土曜日しか営業しない白Tシャツ専門店が店を構えるダガヤサンドウ「モノが売れない時代の打開策はこの街にある」

JR中央線の「千駄ヶ谷駅」から東京メトロ副都心線の「北参道駅」までを結ぶ歩いて10分程度の狭いエリアは、千駄ヶ谷と北参道をかけあわせて「ダガヤサンドウ」と最近呼ばれるようになってきました。

ダガヤサンドウは約40年前に小説家の村上春樹さんが小説家として本格的に活動するようになるまでピーターキャットという喫茶店を営んでいたエリアとしても有名で、新宿、渋谷、そして原宿に挟まれながら、どこの街にも染まらなかったダガヤサンドウには、いつしかトレンドを発信する業界人たちがひっそりと集まる穴場のようなスポットになったのです。





そんなダガヤサンドウは今や本物志向の店が集まる街として少しずつ話題になりつつあります。

普段、私たちは街中で様々な企業の広告を目にし、実際にそれらの商品を店頭で手にしますが、企業の広告費はしっかりと商品に上乗せされていて、言ってみれば、私たちは自分でお金を払って企業の広告を見て、その上、商品を割高に購入していることになります。

そんな中、広告を打たない代わりに、素材にこだわり商品のクオリティを徹底的に上げることで、消費者自らがインスタグラムに投稿して店の宣伝するような動きがダガヤサンドウで活発になっています。





ダガヤサンドウは買い物の用事が無くても、厳選した材料で作られたアイスクリームを食べながら街を散歩するだけで十分に楽しいスポットなのですが、最近はこうした流れを「コト消費」と呼ぶようになりました。

コト消費とは物が売れない現代において脚光を浴びている言葉で、車や時計などを購入するモノ消費の対義語として、何かを体験することを「コト消費」と指します。

ただ、最近は言葉ばかりが独り歩きしてしまい、大切なのは「コト」とセットで「モノ」を買ってもらうことなのにも関わらず、ただ楽しいだけで終わってしまっている商店街や自治体が少なくありません。

そんな中、ダガヤサンドウでは「コト」が「モノ」にきちんと結び付けられています。(1)





例えば、ダガヤサンドウにある白無地Tシャツ専門店「#FFFFFFT(シロティ)」は扱う商品が白Tシャツだけで、しかも営業日は週1日の土曜日だけといった個性的な店ではあるものの、土曜日には長蛇の列が出来ることで有名です。

シロティでは数十種類の白いTシャツを実際に見て、触って、そして試着することで自分にあった1枚を探すという「体験(コト)」を提供しています。

そして、そんなシロティが他の店と圧倒的に異なっているのは、シロティの店員がまるでワインのソムリエのようにTシャツの説明を行うところにあって、一人ひとりにしっかりと説明ができるよう一度に1組または2組ずつしか入店できないシステムになっているのです。

一般的には、店員が商品を勧めてくることを良く思わないお客さんがほとんどでしょう。

しかし、自分の意思で店内に入ってきて、あれこれ試着してどれにしようか迷っているような「安全地帯」にいるお客さんは、むしろ店員の説明を聞きたがっている場合がほとんどなのです。(2)





このようにまずは徹底的にお客さんを楽しませて安全地帯に誘導した上で、「こちらの商品は・・・」とアプローチをかけるダガヤサンドウの店主たちはある意味、人間のことを誰よりも深く理解していると言えるのかもしれません。

新宿、渋谷、そして原宿といった巨大マーケットに囲まれた空白地帯、ダガヤサンドウ。今、この街で新しいビジネスのあり方が確立されつつあるようです。


【参考書籍】

(1)川上徹也『「コト消費」の嘘』(KADOKAWA / 角川書店、2017)Kindle

(2)川上徹也『「コト消費」の嘘』(KADOKAWA / 角川書店、2017)Kindle


著者:高橋将人 2018/4/30 (執筆当時の情報に基づいています)
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