武蔵小杉がタワマンの街になった理由「新しい街のコミュニティは自分たちで作る」
再開発により急速に発展した武蔵小杉は、住みたい街ランキングの常連となり、今では人気の街として圧倒的な認知度を誇っています。
しかし一方で、人口の急増による駅の混雑、子育て世代の大量流入による小学校不足、そして新規住民と地域社会との溝など、新興都市ならではの問題が山積していることも事実です。
特に武蔵小杉はマンションや商業施設などハード面の整備が先行したこともあって、地域コミュニティを始めとしたソフト面はまだまだ発展途上だと言えます。
こうした中、武蔵小杉ではゼロからコミュニティを生み出す機運が高まってきているようです。
武蔵小杉でコミュニティを作ろうとする動きが強まっているのは、新規住民同士の連帯感の欠如、そして新規住民と既存住民との間にある溝が大きな理由に挙げられます。
そもそも現在の武蔵小杉があるエリアはもともと京浜工業地帯の一角として富士通、日本電気、東京機械製作所を始めとした工場や社宅が多いエリアで、つい30年ほど前までは工場跡地でした。
遡ること30年前、土地の合理的な活用と都市機能の増進をはかるため昭和63年に「再開発地区計画制度」が設立され、これをキッカケに日本各地で再開発への機運が高まり、武蔵小杉もその一つだったのです。
というのも、当時の武蔵小杉はもともと工場用地だったこともあり、一つの敷地ごとの面積が非常に広く、権利者との調整が容易であったため、再開発を進めやすかったことがターゲットになった要因の一つでした。
そうした経緯があり、当初は大型商業施設、百貨店、ホテル、そしてオフィスビルが立ち並ぶようなまちづくり計画が立てられていたのですが、バブル崩壊によって計画が見直されることになります。
そこで次に立ち上がった計画が住宅、娯楽、商業、文化、そして教育をかけ合わせた複合的なまちづくりでした。
そして2007年にレジデンス・ザ・武蔵小杉という24階建のタワーマンションが登場してからというもの、わずか10年の間に20階建以上のタワーマンションが14棟以上も建設されエリア一体の風景は豹変しました。
2014年からは「ららクラス武蔵小杉」や「グランツリー武蔵小杉」などの大型商業施設が次々とオープンし、市立図書館や区役所などの施設も駅周辺に集まるなど、駅を中心に住宅から商業施設まで生活需要をすべて満たすことができる都市空間が完成したのです。
武蔵小杉を空間的に見れば、狭いエリアの中で居住空間が地上から上方に、商業施設などの生活需要を満たす空間がその下にあるという、これまでの日本の都市ではあまり見かけなかった「縦長」の都市構造になっています。
こうした新しい都市構造は新鮮味がある一方、 急速な環境変化による地域の分断も起きているようです。
かつて工業都市だったこのエリアには工場勤務の労働者たちが仕事帰りに立ち寄る居酒屋が数多くあり、現在のイトーヨーカドーの周辺にその当時の名残がありますが、再開発によってこうしたエリアに影響が出始めました。
高度経済成長期の時代にはこの周辺にあった商店街はうまく人を取り込み、商店街自体に賑わいがあったものの、先述の「ららクラス武蔵小杉」や「グランツリー武蔵小杉」などの登場で昔ながらの商店街は苦戦を強いられています。
こうした状況に対して古くからの住民は再開発に対して不安や不満を抱いているだそうです。
そこで考えられたのがエリアマネジメントでした。
武蔵小杉は新興都市としてまずは住宅、そして次に商業施設の順に開発を進めてきましたが、いずれもハードの開発でありソフトの設計開発は手付かずの状態だったのです。
ここで立ち上がったのが、武蔵小杉の住民間のコミュニティ形成を支援するNPO法人「小杉駅エリアマネジメント」です。
同NPO法人は地域の町内会、商店街、市民活動団体の代表らによって組織されており、武蔵小杉の住民、行政、商店街、商業施設などの橋渡し役となっています。
武蔵小杉は再開発によって約2万人も人口が増えましたが、その大半がタワーマンションに住んでおり、既存住民と生活導線が異なることから接点が多くありません。
また同じ新規住民同士であっても交流の機会が少ないことから、交流の場を設ける取り組みを行うなどしてコミュニティ形成を模索しています。
ここ10年ほどであっという間に形作られた武蔵小杉。まちの構造から地域社会まで、既存の都市とはそのあり方が大きく異なるこの街は、その10年後20年後の姿がなかなかイメージしにくいものです。
圧倒的なハード面の整備によって、かつての工場地帯から住みたい街ランキング常連へと姿を変えた武蔵小杉が今後いかに「コミュニティ」というソフトを整備していくのか注目です。
2020/2/19 (執筆当時の情報に基づいています)
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