千葉の子どもに動物の一生を伝える、千葉市動物公園「玄孫のいるおじいちゃんになっても、風太は風太です。」
人口97万を数え、“100万都市”まであと少しというところにある千葉県千葉市。
千葉駅からモノレールに乗ってビルの谷間をぬけて行き、徐々に建物が低くなって見えて来るのは、たくさんの木々に包まれた「千葉市動物公園」です。
2005年に、二本足で立つ姿が可愛いと新聞やテレビのワイドショーに取り上げられ、一大ブームを起こしたレッサーパンダの風太くん。15歳を迎えた2019年の今もこの千葉市動物公園で暮らしています。
メディアで報じられる動物園のニュースというと「赤ちゃんが生まれました」というような話題が多い中、千葉市動物公園は2019年に「風太15プロジェクト」を掲げ、今ではひ孫に玄孫までいるおじいちゃんとなった風太くんのことを積極的に発信していました。
▼ 片目が白内障になった風太くん。「かわいそう」っていう声は聞かないですが、「大変だね」とは言われます。
千葉市動物公園で飼育員をしている濱田昌平(はまだまさひら)さんは、レッサーパンダの担当となってもうすぐ12年になります。
風太くんのことも小さい頃から見てきましたが、歳をとったからといって風太くんをお客さんに紹介する姿勢に特に違いはないとして、次のようにお話しされていました。
「風太は片目が白内障になってしまいました。お客さんが見ればすぐにわかってしまうので、毎日のガイドの時や聞かれたときは詳しくお話をしています。レッサーパンダにもこういう病気があるんだよって。お客さんから『かわいそう』という声は少ないですが、『大変だね』っていう声はよく聞きます。」
「基本はありのままを見せるのが一番じゃないですか。たとえ風太の両目が白内障になっても見せられる限りは見せると思います。実際、段差のないような状態であれば、目が見えなくても立派に生きている動物はいっぱいいますからね。頭の中に地図を描いて、その空間の中で自由に過ごせると思いますよ。」
風太くんは白内障のため死角はあるけれど、元気に立てるし、餌も食べられる。寝ていることも多くなったので、ガイドの時や朝早くか、夕方がよく動いているそうです。
動物園の動物たちはみんな若々しいように思われがちですが、実際のところ、多くの動物園では昨今、高齢の動物を多数飼育しています。
そこには近年、野生の動物を海外から輸入することが難しくなってしまったという背景があります。
結果、動物園での出生数が少ないアフリカゾウやゴリラ、ホッキョクグマなどの外国の大きな動物は、あと10年もすると日本の動物園からいなくなってしまうのではないかという予測もされています。
野生の生息数がどんどん減少している動物たちは動物園からも姿を消していっている
そのため、日本動物園水族館協会が中心となって国内の動物園や水族館同士でペアとなる動物の貸し借りを行い、希少動物の繁殖に力を入れています。
濱田さんもこれまでレッサーパンダの繁殖に関わってきた経験を次のように聞かせてくださいました。
「繁殖がうまくいかない動物園もありますし、産んでも育てられない母親がいます。千葉市動物公園のレッサーパンダの母親たちはたまたま子育て上手だったんですよ。私たちの仕事は、お母さんが育てやすい環境を整えてあげること。子どもが産まれたら、獣舎には必要最小限しか入りません。掃除もしないこともあります。静かにしてそっとしてあげるんですよ。」
千葉市動物公園でレッサーパンダの担当をしている濱田昌平さん
出産や子育ては母親に任せているのですが、その様子は巣箱に設置した暗視カメラの録画で観察しているのだそうです。
「ある時、母親が子どもを食べてしまったんです。ビデオをチェックすると、子どもはすでに死亡してそれを食べていたんです。いろいろな説がありますが、死んだ子どもの臭いや血の臭いをかぎわけ、天敵の肉食動物が巣を狙うことを防ぐためではないかと考えられています。」
千葉市動物公園では風太くんの子供や孫を含め、これまでに全部で15頭が成長して、うち11頭が他の動物園などに移動しているのだそうです。
▼ 市内・県内からの来場者が80%以上。子供が無料の千葉市動物公園は、親子で時々散歩する「大きな公園」。
濱田さんはレッサーパンダの前にはゾウの担当もしていたことがあり、千葉市動物公園でのキャリアは33年になります。
この動物園の好きなところをうかがったところ、「広々としていてのんびりしているところ」とおっしゃっていました。
動物たちが木々に囲まれて見えるような緑の多い千葉市動物公園は、子供は無料で、市内の親子が大きな公園として散歩がてらやってくる場所にもなっており、訪れるお客さんは市内・県内の方が80%以上になるそうです。
リピーターのお客さんが多いため、飼育員が餌の時間にお客さんにする話は、いつも同じ話ばかりにならないように、リピーターの方がいても必ず話す話とその時々に合った話を組み合わせて考えているそうです。
濱田さんは受験の時期になると、「レッサーパンダは木から落ちない動物なので、写真をお守りにしているという話もあります。ただうちのこの子はよく木から落ちるんですよ。」というように話したりするのだとか…。
レッサーパンダのことを語る濱田さんの肩にレッサーパンダたちが駆け上がる様子が微笑ましいですが、飼育員は動物たちと近くで接する時間がとても大事なのだとして、次のように述べていました。
「お客さんが『遊んでるの?』って言いますけど、遊んでいるように見えますが、体に触れるときに毛を逆なでしたり、手足を握ったりして体の状態を確認しているんです。レッサーパンダは毛深い動物なので触れてみないと怪我などがわからないことがありますから。そういう習慣をつけて触れられることに慣らしておくと、健康管理をしやすくなりますし、何かあった時に薬を塗ったりするのが楽なんですよ。」
広々とした自然の中で、「やってみよう、うんこそうじ」「猿山で焚き火」など、現代の都会の家庭ではほぼ不可能なことも体験できる千葉市動物公園。
生まれも育ちも動物園という動物、そして、家畜などを持たなくなって動物たちと一生を共にする暮らしが遠くなってしまった都会…、動物も人間もずいぶん生活環境が変わってしまいましたが、散歩で出会うご近所さんのように、「今日は調子よさそうだね」と動物たちと顔なじみになれる千葉市動物公園は、ずっとこの街で続いていってほしいと思います。
◼️取材協力
千葉市動物公園 濱田昌平
千葉都市モノレール「動物公園駅」下車 徒歩1分
著者:関希実子・久保耕平 2019/3/5 (執筆当時の情報に基づいています)
※本記事はライターの取材および見解に基づくものであり、ハウスコム社の立場、戦略、意見を代表するものではない場合があります。あらかじめご了承ください。