が多く出回ります。
・アジサイ
・ひまわり
・クレマチス
・アサガオ
・ナデシコ
・サルスベリ
・キンギョソウ
・青紅葉
空間を意識して、涼やかなガラスの花器が似合う季節です。

秋におすすめの花材
秋は、夏の暑さが落ち着き、個性的な花が出回ります。
・菊
・彼岸花
・コスモス
・オミナエシ
・ススキ
・紅葉
・ダリア
・リンドウ
・キキョウ
秋の七草は、活けて楽しむ花たちです。月の美しい季節なので、生け花を飾ってお月見もいいですね。

冬におすすめの花材
冬の花材は、深紅の花や実のついた常緑樹がおすすめです。
・センリョウ
・ナンテン
・クリスマスローズ
・ツバキ
・サザンカ
・ハボタン
クリスマスやお正月と、花の似合うイベントが多いのも冬です。生け花を飾る楽しみも増すでしょう。

季節問わず使えるおすすめのお花
今は園芸の発達で、四季を通して手に入りやすくなった花もあります。これらの花にも最盛期といわれる季節はありますが、比較的いつでも手に入りやすく便利に使うことが可能です。
・バラ
・カーネーション
・カラー
・トルコ桔梗
・ガーベラ
・カスミソウ

生け花で使用する花材の組み合わせ方
花材を選んでも、ほかになにを組み合わせればいいか迷うでしょう。ここからは、初心者の方にも取り組みやすい花材の組み合わせを紹介します。
4つの花材で作る組み合わせ(メイン・サブのお花、枝、葉物)
4つの花材を活けこむ場合には、主役となる花とその魅力を引き立てるサブの花(小花など)と、動きの出る枝のような大きめのもの、全体を統一するつなぎの4つを選びましょう。最初に枝を入れて全体のイメージをはっきりさせると、活けやすいです。

メイン:チューリップ、サブ:スイートピー 枝:コデマリ つなぎ:レースフラワー
3つの花材で作る組み合わせ(メイン・サブのお花、枝)
3つの花材を使う場合は、サブの花とつなぎを共用します。

メイン:彼岸花、枝:ハギ、つなぎ:ススキ
2つの花材で作る組み合わせ(メインのお花、枝)
2種類なら、対照的な花材や似たような花材どちらでも、生け花としてスッキリと落ち着きます。三角形を作るようなつもりで活けると、なじみやすくなります。

メイン:ラナンキュラス サブ:ユリ
1つの花材で作る組み合わせ(花 or 枝)
1つの花材の場合、その花材らしい活け方をするのが基本です。あまり切り過ぎずないことを心がけましょう。

生け花を楽しむ私の暮らし
生け花のある暮らしは、自然を近くに感じられます。ここからは、生け花が暮らしに彩りを与えてくれる代表的な場面を見ていきましょう。
庭の景色を楽しみながら生け花を行う
庭は四季を感じられる場所です。その季節の移り変わりを感じ、生け花として家の中に持ち込むのは、庭を持つ楽しみの1つでしょう。
生け花にするのは花盛りの花材でもいいですが、その季節の最初や名残の花も素敵です。庭の花を毎日ながめているからこそ、タイミングよく活けられます。ローズマリーやタイム、セージのようなハーブの生け花も、お友だちを招待するときには、香りの素敵なおもてなしになって一石二鳥です。花屋さんには売っていない花材で、素敵なサプライズを仕掛けてはいかがですか?
また、お子さんがいるなら、一緒に庭の花を選んで飾るのもおすすめです。自然を身近に感じて、たくさんのことを吸収してくれるでしょう。
生け花がある和室で茶道を楽しむ
和室で茶道を楽しむときに、生け花は欠かせません。和室に活けられた生け花は、美しく繊細な印象を和室に与えてくれます。
茶道のような伝統的な文化を体験するのは、忙しい毎日の中で特別なリラックス時間を生み出す時間になってくれるでしょう。和室になじみのない方もいるかもしれませんが、素足で畳の上を歩けば、理屈でない癒やしを感じられます。
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リビングに飾って癒やしと四季を感じる暮らしを送る
出窓のある部屋であれば、出窓に生け花を置くのもおすすめです。出窓に生け花があると、窓からの景色を借景にして、生け花に違った魅力が生まれます。
窓からの自然光が生け花を照らすので、より明るく美しく感じられるのもうれしいですね。居住スペースが狭い場合でも出窓があれば、季節の移り変わりとともに生け花を楽しめます。
暮らしの中に生け花を取り入れてみよう
生け花の楽しみ方をご紹介しました。生け花なら、花のある暮らしを日常に取り入れやすくおすすめです。季節や暮らしの雰囲気にあわせて、自分好みの花材を使って気軽に生け花を始めてみませんか?