賃貸物件の契約途中でも、引っ越しをキャンセルせざるを得ないことがあります。転勤がなくなったり、進学先や就職先が変更になったりするなど、さまざまな理由があるでしょう。その際に「引っ越しのキャンセルは可能なのか?」「キャンセルによって違約金はかかるのか?」という疑問を持つ方も少なくありません。
今回は賃貸物件の申し込み後のキャンセルについて解説します。
※申し込み後のキャンセルは、家主さんや管理会社に大きな迷惑がかかるものです。本書は「やむを得ない事情によるキャンセル」を前提に記載しています。複数物件に申し込みをしたり、軽い気持ちで部屋を押さえたりする行為はお止めください。
賃貸物件申し込み後でもキャンセルできる?
結論から言うと、賃貸物件の申し込み後でもキャンセルすることは可能です。ただし、賃貸物件の申し込み後のキャンセルでは、以下の点に注意してください。
・違約金やペナルティが発生する可能性があること
・契約手続きの進み具合によって、違約金やペナルティのリスクは変わること
ペナルティなしでキャンセルできないということは、最低限押さえておきましょう。
賃貸物件申し込み後のキャンセルで違約金は発生する?
賃貸物件申し込み後のキャンセルでは、違約金が発生する可能性があります。違約金がかかるかどうかは、以下のような点から明言しづらい状況といえます。
・違約金についての明確な定めが存在していないため
・契約成立の判断が個別に異なるため
・契約手続きの進捗状況によって、キャンセルによる事態の大きさも変わるため
本項では、契約の進捗ごとの違約金リスクについて見ていきましょう。
違約金発生の可能性【低】:審査承認前~契約書捺印前
申し込みをしてから審査の結果が出て、契約書に捺印するまでであれば、違約金が発生する可能性は非常に低いと考えられます。違約金が発生する可能性が低い理由は、契約が成立していないからです。
契約の成立とは、賃貸実務では以下のすべての行為が完了することを指します。
・貸主と借主が契約書への署名捺印を完了させること
・借主が貸主へ必要書類(住民票など)の提出をすること
・借主が初期費用を貸主へ支払うこと
・貸主が居室を借主に引き渡す準備を終わらせること
しかし、家主さんや管理会社によって契約成立の解釈は変わります。そのため、家主さんや管理会社によっては、上記のうち一つでも完了していることを理由に、違約金を請求される可能性は否定できません。
違約金発生の可能性【中】:契約書捺印後から決済金を振り込む前
契約書へ署名捺印を行い、決済金(敷金や礼金などの初期費用)を振り込む前にキャンセルをしたときは、違約金がかかる可能性が高くなります。なぜなら、貸主側も借主に対して、賃貸物件を引き渡すための準備に着手していることがあるからです。
違約金発生の可能性【高】:決済金振り込み後から鍵渡し前
決済金の振り込みも終わり、あとは鍵を受け取るだけの状況でキャンセルすると、高確率で違約金が発生すると考えましょう。これは、貸主と借主の双方が契約成立の要因をほとんど満たしているからです。家主さんや管理会社によっては、解約扱いになる可能性も十分にあることを覚えておいてください。
このタイミングでは、申し込み日から1ヶ月程度が経過しているはずです。その間、家主さんや管理会社は募集をストップさせ、借主の入居のために動いています。キャンセルされた家主さんからすれば、機会損失以外の何物でもありません。そのため、違約金の発生も仕方がないタイミングであると考えられるでしょう。
違約金発生の可能性【高】:鍵渡し後
鍵をもらってからのキャンセルは、もはやキャンセルではなく、解約になります。契約書に定められた解約予告期間にのっとり、解約手続きを行うことになるでしょう。
契約の進捗ごとの違約金については、以下のようにまとめられます。
キャンセルのタイミング | 違約金の発生可能性 | 違約金の内容 |
---|---|---|
審査承認前契約書捺印前 | 低い | ・賃料の1ヶ月分 など ※申込書に記載されていることが多い |
契約書捺印後~決済金振り込み前 | 高い | ・賃料の1ヶ月分など申込書記載の違約金 ・鍵交換費用や消毒費用など貸主が負担した実費 |
決済金振り込み後~鍵渡し前 | かなり高い | ・賃料の1ヶ月分など申込書記載の違約金 ・鍵交換費用や消毒費用など貸主が負担した実費 ・申し込み日からキャンセル日までの家賃などの相当額 ・場合によっては解約扱いにもなる |
鍵渡し後 | 違約金ではなく解約処理 | ・原則として解約扱いとなり、その手続きは契約書に基づく |
なお、違約金の内容や金額については、家主さんや管理会社によって異なります。キャンセルの可能性が申し込み時点でわかっているときは、以下の点に注意して申し込み手続きを進めると良いでしょう。
キャンセルになる可能性があることを仲介業者に伝える
伝えたからといって、違約金がかからないわけではないことに注意が必要です。また、期限があれば家主さんや管理会社の印象も良いでしょう。(〇〇日には辞令が出るため、辞令が出なければキャンセルになりますなど)
キャンセルになったときの違約金について仲介業者に確認する
仲介業者であれば、家主さんや管理会社のクセを知っていることが多いです。キャンセルしても違約金がかかりにくい物件を紹介してもらうのも、一つの方法です。
いずれにしても、借主の窓口は不動産会社となります。信頼できる不動産会社を探すことが重要です。
賃貸物件申し込み後にキャンセルせざるを得なくなった場合の手順
賃貸物件の申し込み後にキャンセルするときは、どのような手続きを踏むのでしょうか。手順と手続きの流れを知っておくことで、急な事態にも安心して対応できます。
STEP1. 不動産賃貸仲介業者に連絡する
最初に、申し込みをした賃貸仲介業者に連絡を入れてください。家主さんや管理会社への連絡は、賃貸仲介業者より行うため不要です。
賃貸物件へ申し込みをした時点から、お部屋の引き渡しに向けて家主さんや管理会社は準備を進めています。準備が進めば進むほど、自身に違約金がかかる可能性も高くなります。そのため、一刻も早くキャンセルの旨を伝えることを覚えておいてください。
STEP2. 正直に理由や状況を話して謝罪をする
キャンセルの理由で、嘘をつくべきではありません。正直な理由と状況を話してください。正直に理由を話すべき理由は、以下の2点からです。
・虚偽の申し込みやキャンセルが発覚すると、不動産関連会社から取引してもらえなくなる
・嘘をつくことによる罪悪感が発生する
賃貸物件の申し込みやキャンセルの場で嘘をつくと、次回の審査に響くことがあります。これは、不動産業界全体として、嘘をつく人を信頼しない傾向にあるからです。嘘をついてキャンセルしたお客様が再度来店されても、営業担当者が接客対応を行うことは考えにくいでしょう。
賃貸仲介業者からの連絡を待つ
賃貸仲介業者へキャンセルの旨を伝えたら、あとは折り返しの連絡を待ちましょう。キャンセルの旨を家主さんや管理会社に伝えて、そもそも違約金がかかるのか、違約金がかかるときの内容と金額はいくらかなどを聞く必要があります。
賃貸物件申し込みをキャンセルするときの注意点
最後に、賃貸物件をキャンセルするときに注意するポイントを解説します。賃貸仲介においては、一般の取引や売買と異なるポイントがあるため、キャンセルの場でも異なる理解が求められます。
まずは仲介業者に連絡をする
賃貸仲介業者に連絡を行い、家主や管理会社からの回答を待ちましょう。最初の連絡では、以下のポイントが重要です。
・すぐに連絡をすること
・正直に報告をすること
・家主さんや管理会社からの回答を待つこと
賃貸仲介業界に関わらず、キャンセルの連絡は気が引けるものです。しかし、だからこそ早く正直に連絡するようにしましょう。
預り金や申込金の返還を求める
申し込みの段階で仲介業者に預けている「預り金」や「申込金」は、キャンセルすると原則返還されます。そのため、仲介業者に対しては預り金や申込金の返還を求めましょう。
ただし、決済金を既に仲介業者に振り込んでいて、その決済金が既に家主さんや管理会社に送金されているときは注意が必要です。この場合でも、預り金や申込金の返還が認められないわけではありません。しかし、上述のとおり何かしらのペナルティや違約金がかかる可能性があることは認識しておきましょう。
必ず家主や管理会社からの請求書を受け取る
家主さんや管理会社から違約金を請求されたときは、必ず請求書を受け取ってください。請求書がないお金は払うべきではありません。
請求書を発行してもらう理由は、以下のとおりです。
請求者が誰かを明確にする必要がある
悪い仲介業者が勝手に請求している可能性も否定できません。請求者名の入った請求書をもらうようにしましょう。
どのような名目でいくら請求しているのか内訳を明確にする必要がある
キャンセルで迷惑をかけたとしても、好きな金額を請求できるわけではありません。納得感のある名目で、妥当な金額かを確認する必要があります。
口頭でのやりとりや請求は極めて危険なので、必ず書面を残すことを心がけてください。また、お金を支払ったあとは、領収書も必ずもらう必要があります。違約金の請求を受けた段階で、請求書と領収書の発行をお願いしておきましょう。悪質なトラブルに巻き込まれる可能性を減らすことが期待できます。
クーリング・オフは適用されない
賃貸物件の申し込みで、クーリング・オフは適用されないことも覚えておきましょう。クーリング・オフとは、契約をしたあとであっても、一定期間内であれば無条件でキャンセルできる制度のことをいいます。
クーリング・オフでは、保護の対象となる取引が定められています。賃貸物件の申し込みはどの取引にも当てはまらないため、クーリング・オフの保護対象とはならないのです。
なお、クーリング・オフについては以下のサイトを参考にしてみてください。
簡単にキャンセルできないからこそ、賃貸物件への申し込みはやはり慎重に行うべきです。申し込みにあたっては、家族や友人へも相談をして、客観的な意見も取り入れましょう。そのうえで、これだと思える賃貸物件に出会えたとき、自信を持って申し込みすることをおすすめします。
賃貸物件が自分に合っているかどうかや申し込みすべきかどうかは、プロである不動産会社の意見も参考にしてみてください。キャンセルする可能性がある状態でのお部屋探しにも、味方になってくれるでしょう。
賃貸物件申し込み後のキャンセルがないように慎重に物件を選ぼう
今回は、賃貸物件の申し込みをしてからのキャンセルについて解説しました。申し込み後のキャンセルについてまとめると、以下のとおりです。
・キャンセルするかも知れない状態の部屋探しであることを不動産会社に伝える
・賃貸物件の申し込み後のキャンセルには、違約金がかかることがある
・キャンセルしなければならないことがわかった時点ですぐに連絡をする
・話が進めば進むほど、違約金は高額化する
このプロセスを知っておくだけで、大きなトラブルに巻き込まれることもなくなるでしょう。また、賃貸物件は、家主さんや管理会社によって考え方や運営スタンスが異なります。その点をうまく利用するためにも、窓口であり、パートナーである不動産会社との協力体制は欠かせません。
可能であれば、ポータルサイトで物件に対して問合せをする前に、不動産会社へ問合せをしておくことをおすすめします。