賃貸物件から退去する際は、原状回復しなければなりません。しかし、入居中に照明器具やガスコンロなどを新たに設置した場合、次に入居する人が使える状態であれば「置いていったほうが喜ばれるのではないか」と悩むことがあります。
また、前の入居者が置いていったものがある場合、邪魔だと感じたときは勝手に撤去してもよいのでしょうか。どちらのケースも、身近に起こりえることです。
今回は、そんな賃貸物件における「残置物」の扱い方について解説し、トラブル回避術を紹介します。
賃貸物件における「残置物」とは

残置物とは、入居者が自分で使うために設置したもので、引っ越しに際して撤去や処分をせずに残していった設備や家具・家電のことです。前の入居者が大家さんの了承を得て置いていったものもあれば、勝手に置いていったケースもあるでしょう。
細かいことをいえば、大家さんが了承した場合は大家さんに所有権があります。しかし、勝手に置いていった場合は、前の入居者に所有権があるのです。つまり、大家さんも勝手に処分できないことになります。この記事では、基本的に「大家さんが了承した残置物」である場合を想定して説明していきます。
残置物として残されるケースが多いのは、たとえば照明器部やガスコンロ、エアコンなどです。なかには、冷蔵庫やカーテンを残していく人もいます。
次に入居する人が使える状態なのに、処分するのはもったいないと悩むことがあります。また入居するときに、前の入所者のものであっても、買わずに済んだと喜ぶ人もいるでしょう。
残置物を残す側と、残置物がある賃貸物件に住む場合で注意すべきポイントは異なりますので、それぞれの視点で注意すべきポイントや対処法を解説します。
残置物として残されがちなもの
残置物として残されることが多いのは、次のようなものです。
・照明器具
・ガスコンロ
・エアコン
・冷蔵庫、洗濯機、テレビなどの大型家電
・ベッド、ソファ、本棚などの大型家具
・カーテンや寝具などの生活雑貨
・自転車
・観葉植物
・古い本や雑誌
照明器具やガスコンロ、エアコンなどは取り外しや処理が難しく、残置物として放置されるケースが多いです。リサイクル料金や運搬費用がかかる大型家電や、搬出と解体に人手が必要な大型家具も、残置物となる場合があります。
カーテンに代表される日用品や生活雑貨は、新居のサイズや広さ、雰囲気に合わないことがあり、これも残置物になりがちです。観葉植物は、大量の土がある場合、自治体が回収に応じない場合もあるため、置いて行かれることがあります。
また、残置物は室内だけに残されるとは限りません。駐輪スペースに自転車や一輪車などが残置物として放置されることもあります。敷地内をくまなくチェックして、残置物の種類と数を確認しましょう
【引っ越す場合】残置物を置いていきたいときは大家さん(貸主)に了承を得なければならない
基本的には、大家さんの了承を得なければ残置物を残せません。「まだ使えるし、もったいないから」と勝手に残していく人もいます。しかし、大家さんの了承を得なければ、処分代を原状回復費用として請求される可能性があるので注意しましょう。
大家さんが不用品回収業者に依頼した場合にかかる費用を、そのまま請求されます。高額になったとしても、異議を申し立てできません。事前に計画を立てて、処分方法を考えておきましょう。
引っ越しの際の残置物になりえるものを処理する主な方法
引っ越しに際して家具や家電を処分したい場合は、なるべく早く処理しましょう。自治体の粗大ごみの回収には時間がかかるケースがあり、引っ越しまでに間に合わない可能性もあります。
また、エアコンやテレビ・冷蔵庫・洗濯機は、処分する際に家電リサイクル料金がかかります。大きさによっても料金は異なるため、家電量販店に持ち込む場合は事前に費用を確認しておきましょう。
もし引っ越しまでに時間がなく、早急に処分したい場合は、不用品回収業者が便利です。自治体の粗大ごみ回収や家電量販店への持ち込みよりも費用はかかりますが、早ければ即日に回収してもらえることもあります。
不用品回収業者にも依頼できなかった場合は、なるべく早めに大家さんに相談しましょう。使えるものであれば、残地物として置いておける可能性があります。くれぐれも、無断で置いていくことは避けましょう。
なお、残置物は、無償の場合と処分費を請求されるケースがあります。処分費を請求される場合は、預けていた敷金から原状回復費として差し引かれ、原状回復費が敷金よりもかかった場合は別途請求されることになります。
【引っ越してきた場合】 残置物に関連するトラブルに注意
引っ越しした部屋に残置物がある場合には、注意が必要です。通常は、付帯する設備もしくは残置物であることを内見時や契約時に説明されます。しかし説明されたとしても、残置物に対する認識が不足していると、たいしたことではないと思ってしまいがちです。
ここでは、注意すべきポイントを紹介しますので、ぜひ参考にしてみてください。
残置物の代表的なトラブルは?「設備」か「残置物(サービス品)」かで扱いが大きく変わる!

残置物は、それが「設備」なのか「残置物(サービス品)」なのかによって扱いが大きく異なるので、注意が必要です。
ここでは以下のポイントで、注意すべきポイントを紹介します。
①修理義務・費用負担
②処分の自由
①修理義務・費用負担
残置物である場合は、大家さんに修理する義務がないため、故障した場合は入居者が修理しなくてはなりません。たとえばエアコンなどは、修理費が高い傾向にあるので注意しましょう。
ここで注意しなければならないのは、修理代を入居者が支払うからといって、勝手に修理できないことです。所有権はあくまでも大家さんであるため、修理する場合でも大家さんに連絡をいれる必要があります。また、自分はエアコンを使わないという理由で故障を放置した場合でも、大家さんから修繕費の負担を請求される可能性がありますので、注意しましょう。
一方で、設備が故障した場合、大家さんは修理する義務があります。そのため、基本的には申し出れば修理してもらうことが可能です。ただし、入居者に過失がある場合は入居者の負担になるケースもあるので、不具合を感じたら放置せず早めに相談しましょう。
たとえば、エアコンの水濡れを放置したことによって壁が腐食や変色した場合、エアコンの故障が原因であっても、放置したことで腐食したのであれば入居者の責任となります。
また設備であっても、エアコンのフィルターは定期的な清掃が必要です。故障や電気代が高くなる原因にもなるため、説明書などを確認して定期的な清掃を心がけましょう。
エアコンが古い場合は、比較的電気代が高くなります。しかし、古いからといって交換してもらえるわけではないので、内見の際はエアコンの製造年度も確認できると安心です。なお、製造年度は、エアコン本体の下部や側面に記載があります。
②処分の自由
残置物だからといって、勝手に処分はできません。所有権は大家さんにあるので、故障している場合でも勝手に処分せず、必ず大家さんに相談するようにしましょう。
残置物を勝手に処分すると、損害賠償を請求されたり、器物損壊の疑いをかけられたりする可能性もあります。トラブルを避けるためにも、残置物を勝手に処分することは避けてください。
残置物に関するトラブルを避けるためのポイント

残置物は、トラブルになるケースがあります。この章では、トラブルを回避するためのポイントを4つ紹介します。
内見時に付帯している設備について質問する
一見、設備と残置物に違いはないため、見ただけでは判断できません。まず、内見の際に付帯している設備を確認します。たとえば、内見の際に備わっているもので、残置物である可能性があるものは以下のとおりです。
・ガスコンロ・IHクッキングヒーター
・照明器具
・家電(エアコン・冷蔵庫・洗濯機・温水洗浄便座)
・家具(本棚・整理棚・造作した棚)
・物干し竿
・カーテン・じゅうたん
設備を確認したら忘れないようにメモに残しておき、大家さんや不動産会社に残置物があるか確認しましょう。スマートフォンで写真を残しておくのもおすすめです。
内見の際には、間取りや日当たりなどばかりに注目し、設備の有無を確認し忘れることがあります。その点、オンライン内見可の物件であれば、気軽に再内見できるので便利です。以前より、オンライン内見可の物件は増加傾向にあります。移動時間が不要のため、数多く内見できるのもメリットです。
各種設備は契約時に「付帯設備」なのか「残置物(サービス品)」なのか確認する
内見時にメモしたものをあらためて契約時に確認しましょう。契約時に付帯する設備について、通常は説明を受けますが、設備なのか残置物なのかをあやふやにせず確認しておくことが重要です。
残置物で不要と感じるものは、事前に撤去をお願いできるか相談してみましょう。
曖昧なものは不要になったら自分だけで処分するか判断せず、まず大家さんに相談する
入居前からあった残置物であれば、たとえ故障していたとしても自己判断せず、必ず処分してもよいか大家さんに確認します。また、残置物の修理であっても、念のため相談してから修理しましょう。たとえば、修理のために一部部品を交換する可能性もあります。
基本的には、すべて大家さんに相談すれば無難と思っておいたほうがよいでしょう。
最初から「家具・家電付き」と分かっている物件を選ぶ
賃貸物件のなかには、家具や家電付きの物件があります。その場合は、基本的に契約で設備として定めていることから、故障した場合も自己負担が発生しないので安心です。
また、引っ越しの際に家具や家電をそろえる必要がないため、初期費用を抑えられます。そして、家具や家電がそろっていれば、すぐに入居することが可能です。初期費用を抑えたい方や、初期費用を用意することが難しい方は、まず家具付き・家電付き物件から探してみましょう。
残置物に関するよくある質問

残置物がある物件を選んでしまい、どのように対処すれば良いか悩んでいる方も多いでしょう。ここでは、残置物に関するよくある質問にお答えします。この項目だけで疑問を解消できなかった場合は、大家さんや管理会社に問い合わせましょう。
Q. 入居後に残置物か付帯設備なのかを確認するにはどうすればいいですか?
A.残置物か付帯設備かを見分けたい場合は、賃貸借契約書や重要事項説明書を確認しましょう。
これらの書類には、室内の設備一覧が記載されていることが多いです。エアコン、照明、給湯器などが「付帯設備」として記載されているかどうかを調べると、残置物かそうでないかを的確に見分けられます。
契約書などで残置物か付帯設備かを判断できない場合は、自分自身で勝手に決め付けず、大家さんや管理会社に問い合わせましょう。残置物の種類やメーカー、数などをわかる範囲で伝えると、スムーズな対応を受けやすくなります。
Q. 残置物がどうしても邪魔なのですが、勝手に処分するとどうういった問題がありますか?
A.残置物がどれだけ邪魔でも、勝手に処分してはいけません。残置物の所有権は持ち主にあります。客観的に不要なものに見えたとしても、勝手に処分すると、残置物の価値に応じた損害賠償を請求される可能性があるため要注意です。
また、残置物の内容によっては、勝手に処分すると器物損壊罪に問われるおそれもあります。さらに、廃棄する際の方法を誤ると、不法投棄とみなされるリスクがある点にも注意しなければなりません。
残置物を処分したい場合は、大家さんや管理会社に連絡して許可を得ましょう。この際、口約束ではなく、書面を発行してもらうことがポイントです。書面は「処分してよい」と許可されたことを示す証拠となるため、事後のトラブルを避けられます。
Q. 残置物がない物件を探すにはどうすればいいですか?
A.物件の契約前に必ず内見を行い、残置物がないか確認しましょう。即入居可の条件で、前の入居者がすでに退去している物件に家具や家電、観葉植物などが残されている場合は、それが残置物である可能性が高いです。
エアコンや照明などの機器は、残置物ではなく、付帯設備の可能性があります。残置物か付帯設備かを判断できない場合は、不動産会社に確認を取りましょう。設備表が手元にある場合、設備表に記されている設備は、残置物ではありません。
また、リフォーム済みの物件を選ぶのもおすすめです。リフォーム済みの物件は、前の入居者が退去した後に設備の入れ替えや清掃を行っています。この際に残置物が処分されるケースが多いため、残置物がない可能性が高いです。
Q. 残置物の所有者が不明な場合、どこに連絡すればいいですか?
A.所有者不明の残置物がある場合は、大家さんや管理会社に連絡しましょう。
残置物の所有権は、前の入居者が放棄しない限り、その入居者が持っています。大家さんや管理会社は、前の入居者の連絡先を把握しているため、前の入居者と連絡を取り、処分してもよいかどうかを確認してくれます。
Q. 残置物の処分が許可された場合、どれぐらい処分にお金がかかりますか?
A.代表的な残置物ごとの処分費用は次のとおりです。粗大ごみとして処分する場合、自治体によって費用が異なるため、あくまでも目安として参考になさってください。
・植木鉢、プランター:400円~500円
・エアコン(取り外し工事なし):3,000円~4,000円
・エアコン(取り外し工事あり):10,000円~16,000円
・ガスコンロ:900円~1,000円
・自転車:500円~1,500円(大きさや電動アシスト機能の有無により異なる)
・スーツケース:400円~500円
・ソファ:1,000円~2,500円
・テーブル:500円~1,500円
・椅子:900円~1,000円
・箱もの家具:900円~2,500円
・布団:500円
・ベッド:1,300円~2,500円
・マットレス:1,300円~1,500円
・物干し竿:400円~1,000円
・ランニングマシン:2,500円
※参考:新宿区 粗大ごみの処理手数料一覧
なお、借主は賃貸借契約終了時に、室内を入居時の状態に戻す「原状回復義務」を負います。原状回復義務には、残置物を撤去する義務も含まれると考えることが一般的です。そのため、借主が原状回復義務を怠った場合、貸主は借主に対して、残置物の処分にかかった費用を原状回復費として請求できる可能性があります。
大家さんや管理会社との交渉次第では、残置物の処分にかかる費用を負担してくれたり、残置物の処理を依頼する手続きを代行してくれたりする可能性もあります。残置物の処分に無駄なコストをかけないためにも、自分自身で勝手に処分するのではなく、まず大家さんや管理貸家に相談しましょう。
残置物の扱いに不安があれば、まず大家さんに相談しよう!
残置物なのか設備なのか分からない場合はそのままにせず、必ず大家さんに確認しましょう。設備であれば、故障していた場合は修理を依頼でき、自己負担がないので安心です。
残置物が故障した場合は、修理費用が発生します。所有権は大家さんにありますので、勝手に修理や処分はできず、まず相談が必要です。また、設備の修理義務は大家さんにありますが、連絡せずに修理してしまうと、修理代を請求できない可能性があります。緊急事態以外は、大家さんに連絡するようにしましょう。
設備や残置物について不具合や不安を感じた場合は、まずは大家さんに相談することをおすすめします。





