フリーランスの聖地になった人口1500人の小さな町、金谷
よく例え話で、町を変えるためには「よそ者、ばか者、若者」の力が必要と言われることがあります。
しかし、彼らに町に入ってきてもらうためには、滞在するための場所や、仕事をする場所も必要ということは、あまり認識されていません。
千葉県富津市(ふっつし)にある金谷という町は、シェアハウスやコワーキングスペースを運営している「まるも」という場所が拠点になり、今では、フリーランスの聖地と呼ばれるようにまで町が変化しました。
そこで今回は、まるもを運営する、株式会社Ponnuf代表の山口拓也さんにお話を伺います。
▼ 田舎で独立できるフリーランスを育てる、まるも「場所だけ作っても、まずは人が集まらないと何も起こらないし、意味がない」
空き家になりそうだった地域活性団体のスペースを引き継いで、山口さんが始めたのが、コワーキングスペースである「まるも」と、企業向けの合宿スペースの運営でした。
そのまるもにフリーランスが集まり始めたのは、「田舎フリーランス養成講座」という、田舎で独立するのに必要なスキルを身に付けるための、講座を始めたことがきっかけだったと山口さんは語ります。
「田舎とか地方でありがちなのが、とりあえず場所だけ作るけど、何も起こらないってことなんです。そうじゃなくて、まずは人が集まってくるようなものがないと意味がないですよね」
「まるもに関して言えば、それが田舎フリーランス養成講座。これをやることで、フリーランスになりたいって人がたくさん町に来てくれる状態になったんです」
終わるころには自分で仕事を獲得するスキルが身につくため、勉強しながらフリーランスとしての仕事も得られるという点で、魅力的なこの講座。実は、一ヶ月間におよぶ短期移住型のプログラムであることも興味深い点です。
というのも、参加者はその期間中、必然的に金谷で生活することになるため、田舎で独立した際に、生活環境がどのように変化するのかも具体的に体感することができるのです。
中にはそのまま移住を決める人もいて、講座が始まってから現在までで70名ほどのフリーランスが金谷に移住しました。
また、フリーランスでの独立を考えている者同士が集まっていることもあり、一緒に過ごすと自然と打ち解けて、海に遊びに行ったり、食事をしに出かけたりなど、まるもを介して参加者同士での繋がりも生まれているのだそうです。
フリーランス養成講座をきっかけに町に関わる人々が増えると、飲食店や商業施設の需要ができ、実際に金谷でも、新しい飲食店が生まれ始めています。
山口さんによると、まるもがきっかけで金谷にフリーランスが集まり始めたように、新しく町に出来た飲食店が金谷の魅力となって、人が町に来るきっかけになっていくのだそうです。
「たとえば、駅前に蕎麦屋さんがあるんですけど、それはまるもが作ったわけじゃなくて、外から入ってきた方が作った場所なんです。人が町に入ってくると、今度はその人たちが新しいお店を作って、新しいコミュニティを作ってくれる」
「金谷がいま面白いのは、田舎フリーランス養成講座っていうコンテンツがきっかけで町に来る人が増えて、その人たちが他の新しいコンテンツや繋がりを生み出して、それがぐわっと広がっているところなんです」
よく、田舎に人が集まらないのは仕事がないからだと言われますが、それはきっと逆で、まず町に関わる人が増えることによって、需要が生まれ、町の中に仕事も生まれていくのでしょう。
だから、自立できるフリーランスを田舎で養成すれば、人が定住して新しい需要が生まれ、初めて持続可能な町になる。それこそが金谷がフリーランスの聖地と呼ばれる所以なのかもしれません。
▼ 20人くらいがコミュニティの限界「小さな繋がりが増えることで、街全体がにぎやかになる」
小学校から高校まで、ひとつのクラスで30人ほどの人数が一般的なのは、それ以上に増えるとお互いに知らない人が出てきたり、自分の存在意義が薄れて、コミュニティとしての機能が弱まってしまうからだと考えられます。
山口さんも同じように語り、町にフリーランスが集まるようになってからは、コミュニティの大きさではなく、数を増やすための取り組みを行なっているのだそうです。
「コミュニティの限界って20、30人くらいだと思うんです。それ以上になると、ひとまとまりにならないんですよね」
「そこで、あえてコミュニティをいくつかに分散するために、金谷に8つあるシェアハウスの管理人を、移住者に任せているんです。WEB系じゃない人や、のんびり暮らしたい人が集まるシェアハウスがあったり、まるもの中で新しい繋がりが生まれ始めています」
それぞれのコミュニティに人が入って、小さな繋がりがたくさん増えれば、結果的に金谷に関わる全体の人数は多くなるため、町も賑やかになっていくのでしょう。
管理人を任せることだけではなく、移住者が活躍できるための補助線を引くような活動を、今後はもっと増やしていきたいと山口さんは語ります。
「移住してきた方が、コンテンツメーカーになれるようにも支援しているんです」
「まるもの中から面白いお菓子屋さんを始める人が出るかもしれないし、すごい面白いブロガーが誕生して、まるもにもっと人を呼んでくれるかもしれない。そのために、仕事のアドバイスだけではなく、まるもの発信力を使って販売をサポートしたり、場所を貸したりもしています」
「地域は一過性になりがちなんですけど、コンテンツを作ってもらって、それが町に人を呼ぶきっかけになって、新しい人たちとの繋がりが生まれていく。このプラスの循環を作ることが大事なんです」
東京などの人が多く集まってくる都市部には、飲食店も商業施設も自然と集まってくるため、それを求めて新しい人々が町に入ってくる、という良い循環が起こり続けています。
一方、人口が減少し続けている日本においては、ほとんどの町で人口が流出することは避けられません。
その中で、フリーランスの聖地と呼ばれるようにまで変化した金谷から、学べることが多くあるのではないでしょうか。まるもから始まったフリーランスのつながりの輪が、今後どのように形を変えていくのか目が離せません。
【取材協力】
株式会社Ponnuf代表 山口拓也
フリーランスコミュニティまるも
【所在地】
千葉県富津市金谷3870
著者:早川直輝 2019/6/20 (執筆当時の情報に基づいています)
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