30円のコロッケなど、50年前の貨幣感覚が残る十条の商店街「鮮魚店が元気な商店街は絶対に儲かっている」

都内屈指のターミナル駅である池袋駅から埼京線に乗って10分足らずのところに、十条という少し変わった街があります。

十条駅のすぐ近くには、4つの商店街と合計500店舗もの商店から構成されている超巨大な商店街があり、十条の知名度の低さとは裏腹に、この商店街には平日でも1万5000人もの人が訪れているのですが、興味深いことに十条銀座商店街にはコンビニが一軒もなく、それはコンビニが十条では競争に勝てないという調査結果を出したことにあるようです。





通常、コンビニは利益率の高いおにぎりや唐揚げなどの商品を売って利益を確保するのが一般的だと言われています。

ところが、十条の商店街では商品の質が高いにも関わらず、焼き鳥が60円、コロッケは30円、唐揚げに至っては10円と、まるで50年前の貨幣感覚を思わせる商店がほとんどなのです。

そのため、十条の人たちにとってコンビニは「高くて質の悪い商品」を売っている店でしかないのですから、コンビニが入ってこられないのも当然でしょう。





十条の商店街が低価格・高品質を徹底するようになったのは戦後のことだったようです。

当時、東京の郊外も同然だった十条周辺には、あまり収入の多くない人たちが移り住むようになり、そんな彼らが「良いものを安く買いたい」と無茶な要求を続けた結果、商店街がその要求に応え始めたと言われています。 (1)

そうして良いものを1円でも安く提供しようと、現在でも総勢500店舗もの商店が工夫に工夫を重ね続けているのですが、興味深いことに、新しく引っ越してきた地域に不慣れな住人もこの商店街で買い物をしているのです。





一般的に街の商店街は地元色が極端に強いため、まだ街に慣れていない新しい住人たちは大型スーパーやコンビニを使う傾向にあり、それが重なることで全国の商店街は少しずつ衰退していきました。

しかし前述したように、十条の商店街にはコンビニや大型スーパーが一軒もないため、新しく入ってきた住民は商店街を使わざるをえず、このようにして十条の商店街は自らのテリトリーを守ってきたのです。

そのため、仮に住民が大きく入れ替わったとしても、コンビニや大型スーパーは商店街に入ってこられないので、十条の商店街はいつまでも活気を保ち続けることができる仕組みが確立されていると言えます。





あまり知られていないことですが、商店街の経済活動の状況をリアルタイムでチェックする指標となるのは鮮魚店だと言われています。

と言うのも、鮮魚は売り場に何日も置いておけず、保存も効かないので、商店街の経済が停滞すると一番最初に消えるのが鮮魚店だと言われているのです。

そんな中、十条銀座商店街には、商店街の顔とも言える大正初期創業の魚鈴本店という鮮魚店が今日も大勢のお客さんで賑わっており、その姿を見ている限り、まだまだ十条の商店街経済は好調であることがよく分かります。





儲かっている商店街には2パターンあって、一つは大型スーパーを中心とした回遊ルートが成立している大資本に支えられているもの、そしてもう一方は上野のアメ横や浅草の仲見世通りなど完全に観光地化しているものですが、十条の商店街はそのどちらにも属していません。

そういった意味では、十条が高品質と低価格という矛盾の中で作り上げてきた独自の商店街経済は今後、大資本や観光客に頼りたくない商店街にとって目指すべき指標になるのではないでしょうか。


【参考書籍】(1)地域批評シリーズ編集部、鈴木士郎、昼間たかし『日本の特別地域 特別編集70 これでいいのか 東京都北区』(マイクロマガジン社、2015)Kindle


著者:高橋将人 2018/4/25 (執筆当時の情報に基づいています)
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