ラジオの平均聴取率が5%の中、ローカルラジオ局が増えている「デジタルとアナログは互いに足りない部分を補完する関係になる」

地域の情報伝達を担うメディアは、古くは回覧板に始まり、地方紙やフリーペーパーなど多種多様ですが、最近はその中でも「コミュニティFM」と呼ばれるラジオ放送が注目を集めているようです。

とは言っても、テレビ、新聞、雑誌、ラジオからなる従来の4大メディアの中で、ラジオはもっとも影響力の低下が著しく、実際に首都圏エリアの平均聴取率はたったの5.2%程度しかありません。

それにも関わらず、コミュニティラジオ局の数は増加傾向にあるようで、今回はラジオ業界誌の「好きなラジオDJランキング」コミュニティ放送部門で2010年から7年連続で日本一に選ばれた、レディオ湘南のDJ・HAGGYさん(以下、ハギーさん)にお話を伺いました。

災害時に存在感を示した地域ラジオ「災害時に頼れるのは、テレビやネットではなく、ラジオ」



レディオ湘南は全国で31番目のコミュニティラジオ局として、1996年に開局した
ハギーさんにお話を伺ったところ、ラジオが衰退する中、ラジオの災害放送メディアとしての存在感が地域の中で大きくなってきているとして次のように語ります。

「コミュニティラジオが注目されるようになったのは、阪神淡路大震災のときがキッカケなんです。あの当時、たまたま神戸市長田区にコミュニティラジオがあったんですよ」

「『ここに行くとお風呂に入れますよ』とか『この公園で食べ物がもらえます』とか、そういう放送が混乱した状況の中で活躍した。それで、地域密着のコミュニティ放送は大切だということで、全国にどんどんコミュニティラジオ局が開局していって、今ではその数は全国に300以上あるんです」



レディオ湘南の人気DJ・HAGGYさん。累計放送回数はすでに5600回を超え、2020年初頭には放送回数6000回を迎える
マスメディアは全国的規模を対象にして情報を発信しているため、情報自体は広域に及ぶものの、全国の地方コミュニティに属している人々が必要とする地域情報は、よほど深刻な内容でない限り放送されることはありません。

確かに普段の生活において、地域情報の重要度はそれほど高いものではないのかもしれませんが、一方で震災が起きた際、該当地域に関する情報不足は死活問題にもなりえます。

事実、阪神淡路大震災、新潟県中越地震、そして東日本大震災などを経て、コミュニティラジオのような地域メディアの重要性が唱えられるようになったように、地域情報を特定の地域にピンポイントに届ける、狭くて深い情報を発信する地域メディアが重要になってきているというわけなのです。



番組名や時間帯は時代によって変動はあったものの、ハギーさんの「湘南に朝がやってきました!」という第一声は23年間変わらない。
そういった意味では地域メディアとしてのラジオの重要性は高いと言えるものの、かと言って普段から利用するかと問われれば、多くの人は首を横に降るでしょう。

しかしハギーさんによると、湘南では小学生から高齢者まで幅広い年齢層の方がコミュニティラジオを聴く文化があるのだそうで、さらにハギーさんのラジオ番組は小学生のリスナーが多いと言います。

地元の人たちが全員株主のコミュニティラジオは、地元の人による地元の人のための地域メディア



ラジオ番組放送中、スタジオのガラス窓越しに道ゆく人たちに手を振るハギーさん
「僕のラジオは多くの小学生が聴いていて、湘南では小学生がラジオを聴いてから学校に行くんですよ。小学生から、その日の給食の献立を送ってもらうコーナーには、たくさんのファックスが送られてきますよ」

「このコーナーは開局の年(1996年)にたまたま始まったものなんです。小学4年生の女の子が、学校へ行く前にスタジオに来るようになってね。でも、話しかけると『うん』としか言わない子で。それで『今日の給食は?』と質問してみることにしたんです。」

「その女の子の話を聞いて、『僕も食べたいなあ』と相槌を売っていたら、地元の小学校の給食に招待されて、その時のエピソードをラジオの番組中に話したら、他の小学校の子供たちからも給食の献立が送られてくるようになって。それでたくさんの小学生がラジオを聴いてくれるようになったんです。」



さらにハギーさんの番組は小学生だけでなく、高齢者のリスナーにも人気があるようで、そのことに関して次のように語ります。

「あるとき、湘南エリアに住む農家の高齢者リスナーが膝を痛めたんです。農作物の収穫期だというのに、これでは収穫に行けないということで、収穫の手伝いに行ったことがあるんですよ。そこから、評判が広がっていって、幅広い世代に聴かれるようになったんですね」

「ただ、こういうことをやっていると、大手ラジオ局で番組を持っている人たちから、『そんなことをやってないで、喋りに徹しろ』と叱られたんです。でも、大手ラジオ局とうちのようなコミュニティラジオ局は、違うやり方をしないとダメなんです」

「コミュニティラジオ局は第三セクターだから、税金が使われている。それは言い換えれば、湘南地域の住民全員がラジオ局の株主ということになるんです。地元の人に寄り添ったメディアでなくてはならないんです」

地域ラジオは生身のコミュニケーション「デジタルVSアナログではなくて、デジタルとアナログは互いに支え合うもの」



ハギーさんは、コミュニティラジオが担っている指名は、生身のコミュニケーションを提供することだと言います。

東日本大震災が発生した際、ハギーさんはレディオ湘南に泊りがけで2日間放送を続け、そんな中でリスナーの方から「旦那が帰ってこれなくて心細かったけど、いつもラジオで聴いているいるハギーさんの声が聞けて安心した」と言われたとして、ハギーさんは次のように述べます。

「人間だから、生の声が聴きたいんですよ。例えば、これだけインターネットが発達して便利になって、みんなメールでやりとりしていますが、出張はいつまでたってもなくならないですよね。直接会うなど、生身のコミュニケーションなしにビジネスで何千万円、何億円というお金が動くことってあまり無いでしょう」

「どれだけデジタル化が進んでも、人間の体はアナログなんだから、生身のコミュニケーションは絶対になくならないんです。最近は大学でコミュニケーションの授業を教えていますが、わざわざコミュニケーションを教えるということは、それだけ大切なものということなんでしょう」



確かにハギーさんが言うように、これだけコミュニケーションにかかるコストが低くなっているのにも関わらず、生身のコミュニケーションは無くなりませんし、むしろ、その重要性は以前よりも増しているように感じます。

デジタルとアナログ、それぞれのコミュニケーションには特徴があって、デジタルのコミュニケーションは人を動かすことはできないけれど広域に情報を届けることができ、一方のアナログのコミュニケーションは広域には届けることはできない代わりに人を動かす力がある。



最近はインターネットによって既存のメディアが淘汰されるという話を聞きますが、本当はデジタルVSアナログではなく、この二つは互いに足りない部分を補完し合う関係にあるように感じます。

そういった意味では、ラジオは時代遅れのメディアではなく、インターネットがカバーしきれない部分を補完してくれる良きパートナーとして、この先も人々の暮らしを支えていくということなのかもしれません。

【取材協力】

◾️レディオ湘南/DJ・HAGGY(萩原浩一さん)