夜6時にオープンして深夜1時まで営業する松陰神社前のパン屋「大都会の『陸の孤島』は独自の発展を遂げる。」

世田谷区・三軒茶屋から2両編成の小さな路面電車に乗って5分くらい行ったところに、松陰神社前(しょういんじんじゃまえ)駅を中心とした小さな街があります。

松陰神社前エリアは、地図上で見ると渋谷にものすごく近いのですが、環状七号線と環状八号線という太い道路に分断され、東急世田谷線という地元の人しか乗らない超ローカル電車に乗らなければアクセスできないため、この街は「陸の孤島」と呼ばれることがあるのだそうです。

しかし陸の孤島と呼ばれるだけあって、短期間で街並みがどんどん変化する新宿や渋谷の街とは違って、時間をかけて文化が熟成された松陰神社前は、独自の発展を遂げ、その面白さに気付いた感度の高い人たちが少しずつ松陰神社前に集まりつつあります。





松陰神社前エリアは道幅が狭く交通量が少ない上、一店舗あたりの面積が10以下と非常に小さいため、賃料が比較的安く設定されていることから新しいことに挑戦したい若い人が流れ込んで来やすい環境にあるのです。

そうやって若い商店主が増えることによって、彼らがさらに若い商店主を呼び込むという循環が起き、松陰神社前エリアでは近年急速に商店主の世代交代が起き始めています。





若い商店主が増えたことで松陰神社前エリアが大きく変わったことは、夜遅くまでやっている店が増えたことでしょう。

例えば、「good sleep baker」というパン屋さんはなんと夜6時にオープンして深夜1時まで営業しており、早朝に開店して夕方には店じまいをする従来のパン屋さんの常識を覆したのです。





もともと農業を中心とする社会に生きてきた日本人にとって、昼間に働くことはもっとも効率よく農業を行える生活スタイルだったため、夕方以降は明日に備えて早く寝ることが美徳とされてきた歴史があり、そのため日本社会では夜、出歩くことは良しとされてきませんでした。

特にこの傾向は年代が上がれば上がるだけ強くなり、実際に高齢の商店主が多い商店街は日が暮れるとあっという間に閉店してしまうでしょう。

しかし、現代社会では日が暮れてから活発に活動する人の数は毎年増え続けており、ある調査によればこの5年間で夜間の時間帯に活動する人口は約122万人も増えたと言われて、そうした社会の変化に敏感な松陰神社前の店主によってこの街は朝型から夜型へと少しずつシフトし始めています。





人間が何かを消費するために必要なものは、お金、意欲、そして時間だと言えるでしょう。

そしてこの3つの中で現代人がもっとも不足しているのが「時間」だと言えますから、彼らに消費機会を与える松陰神社前の商店が最近ジワジワと人気を集めているのも自然な流れだと言えます。

そういった意味では、これからは何か新しいことを始めるのならば、夜が面白い松陰神社前のような街なのかもしれません。だって、夜の商店街経済はまだまだ未開拓な成長分野なのですから。


著者:高橋将人 2018/5/16 (執筆当時の情報に基づいています)
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