日本は少子高齢化とともに急速な人口減少に直面しています。この人口減少は、特に地方都市において深刻な課題を引き起こしています。医療や福祉などの公共サービスを維持することが困難になり、さらに広がりすぎた市街地では、インフラの老朽化や空き家の増加が顕著です。
こうした問題に対処するための解決策として注目されているのが「コンパクトシティ」です。都市機能を中心部に集約し、効率的で持続可能な都市運営を目指すこの新しい都市設計のモデルは、住民の利便性を高め、地域の活性化にも寄与します。
今回は、そんなコンパクトシティの仕組みやメリット・デメリット、そして具体的な実例を詳しく解説します。人口減少が進む中で快適な暮らしを実現するためにも、コンパクトシティの基礎知識を身に付けておきましょう。
コンパクトシティとは
コンパクトシティとは、都市の機能を一つのエリアに集約することで、効率的な都市運営を目指す政策です。まずはコンパクトシティと通常の都市との違いや、コンパクトシティが推進される背景について詳しく見ていきます
コンパクトシティと都市との違い
コンパクトシティは、都市機能を一箇所に集約して、効率的で持続可能な都市運営を目指す都市設計のモデルです。この設計は、従来の広範囲にわたる都市構造と比較して、住民が必要とするサービスや施設へのアクセスがより便利で迅速に行えることが大きな特徴です。
一般的な都市では、商業エリアや住宅地、公共施設が広範囲に分散しているため、移動に多くの時間と労力が必要です。
しかし、コンパクトシティでは、これらの施設が近接して配置されることで、住民の移動負担が軽減され、生活がより効率的になります。都市全体の効率性を高め、公共サービスの提供がより迅速かつ質の高いものになる点で、通常の都市構造と大きく異なります。
コンパクトシティが推進される背景
コンパクトシティが推進される背景には、現代社会が直面しているさまざまな課題が存在します。特に少子高齢化や人口減少が進行する中で、広範囲に展開された都市を維持し続けることが困難になっている現状があります。
地方都市では、人口の減少に伴い、インフラの維持や公共サービスの提供にかかるコストが増加し、その結果、行政の財政が圧迫される状況がみられます。これを解決するために、都市機能を中心部に集約し、効率的な都市運営を実現しようという考え方が生まれました。
コンパクトシティの推進により、持続可能な都市づくりを目指し、住民にとっても利便性の高い生活環境を提供することができると期待されています。
コンパクトシティの分類・種類
コンパクトシティには、都市の特性や地形、人口分布に応じてさまざまな形態があります。以下に、多極ネットワーク型、串と団子型、あじさい型の3つの主要な種類について解説します。
多極ネットワーク型
多極ネットワーク型のコンパクトシティは、複数の都市核が相互に連携し、全体として一つの都市として機能するモデルです。各都市核は特定の役割を持ち、それぞれが独自の機能を果たしながら、他の都市核と連携して都市全体を支えます。
これにより、各地域が持つ特性を最大限に活かし、地域ごとの独自性を保ちながらも、都市全体の効率性を高めることが可能です。
串と団子型
串と団子型は、交通網を「串」として、その沿線に「団子」のように都市機能を集中させる形態です。このモデルでは、主要な交通インフラである鉄道やバス路線に沿って、商業施設や住宅地、公共施設が配置されており、住民は移動の利便性を最大限に享受することができます。
日本では特に鉄道沿線を中心にこのモデルが採用されることが多く、通勤や通学の時間短縮、公共交通機関の利用促進などが図られています。都市全体が交通網に依存するため、インフラの整備や運営が効率的に行える点も、このモデルの大きなメリットです。
あじさい型
あじさい型は、都市の中心部に機能を集約し、その周囲に小規模なコミュニティが形成される形態です。このモデルでは、中心部が都市の機能を担い、周辺のコミュニティがそれを補完する役割を果たします。これにより、都市と郊外のバランスが取れ、さまざまなライフスタイルに対応できる都市環境が整えられます。
中心部へのアクセスが容易である一方、郊外に住む人々も快適に暮らせるように配慮されているため、都市の効率性と住みやすさを両立させることが可能です。この形態は、特に地域コミュニティの強化や住民間の交流を促進する効果が期待されており、都市と自然の調和が取れた生活環境を提供します。
コンパクトシティのメリット

コンパクトシティには、地域の活性化や行政コストの削減、移動の負担軽減といった多くのメリットがあります。これらのメリットについて詳しく見ていきましょう。
地域の活性化が期待できる
コンパクトシティは、都市機能を一箇所に集約することで、人々が集まりやすくなり、地域の商業活動が活性化します。これにより地域経済が潤い、新たなビジネスや雇用の創出も期待されます。
特に、商業施設やサービス業が中心部に集中することで、地域全体の経済が活性化し、住民の消費活動が増加します。
また、住民が近隣で必要なものをすべて揃えることができるため、都市全体の自給自足率が向上し、地域内での経済循環が促進されます。コミュニティが形成されやすくなり、地域社会全体が活力を取り戻す効果もあります。
行政コストが削減できるので、サービスの質が高い傾向にある
都市機能が集中することで、行政が提供するインフラやサービスの運営コストが削減されます。たとえば、道路や公共交通機関、上下水道などのインフラ整備が効率的に行えるため、無駄なコストを削減することができます。これにより、限られた予算でも質の高い公共サービスを提供できるようになり、住民の満足度が向上します。
また、行政コストが削減されることで医療や教育、福祉などの分野に余剰予算を再配分できるなど、住民にとって大きなメリットが生まれます。コンパクトシティは、行政の効率化を図るだけでなく、住民にとっても生活の質を向上させる手段となります。
移動の負担が軽減できる
コンパクトシティは、必要な施設やサービスが近くに集まっているため、住民の移動の負担が大幅に軽減されます。特に高齢者や子育て世代にとっては、日常生活が非常に便利になります。たとえば買い物や通院、通勤・通学が徒歩や自転車で簡単に行えるようになるため、時間やコストの節約につながります。
また公共交通機関が発達しているため、車を持たない人でも快適に生活できる点が大きなメリットです。移動時間が短縮されることで、余暇や家族との時間を増やすことができ、生活の質が向上します。
コンパクトシティの課題(問題点)

一方で、コンパクトシティには課題(問題点)も存在します。これらの問題点を理解し、事前に対策を講じることが、快適な都市生活を送るために重要です。以下で、具体的な注意点について詳しく解説します。
居住するコストが上昇する可能性がある
コンパクトシティの主な課題の一つとして、居住コストの上昇が挙げられます。都市機能が中心部に集約されることで、住宅や土地の需要が集中し、地価や家賃が高騰する可能性があります。これにより、特に若年層や低所得者層にとっては、居住地の選択肢が限られ、経済的な負担が増すリスクがあります。
さらに、中心部の物件は高価になる傾向が強いため、広さや設備に妥協せざるを得ない状況も考えられます。このため居住地を選ぶ際には、自分の生活スタイルや予算に合った地域を慎重に選定する必要があります。
騒音や近隣トラブルが発生する可能性がある
都市機能が集約されることにより、人口密度が高くなり、騒音や近隣トラブルが発生しやすくなることも課題の一つです。特に商業施設や交通機関が近接しているエリアでは、日常的な騒音レベルが高くなることが予想されます。
たとえば交通量の多い道路沿いや、飲食店や娯楽施設が集中する地域では、騒音によるストレスが生活の質に影響を及ぼす可能性があります。
また、人口密度の高さからくるプライバシーの問題や、隣人とのトラブルも懸念されます。これを回避するために、自身のライフスタイルにあった地域環境を事前に確認することが重要です。
渋滞が発生しやすくなる可能性がある
コンパクトシティでは、交通網が集約されることによって、特定のエリアで交通渋滞が発生しやすくなるリスクがあります。特に通勤や通学のピーク時には、交通の集中が顕著になり、移動時間が増加する可能性があります。これにより、日常の通勤・通学がストレスフルになり、生活のリズムが乱れる原因になることも考えられます。
また、渋滞による大気汚染の悪化や、事故のリスクが高まることも課題として挙げられます。この問題を軽減するためには、公共交通機関の利用を促進する政策や、フレキシブルな働き方の導入が重要となります。さらに道路インフラの整備や、交通量の分散を図る工夫が必要です。
コンパクトシティで快適に暮らせる人の特徴

コンパクトシティには、特定のライフスタイルや価値観を持つ人々にとって快適な生活環境を提供する側面があります。以下では、コンパクトシティに適した生活スタイルやその特徴を紹介します。
移動手段の少ない高齢者
コンパクトシティは、高齢者にとって非常に住みやすい環境を提供します。公共交通機関が発達し、医療施設や商業施設が近くに集まっているため、車を持たない高齢者でも快適に生活できます。徒歩圏内で日常生活に必要なものを揃えられるため、健康維持にもつながります。
また、バリアフリー設計が施された施設が多く、移動の負担が軽減される点も大きなメリットです。高齢者が安心して暮らせる環境が整っているため、コミュニティ活動への参加も活発になり、社会的なつながりを保つことができます。
都会的な生活を望む人
都会的な生活を楽しみたい人にとって、コンパクトシティは理想的な環境です。商業施設や娯楽施設が近くにあり、交通の便も良いため、アクティブなライフスタイルを実現できます。
また、文化施設やイベントも充実しているため、都市の魅力を存分に楽しむことができるでしょう。このような環境では、仕事とプライベートのバランスを取りやすく、充実した日々を送ることが可能です。
特に忙しい都会の生活に慣れている人や、常に新しい刺激を求める人には、コンパクトシティの利便性が大きな魅力となります。
地域のコミュニティを大切にしたい人
コンパクトシティは、住民同士の交流が活発で地域コミュニティが形成されやすい特徴を持っています。都市機能が集中しているため、住民が集まる機会が多く、自然とコミュニティが発展します。地域のつながりを大切にしたい人にとっては、安心して暮らせる環境です。自治会やボランティア活動など、地域に根ざした活動に参加する機会も多く、充実した生活を送ることができます。
またコミュニティの発達により、住民同士が協力し合うことで、地域の安全や環境が守られる点も大きなメリットです。このような環境では、助け合いの精神が生まれやすく、安心感を持って暮らすことができるでしょう。
コンパクトシティの実例

日本各地で成功しているコンパクトシティの実例を紹介します。福岡県福岡市、愛媛県松山市、富山県富山市、大分県大分市は、それぞれ独自の取り組みで都市の効率化と住民の利便性向上を実現しています。
福岡県福岡市
福岡市は、都市の効率性と住みやすさを両立するためにコンパクトシティ化を積極的に進めています。地下鉄やバス路線の充実を図り、公共交通網を利用しやすい環境を整備。これにより、都市の中心部へのアクセスが容易になり、車に頼らない生活を実現するための基盤が構築されています。
さらに、「天神ビッグバン」プロジェクトや「ウォーターフロント地区」の開発を通じて、中心市街地の活性化と自然との調和を図っています。これにより、快適な都市環境を実現しつつ、経済成長をさらに促進することでしょう。
※参考:福岡市 福岡市基本計画
愛媛県松山市
愛媛県松山市は、「中心市街地活性化基本計画」 に基づき、地域全体の活性化を目指してコンパクトシティの取り組みを進めています。特に伊予鉄道 市内線(路面電車) の活用によって、公共交通の利便性を向上させ、中心市街地の交通網を効率化することに力を入れています。これにより住民の移動がスムーズになり、高齢者を含む全世代に対応した住環境が整備されています。
さらに「城山公園」などの都市緑地を活用し、市民にリラックスできる空間を提供する一方、観光資源としても市街地の魅力を高め、地域経済の活性化を図っています。松山市は、交通、住宅、医療、観光の各分野を統合し、効率的な都市運営を実現しているのです。
※参考:松山市 中心市街地活性化
富山県富山市
富山市は、「コンパクトなまちづくり」 の一環として、公共交通網を強化し、中心市街地の再開発を推進するモデル都市として広く知られています。
特に2006年に導入された 「富山ライトレール(LRT)」 は、全国でも成功例として評価されています。このLRTシステムは、富山市の鉄道路線を中心に市内外の交通を結びつけ、通勤・通学者の利便性を向上させました。LRT導入後、市街地の来訪者数が増加し、沿線の商業エリアも活性化につながっています。
さらに環境面にも配慮した都市設計を進めており、再生可能エネルギーの利用や、エコな街づくりを進めることで、持続可能な都市としても注目を集めています。
※参考:富山市 コンパクトなまちづくり
大分県大分市
大分市は、「大分市都市計画マスタープラン」 に基づいて持続可能な都市づくりと地域の活性化を進めています。このプランでは、コンパクトシティの推進が都市計画の重要な柱となっており、人口減少や高齢化社会に対応するため、中心市街地に都市機能を集約することが目的とされています。
具体的には、公共交通機関の利用促進や、中心市街地における居住誘導を図り、効率的で住みやすい都市構造を目指しています。大分市では、バス交通の利便性を高めるために 「大分市地域公共交通計画」 を策定し、公共交通網の整備に力を入れています。これにより交通アクセスの改善が図られ、中心市街地への移動がよりスムーズになるでしょう。
※参考:大分市 都市計画マスタープラン
コンパクトシティで実現する快適な暮らしを手に入れよう
コンパクトシティは、人口減少や少子高齢化といった現代の課題に対処するための効果的な都市設計のアプローチです。都市機能を一箇所に集約し、効率的な運営を実現することで、住民にとって利便性の高い生活環境を提供します。
さらに、行政コストの削減により、医療・教育・福祉といった公共サービスの質が向上し、住民全体にとってメリットが多いモデルです。特に高齢者や都会的な生活を望む人々、地域コミュニティを大切にする方にとっては、コンパクトシティの環境は非常に快適で理想的といえます。
各地域で実践されているコンパクトシティの事例を参考に、自分に合った住まいを選ぶことで、快適な生活を手に入れることができるでしょう。持続可能な都市生活を実現するためにも、コンパクトシティの特徴やメリット・デメリットを理解し、自分のライフスタイルに合った都市環境を見つけることが大切です。