西荻窪の古本屋はパン屋のすぐ近くに店を開く「面白い本は100円コーナーにある書き込みだらけの汚れた本」

東京で古本の街と言えば誰もが神保町をイメージしてしまう中、最近、古本街として激戦区になりつつあるのが杉並区・西荻窪エリアであり、なんと西荻窪駅の半径2キロには25店舗もの古書店が集積しているのです。

新宿から中央線に乗って10分程度の場所にある西荻窪で古本屋が増えているのは、サブカルで有名な中央線沿線に個性的でレベルの高い飲食店が増えてきていることに関係しているのだそうです。

西荻窪では古本屋を開店する場所を選定する際には、人気のパン屋さんやカフェのすぐ近くにオープンすると言われています。





と言うのも、人気のパン屋さんやカフェには、わざわざ電車に乗って遠くからやって来るリピート客が大勢いるため、そんな彼らが帰り際に店に立ち寄ることで古本屋の売り上げは大きく左右され、特に中央線の快速電車が土日祝日に停まらない西荻窪にとって、休日の通行者数が店の経営を大きく左右することは言うまでもありません。(1)

こうして西荻窪に感度の高いお店が増えるのに従って、古書店の数も増えてきている訳ですが、興味深いことに昨今よく耳にする「活字離れ」という言葉とは裏腹に、現在の古本市場は約900億円規模とも言われています。

ここから分かるのは、アマゾンで注文すればKindleですぐに読み始められる時代に、わざわざ店舗にまで行って、しかも中古の本を買い求めるという需要が思っている以上に大きいということで、恐らく、その理由は古本ならではの汚れや傷にあると言えるのでしょう。





西荻窪だけに限らず、どこの古本屋にもある100円コーナーに並んでいる本を買うと、中に線が引かれていたりメモが書かれていることがあり、これによって商品としての価値は大きく下がってしまうものの、実はこうした線やメモは面白い本のバロメーターでもあると言えます。

どうしてかと言うと、線が引かれているところは前の持ち主が「ここが面白いよ」とオススメしているポイントだからです。

そしてその線を目で追っていって、その箇所があなたの意見と重なれば、前の持ち主はあなたと似た感性を持った人だと分かるでしょうから、その本はあなたに合う本だと判別できてしまいます。(2)





古本市場ではこうした書き込みは敬遠されてしまいますが、線が引っ張ってあるということは、前の持ち主がその本に真剣に向き合い、そして心を動かされた痕跡だと考えることが出来るのではないでしょうか。

そういった意味において西荻窪の古本屋には、私たちが会ったことのない誰かが真摯に物事を考え抜いた痕跡がたくさん詰まっているということになるでしょうし、そう考えれば、西荻窪ほどロマンのある街はないと言ってもよいのかもしれません。

【参考書籍】(1)岡崎武志『古本道入門 買うたのしみ、売るよろこび』(中央公論新社、2017)Kindle
(2)古沢和宏『痕跡本のすすめ』(太田出版、2014)Kindle


著者:高橋将人 2018/5/2 (執筆当時の情報に基づいています)
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