「国内最恐」のお化け屋敷がある杉並区方南町「まちを遊園地にして、商店街に活気を取り戻す」

東京都杉並区に位置し、東京メトロ丸ノ内線(分岐線)の終着駅でもある方南町。約160の店舗で活気あふれる「方南銀座商店街」を有するこのまちには、日本全国、ひいては海外からも多くの人が集まるお化け屋敷があります。

方南町駅から徒歩5分ほどのところにぽつんと佇む、「オバケン 畏怖 咽び家」と名付けられた古びた屋敷。参加者はまず駅出口に集合し、ある戸建ての借主としてスタッフ扮する不動産屋に案内され、「問題」の家に向かいます。

そこで展開されるホラー映画さながらのシナリオに、「国内最恐」と名高いこのお化け屋敷ですが、そもそもの仕掛けの狙いは「商店街の活性化」にありました。

▼ 非日常の体験をもっと手軽に。「お化け屋敷は老若男女楽しめる、ある種の共通言語」

住宅の並ぶ一角に突如現れる古びた屋敷。ここが「恐怖」の舞台となる

方南町は高齢者が多く、商店街の店舗が後継ぎの問題で苦戦したり、そもそも客足が減っていたりと、さまざまな問題を抱えていました。そうしたなか、「まちを遊園地化したい」と語るのは、方南町出身で、代表取締役のオバケンさん。

多くの人が訪れる場所をイメージしたとき、まず「遊園地」が浮かんだそうです。まちのなかにアトラクションを配置すれば、その内外から大勢の人が集まると、構想が湧いてきたと言います。オバケンさんは、「体験」というキーワードをもとに、この着想を紐解きます。

代表取締役兼ホラープランナーのオバケンさん。 もともと「ホラー」が好きだった話す

「仕事の行き帰りにまちを歩いて、休日になると都心に出掛けてしまう。そうすると、自分のまちを楽しむ時間てあまりないじゃないですか。でも自分の住むまちが遊園地みたいだったら、そこで遊ぼうってなりますよね」

「園内のアトラクションのような、『非日常の体験』をもっと手軽に、多くの人に楽しんでもらいたいと思ったんですよ。それが呼び水になって、外の人にも方南町を知ってもらえればと」

遊園地というと、たくさんのアトラクションがあるイメージですが、そもそも「お化け屋敷」にスポットライトを当てた経緯として、ホラープランナーの吉澤ショモジさんはその「柔軟性」に着目したと話します。



「驚いたり、怖がったり、という感覚は、性別や年齢問わず、みんな一律にもっていますよね。それに、料理が味や量を調節できるように、お化け屋敷も怖さや種類を調節できますから、多くの人に楽しんでもらえるアトラクションとしてぴったりだなと思ったんです」

「うちは従来の機械仕掛けで一方通行のお化け屋敷ではなく、自由に動ける『体験型』が多くて、参加者の好きなように動いてもらえます。たとえば今回のシリーズでは、家のなかを殺人鬼が追いかけて来るんですが、演じるのはもちろんプロの方で、相手の性格に合わせて驚かせ方を変えたり、空気を読んだりできるんです」

殺人鬼から追われている際に、のなかに身を隠すことも。穴から見守る部屋は「絶恐」と名高い

お化け屋敷は次第に住民や自治体に認知され、このような本格的なものだけでなく、方南町の祭りに毎回、子ども向けのお化け屋敷を新たにつくるなど、「恐怖」の幅を広げています。

他方、現在では地方や海外からの出張依頼も多く、宿泊ありで長時間のイベントなど、その土地や対象に合わせ、シナリオや仕組みを変えていると言います。そうした積み重ねで、全国、全世界に「オバケン」の名が広がることで、「方南町」を多くの人に知ってもらえるという意図もあるそうです。

▼ 方南銀座商店街は、「変ドル」という独自通貨が流通する小さな経済圏。「このまちでしか買えないものがある」

地方出張などの際に使う物品の数々。防具などはゾンビが出てくるイベントで使用

また、「遊園地化計画」はそれだけにとどまりません。商店街活性化が基本理念にあるだけあり、方南銀座商店街には多くの仕掛けが施されています。なかでも方南町の独自通貨として機能している、「変ドル」という「へんな商店会」発行の貨幣。

商店街のなかの提携先店舗で、実際に「1変ドル=1円」として使用できる仕組みです。「へんな商店会」を代表しオバケンさんはこの通貨について、まちの外にも広めていきたい、と話します。

「お化け屋敷は1枠6人が最大で、貸し切ってくれたグループには、800変ドル渡すことにしてるんです。ほかに、地方イベントなどでも、変ドルを配ったりしています。変ドルがまちから出ていくことで、外からも方南町に買い物に来てくれますよね」

提携先店舗に置かれる、方南町遊園地化計画マップ。裏面には、「へんな商店会」と名付けられた施設の詳細が載っている。

このような取り組みは通貨に限らず、つくった製品を商店街のなかで流通させるなどの取り組みも見られます。吉澤さんは、限定販売や独自デザインなど、「このまちでしか買えない」という点が重要だと話します。

「作業着を販売しているお店に、そこでしか買えないオバケントレーナーを売ってもらったり、自社製作のホラーDVDを本屋に置いてもらったり、つくったものはなるべく、地域と絡めるようにしています」

他にも、見つければ10変ドルもらえる「ベビーカーおろすんジャー」というエレベーターのない階段等で人の手助けをするまちのヒーローを生み出したり、話しかけると言葉が返ってくる「河童のミイラ」をつくったりと、まちの遊園地化に余念がありません。

商店街に位置するオバケン事務所に祀られた「河童のミイラ」。近所の小学生の都市伝説的なスポットになっている

こうした取り組みも、まだまだ道半ばだとする二人。オバケンさんは、その未来について語ってくれました。

「今後はお化け屋敷の店舗数も増やして、アトラクションも新たにつくりたい。まちの遊園地化が、その活性化につながる。そうした式が成り立つことを方南町が証明して、全国のモデルケースになっていけば嬉しいです」

一見どこにでもありそうな普通のまちですが、一度足を踏み入れれば至るところに「仕掛け」が張り巡らされている方南町。杉並区に突如出現した「まちの遊園地」は、いまや入場料フリーの体験型テーマパークとなっています。変ドルを握りしめ、気軽に訪れてみるのもいいかもしれません。

【取材協力】

方南町お化け屋敷オバケン

代表取締役兼ホラープランナー オバケン

ホラープランナー 吉澤 ショモジ

【アクセス】

東京都杉並区堀ノ内

東京メトロ丸の内線「方南町駅」出口に集合し、お化け屋敷へ移動

※詳しくはオバケンから指定あり


著者:清水翔太 2019/2/12 (執筆当時の情報に基づいています)
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