唄え!笑え!町田のみんな!「この街には、地域を盛り上げる音楽がある」

横浜にも新宿にも30分でアクセスできる町田駅。ファッションビルがひしめく駅前の繁華街は、“西の渋谷” “西の歌舞伎町”とも呼ばれます。

その一方で、駅から少し歩けば大きな公園や広めの住宅、昔ながらの団地のリノベーションも進みつつあって、町田市はファミリーに人気の市町村としてランキング入りするようになっています。

横浜へ東京へとつながる交通の要所であり、小田急線の乗降者数第2位の町田駅。町田市は2018年現在42万の人口を抱える。

そんな町田の街で行われているイベントでよく見かけるようになったのが、町田在住のメンバーで結成された町田出港バンドです。

ギター、ベース、ドラム、さらに篠笛やチンドン太鼓の音が混じり合う、懐かしくも心が浮き立つような響きで、道ゆく人を惹きつけます。

町田の街角の路上から、「唄え!笑え!踊れ!」「町田の街は、いいまちだ」と唄いかける、町田出港バンド。

イベントで街角に立って演奏をしている町田出港バンドですが、バンドを結成して最初の頃はライブハウスで演奏していたこともあったそうです。

一般的なバンド活動のように、“路上からライブハウスへ”と階段を上がったものの、“ライブハウスから路上へ”と戻ってきた町田出港バンド。

メンバーの皆さんは、「僕らに一番向いている場が路上なんです。誰でもパーっと見にこられる。面白ければ止まってくれて、面白くなければいなくなる。」と、お話されていました。

▼ 野外ではお客さんとの距離が近い。「道端とか神社とか、みんなが自由に入れる環境の方がいい。」



音楽を聴きにきたというわけではない路上を行き交う人々をお客さんとして、音楽で楽しんでもらうにはどうしたらいいのでしょう。

その点、町田出港バンドの演奏では「馴染み深い音楽」で人々に唄いかけているそうです。

それはどんな音楽かというと、オッペケペー節などの聞き覚えのあるような節回しの民謡、そして民謡のようなオリジナルの唄。

その時々のイベントに合わせ、バナナの叩き売りの口上や、獅子舞のパフォーマンスなんかも飛び出します。



「今日は獅子舞もやりました。子どもが泣いて、お年寄りは馴染み深いから頭を出す。あの距離感って、路上、野外での演奏の醍醐味ですね。」

メンバーの皆さんは、次のようにお話してくれました。

「ライブハウスで演奏するのでは、子どもやお年寄りが来れない。『おじいちゃん、おばあちゃん、ライブハウスでやるから来てよ』って言っても難しいじゃないですか。」

「一方で野外イベントでは、子供からお年寄りまで色々な世代の方が見てくれます。みんなが楽しんでもらえる音楽を追求したら、民謡、獅子舞、ひょっとこ踊り等、昔から唄われている音楽だと気づきました。」

「それと合わせて町田出港バンドのオリジナル曲で“今の町田”を唄う。そうすることで地域の人々がより一層、盛り上がってくれれば嬉しいです。」

▼ 昔から音楽によって、地域はつながりを強くしてきた。「唄え!笑え!みんな楽しいか?」



海外に目を向けると、例えばオーストラリアでは、大人はもちろん、子どもでもバスキングの許可証を申請して路上で演奏をする権利を得ることができますし、都市同士がどのくらい街がバスキングで盛り上がっているかを競い合っているようなところがあります。

そうした海外でのバスキング経験を積んできたメンバーもある町田出港バンド。

昨今では、路上ライブに限らず、盆踊りのような音楽の流れるイベントに対しても苦情が出ると聞かれますが、そうしたことが「地域のつながりを弱くしているのではないか」とお話されていました。

写真上手前から古山 宏樹さん(チンドン太鼓)、田井 淳三郎さん(三線)。写真下手前から須田 邦夫さん(唄とギター)、三本杉 国貴さん(ドラム)。こちらの4名プラス、池田 大輔さん(ベース)と中村 秀正さん(踊り)で町田出港バンドを結成している。

「音楽はもっと自由でいいのかなって…」と語る町田出港バンドのメンバーの皆さん。出演日に出席するか欠席するかにおいても、町田出航バンドでは基本的に自由なのだそうです。

例えば、メンバーの誰かが子どもの運動会とイベント出演が重なった場合、そのメンバーは運動会を優先しても問題なし。

その理由を次のようにお話してくれました。

「その時々のメンバーで見ている人に楽しんでもらえるように工夫して演奏することが大切だと思います。10人いても盛り上がらないバンドは盛り上がらないですよ。」

「このバンドを続けたいじゃないですか。誰々が抜けた何だとかで、できなくなるのではなくて。」

「みんなで『大丈夫、大丈夫』って言える空気があれば、誰が来ても大丈夫。お客さんに飛び込んでもらって、踊ってもらうことだってできる。」



「イベントの主催者が『こういうイベントをやりますよ』と地域に根回ししてくれて、僕らが演奏できている。だから僕らはそこに対して、喜んでもらえる演奏しようよって。そこしかない。」

町田出港バンドには2年目3年目の出演になるイベントも多くなっています。

ここ数年街の中では、新たに路上を賑わすようなイベントを仕掛け、地域を活性化させようという人たちが出てきているのだそうで、町田出港バンドの古山さんは、次のように言いました。

「僕は町田で農業をやってるんです。町田には、ちょっと行けば農村や里山が残っている。駅前は栄えているけど、昔ながらの団地もある。いろんなものが合わさっている街なんです。」

「飽和している都心の街では入る隙間がないかもしれないけれど、町田ではまだまだ、面白いことをやるぞっていう人がイベントを仕掛けたりできている。場所と人のバランスがいいのかな。」

この日のイベントは、町田市の「文学館まつり」。歩行者天国となり露店やフリーマーケットが開催されていました。

『心の太陽』というオリジナル曲の中で「町田の街は、いいまちだ」と唄いかける、町田出港バンド。

町田“出港”バンドとはいえ、周囲を東京と神奈川の街に囲まれた町田に海はありません。

しかし、例えば「ソーラン節」のような漁の中で励まし合い喜びを唄いあった漁師たちの民謡のように、町田でも街への思いを唄いあえる民謡によって、路上から地域へとつながりが生まれているようです。


⬛︎取材協力

町田出港バンドのみなさん


著者:関希実子・早川直輝 2019/12/10 (執筆当時の情報に基づいています)
※本記事はライターの取材および見解に基づくものであり、ハウスコム社の立場、戦略、意見を代表するものではない場合があります。あらかじめご了承ください。