マンションの浄化槽とは?仕組みや種類、違和感を覚えたときの対処法

目次

下水道が普及している日本では、浄化槽という施設を知らない人も多いのではないでしょうか。それもそのはず、日本の総人口に対する下水道普及率は80.6%といわれているからです。

出典:公益社団法人 日本下水道協会「下水道処理人口普及率

しかし、排水方法は重要事項説明のときに初めて聞く人も多いことも事実。いきなり浄化槽といわれても、どんなものか分からない人が多いでしょう。

そこで今回は、浄化槽について解説します。特に地方によっては浄化槽が設置されているマンション(賃貸物件)が多くあるので、この機会に浄化槽のことを理解しておくと、お部屋探しの判断材料として役立ちます。ぜひ最後までお読みください。

浄化槽とは?

浄化槽とは、トイレや生活(キッチンや洗面台など)で生じた排水を浄化する設備のことをいいます。

トイレから出る汚水や生活排水はそのまま川や海に放流することはできません。そのため、放流できるレベルまで綺麗に処理する必要があります。

下水道との違い

下水道とは、汚水や生活排水を下水管を経由して下水処理場に集め、浄化する排水処理の方法をいいます。

下水道は下水処理場で一括して浄化処理するのに対し、浄化槽は各建物内で浄化処理するときに設置される点が違いです。

浄化槽の仕組みと種類

浄化槽は、内部で複雑な処理をすることで生活排水の浄化を行っています。また、機能によって2つの種類が存在しています。

実生活にはあまり影響はありませんが、この機会に浄化槽のことを知っておきましょう。

浄化槽の基本的な仕組み

浄化槽は、微生物の力を利用して排水を浄化しています。浄化槽は内部はいくつかの槽に分離しており、それぞれ異なる役割を果たしています。

浄化槽の構造は製品によって若干の違いがありますが、基本的な仕組みと役割は以下のようなものです。

①沈殿分離槽
排水を固体と液体に分ける役割を果たしています。固体にはさまざまな重さのものが存在しており、水より軽いものは上部に浮き、水より重たいものは下部に沈殿します。そこで中間部から次の槽に液体のみを送るのです。なお、後述するばっ気槽(嫌気ろ床槽・脱窒ろ床槽)と合体し機能を兼ねていることも多いです。
②ばっ気槽(嫌気ろ床槽・脱窒ろ床槽)
分離槽から送られてきた排水を微生物の力を利用し、分解することで水をきれいにする槽です。(嫌気性微生物の場合は「嫌気ろ床槽」、窒素も除去する場合は「脱窒ろ床槽」など、様々な種類があります)
③沈殿槽
ばっ気槽で浄化された排水をさらに固体と液体に分けます。固体の汚れや微生物の固まりはばっ気槽に戻されますが、きれいになった排水は次の槽に送られます。
④消毒槽
沈殿槽から送られた排水を放流できる水準まで消毒するために、塩素系の消毒剤を利用して消毒するための槽です。消毒された排水は、河川に放流されるほか浸透マスを経由して土に還ることになります。

浄化槽の種類①合併処理浄化槽

合併処理浄化槽とは、トイレから出る汚水もキッチンなどから出る生活排水も、その全てを処理する浄化槽のことです。一般的に浄化槽といえば、合併処理浄化槽のことをいいます。

浄化槽の種類②単独処理浄化槽(みなし浄化槽)

単独処理浄化槽とは、家などから出る排水のうち、トイレから出る汚水のみを処理する浄化槽のことをいいます。キッチンや洗面台から出る生活排水は、川や側溝などに直接放流される仕組みです。

現在、単独処理浄化槽は環境汚染の観点から製造や新設がすでに禁止されています。そのため、現在はあまりお目にかかることはないでしょう。

なお、単独処理浄化槽は現在設置が禁止されていることから、過去に設置されたものが残っているだけになります。そのため、単独処理浄化槽を浄化槽と「みなす」ため、みなし浄化槽とも呼ばれます。

マンションに浄化槽が置かれている理由

浄化槽による生活排水の処理は、下水処理と比較して一見非効率的なように感じられます。一体なぜ、下水処理ではなく浄化槽の設置が現在も続いているのでしょうか。

今も浄化槽が設置・活用されている理由として、以下の3つが挙げられます。

・人口が密集していないエリアでは下水道費用が高額になるため
下水道は集中処理システムですから一定の人口が必要になります。そのため、人口が密集していないエリアで下水道を導入すると、導入と維持管理に多大な費用がかかります。経済的合理性の観点から貯水槽が設置されているのです。
・排水先河川や池の水量が確保されるため
生活排水は人が生活をしていると必ず発生します。そのため一定の水量が必ず放流されることにより、河川や水路・池などの水量を確保することができます。
・災害復旧に強いため
浄化槽は単独浄化システムですので、共用下水管の破損などの影響を受けません。また、地震などでも浄化槽へのダメージは少ないとされており、災害時でも水を排水しやすいという一面があります。

浄化槽と聞くと、不衛生だったり費用がかかったりするイメージがあるかもしれません。しかし、実態はまったく逆で、浄化槽のおかげで経済的で環境に優しい生活ができるのです。

大家さんが行わなければならないマンションの浄化槽のメンテナンス

浄化槽は生活に欠かせない排水処理施設ですので、メンテナンスを行うことが重要です。一般的には大家さんがメンテナンスを行いますが、どのようなメンテナンスがあるのでしょうか。

点検

浄化槽の点検とは、浄化槽本体やブロワーといった周辺機器の調整・修理、消毒剤の補充などをいいます。なお、保守点検と後述する法定検査は別モノです。

清掃

浄化槽は、浄化槽は毎年1回以上(全ばっ気方式は6ヶ月に1回以上)の清掃が必要です。

浄化槽は構造上、槽の底部に固形物や汚泥が溜まりやすくなります。底に溜まった固形物や汚泥を吸い出し、浄化槽内はもちろんのこと、付属機器などまで洗浄することが必要です。

法定検査

浄化槽は、毎年1回法定検査を行い、その状況を行政に報告しなくてはなりません。点検項目は大きく2つあります。

・外観検査

浄化槽の使用に伴い外観からわかる情報を点検します。点検項目は多岐にわたりますが、槽のひび割れ・悪臭の有無・作動状況などが含まれます。

・水質検査

排水する水が河川などへ放流できる水準かどうかをチェックします。pHや溶存酸素量など、細かいチェックが必要です。

借主(入居者)側が浄化槽付きのマンションを選ぶメリット

もしも気になる賃貸物件が浄化槽だったとき、借主にはどのようなメリットがあるのでしょうか。ここでは、浄化槽の賃貸物件を選んだときのメリットを紹介します。

浄化槽があるマンションは上水道のみの請求になることが多い

浄化槽が設置されている賃貸物件では、上水道のみの請求になります。なぜなら、浄化槽があるため下水道を使用していないからです。

上下水道を利用したときと比較して、水道代が半額近くに下がります。ランニングコストが気になる人は、浄化槽の賃貸物件を選ぶのがよいでしょう。

ただし、下水道の料金がかからない代わりに上記のメンテナンスに掛かる金額を管理費として回収しているケースはあります。これに関しては後述の注意点にて解説します。

家賃が安い傾向にある

浄化槽が設置されている賃貸物件は、家賃が安い傾向にあります。これは、浄化槽だから家賃が安い、というわけではなく、浄化槽が設置されているエリアが「マンションに浄化槽が置かれている理由」にて紹介した理由を抱えている傾向にあるためです。そのため都市部に比べ、家賃が安い傾向にあるのです。

ただし、あくまで傾向であり確実に安いわけではなく、また都市部であっても浄化槽を設置しているマンションは存在します。

災害からの復旧が早く安心して生活することができる

浄化槽は災害時の影響を受けにくい点もメリットです。なぜなら、浄化槽は個別に設置されるため、公共下水道の影響を受けないからです。

地震などの災害が増加しているところ、浄化槽がある賃貸物件は災害に強い施設といえます。

災害はいつどこで起こるかわかりません。地震などを心配する人は、地震に強い賃貸物件を選ぶのも良い方法です。

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総じて、浄化槽は経済的で災害対策にも強い設備です。ここまで紹介したメリットのいずれかに魅力を感じたという人は、一度検討してみてはいかがでしょうか。

借主(入居者)側が浄化槽付きのマンションを選ぶ際の注意点

浄化槽が設置されている賃貸物件を選ぶとき、どのような点に注意すべきなのでしょうか。特に、浄化槽に関するチェックポイントは住んでからでないとわからない点が多いため、事前に把握しておきたいところです。

管理共益費に浄化槽のメンテナンス料金が含まれていることがある

気になる賃貸物件が浄化槽だったときは、管理費や共益費に着目してみてください。浄化槽の点検・清掃・法定検査費用が管理費などに含まれていることがあるからです。

近くの賃貸物件と比較するときは、家賃と管理費や共益費まで含めた総額で検討することが重要です。

なお、浄化槽のメンテナンス費用は意外と高額です。一戸建てでも年間5万円程度がかかり、マンションやアパートタイプであれば年間で10万円を超えることは珍しくありません。

浄化槽の場所によっては臭いが気になる可能性がある

稀なケースですが、古い浄化槽では悪臭がしたり汚水が漏れ出したりすることがあります。なぜなら、浄化槽の劣化により蓋や本体が破損するからです。

このようなときはすぐに大家さんや管理会社に連絡をして、修理をお願いしてください。

排水設備が下水道に変更された際は下水料がかかるようになる

浄化槽が設置されている賃貸物件が下水方式に変更になると、下水使用料が加算され、水道代が上がることがあります。

下水道の敷設計画は行政で確認できるほか、不動産会社に依頼すれば教えてくれます。下水道の敷設が完了しているエリアなのに浄化槽の賃貸物件があれば、今後下水道に変更される可能性があります。気になる場合は、契約のときに不動産会社に確認しておくとよいでしょう。

固形物や詰まりやすいものを流さないようにする

当然の話ですが、固形物や詰まりやすいものを流してはいけません。下水道であっても同様ですが、浄化槽では特にそのダメージが大きいからです。

浄化槽に異物やタバコなどを流してしまうと、微生物がその動きを発揮できなくなることがあります。そのため、固形物が分解されなくなったり、詰まりの原因になったりして、浄化槽としての機能を低下させることになるからです。

浄化槽が詰まると、浄化槽までの配管から汚れた水が溢れることも珍しくありません。詰まりを防止するためにも、固形物などを流さないようにしましょう。

浄化槽付きマンションのメリット・デメリットを知って賢い部屋選びを!

今回は、浄化槽について解説しました。賃貸物件が浄化槽かどうかを気にする人はほとんどいないでしょう。しかし、実は経済的で災害にも強い設備であることはあまり知られていません。

もちろん、浄化槽にはメリットとデメリットの両方が存在しています。賃貸仲介営業のプロである私がおすすめする検討方法は、家賃だけではなく、水道代などまで含めたシミュレーションをしてみることです。家賃・共益費・駐車場代くらいまでしか検討しない人が多いため、浄化槽による経済的メリットがうまく伝わらないからです。

浄化槽の賃貸物件に出会ったら、経済性や震災対応など総合的に判断してみてください。