「使用貸借」の意味とは?基礎知識と賃貸借契約との違いについてわかりやすく解説

目次

親族や知人の間で土地や建物を無償で貸し借りする場合、正式な契約を交わしていないことが多く見られます。特に使用貸借契約は、賃貸借契約との違いが分かりにくく、法的な位置づけやリスクを十分に理解しないまま利用されるケースも少なくありません。

そこでこの記事では、使用貸借契約の基本的な概要と特徴、賃貸借契約との主な違い、不動産に関わる具体的な事例、さらにトラブルを防ぐために押さえておきたいポイントについても解説します。契約内容に不安がある方や、今後の対応を考えている方はぜひ参考にしてください。

使用貸借とは

ここでは、使用貸借契約の基本的な意味に加え、よく利用される場面や、実際に起こりやすいトラブルについてわかりやすく解説します。

「無償で貸す」契約のこと

使用貸借契約とは、対価を受け取らずに物を貸す契約をいいます。民法第593条では、「使用貸借は、当事者の一方が無償で相手方に物を使用させ、契約終了時に返還させることを約することにより成立する」と定義されています。

たとえば、親が子に土地を無償で貸し、その土地に自宅を建てさせるといったケースが典型です。金銭のやり取りがないため、契約書を作らず口約束で済ませることも少なくありません。

ただし、賃貸借契約のように借りる人が強く守られる仕組みではないため、注意が必要です。

参照:民法第593条|使用貸借

親族間や知人間で使われることが多い

使用貸借は、信頼関係を前提とする契約であるため、親族や知人の間で利用されるケースが多く見られます。主な理由は次のとおりです。

・賃料の支払いが不要であること

・手続きが比較的簡単であること

・一時的な貸し借りに適していること

たとえば、親が子に実家の隣地を無償で貸す場合や、友人に数ヶ月間だけ空き部屋を使わせるような事例が代表的です。

このような間柄では契約書を交わさずに済ませることもありますが、後々のトラブルを防ぐためにも、契約の内容や法的な位置づけをきちんと把握しておくことが重要です。

使用貸借がトラブルになりやすい理由

使用貸借契約は、無償での貸し借りであることから、契約書を作成せずに口約束だけで済ませることが多く、内容が曖昧になりやすい契約です。

たとえば「いつ返すのか」「どこまで使ってよいのか」といった点が明確でないまま契約が続くと、返還をめぐって紛争に発展するおそれがあります。実際に、善意で貸していたつもりが、借主が返還を拒み、訴訟に発展した事例もあります。

親族や知人との間だからこそ契約内容の明文化が軽視されがちですが、その油断がトラブルを招く要因となるため、注意が必要です。

使用貸借契約の特徴と成立条件

使用貸借契約は民法に基づいて成立する正式な契約ですが、日常生活の中では契約書を交わさずに行われることも多く、特有のリスクを伴います。

ここでは、契約の基本的な特徴や成立の条件について、具体例を交えながらわかりやすく解説します。

使用料の支払い義務がない

使用貸借契約では、借主が貸主に対して金銭を支払う義務はありません。これは賃貸借契約との大きな違いであり、民法でも「無償で物を使用させる契約」として定義されています。 

家賃が発生しないため、信頼関係を前提として契約が結ばれることが多く見られます。内容が曖昧になりやすい傾向はありますが、無償であること自体が契約の成立や効力に影響するわけではありません。

契約の終了時期が不明確になりやすい

使用貸借契約では使用期間を明記せずに始まることが多く、契約の終了時期が不明確になりがちです。そのため、いつ返還すべきかをめぐって当事者間で認識に差が生じ、トラブルにつながることがあります。

たとえば、「子どもが結婚するまで使っていい」と口頭で伝えられたまま長年居住し、退去を求められて争いに発展する可能性もあります。

終了時期や返還の条件を契約書に明記していなければ、貸主が契約の終了を主張しても合意に至らない可能性があります。

契約書がなくても成立するが、トラブルのリスクがある

使用貸借契約は、書面がなくても当事者の合意があれば成立します。ただし、口約束のみで取り決めた場合、のちに「言った・言わない」の争いが生じやすくなります。

たとえば、親が子に土地を無償で貸していたところ、親の死後に他の相続人との間で権利関係が争点となり、遺産分割がこじれた例があります。「使用目的」「返還の条件」「利用期間」などをあらかじめ書面に残しておけば、こうしたトラブルは未然に防げるでしょう。

たとえ親族間であっても、契約内容を文書で明確にしておくことが重要です。

使用貸借契約と賃貸借契約の違い

使用貸借と賃貸借は、いずれも物の貸し借りを対象とした契約ですが、法律上の位置づけや当事者の義務、トラブルが発生した際の対応には大きな違いがあります。ここでは、両者の主な相違点について、具体的に解説します。

使用料の有無による大きな違い

使用貸借と賃貸借の最も大きな違いは、金銭の授受があるかどうかという点です。

・賃貸借契約:物の使用と引き換えに家賃などの対価を受け取る契約

・使用貸借契約:無償で物を使用させ、返還を前提とする契約

たとえば、アパートを貸す場合は「賃貸借契約」、親が子に土地を無償で貸す場合は「使用貸借契約」に該当します。使用貸借はお金のやり取りがないため、借りる人は法律であまり強く守られていません。

契約の目的や関係性に応じて、どちらの契約形態が適しているかを見極める必要があります。

契約書や登記の必要性の違い

賃貸借契約では、契約書の作成や登記が推奨され、場合によっては法的義務となることもあります。これに対し、使用貸借契約は書面がなくても成立し、登記の必要も基本的にはありません。

たとえば居住用アパートの賃貸借では、契約書がないと借主の権利が十分に保護されないおそれがあります。一方、親子間で土地を無償で貸すような使用貸借では、契約書を交わさずに済ませるケースが多く見られます。

ただし、使用貸借であっても、後のトラブルを防ぐためには契約内容を文書で残しておくことが望ましいといえます。

トラブル時の法的対応の違い

賃貸借契約は、借主の権利が法律でしっかり守られています。一方、使用貸借契約はそれほど強い保護は受けられません。

たとえば賃貸住宅の場合、正当な理由がなければ貸主から契約を一方的に解除することはできません。しかし、使用貸借では使用目的が終わったと判断されれば、貸主の判断で返還を求めることが可能です。

このように、契約の種類によってトラブル時の対応や救済の範囲は大きく異なります。契約の内容が使用貸借か賃貸借かを、あらかじめ正しく理解しておくことが大切です。

使用貸借契約が不動産に及ぶケースと注意点

不動産に関する使用貸借契約は、親族間の貸し借りや相続、建物の所有関係が絡むことで、トラブルに発展しやすい傾向があります。ここでは、実際によくある事例を取り上げながら、不動産を使用貸借で扱う際の注意点を解説します。

親族から土地を借りて家を建てるケース

親が子に無償で土地を貸し、その土地に子が住宅を建てるケースは、使用貸借契約の典型例です。親族間の信頼関係から契約書を作成せずに済ませることもありますが、建て替えや売却の際、土地の使用権が不明確だと金融機関の融資を受けられない場合があります。

さらに、土地と建物の登記名義がちがうと手続きがややこしくなったり、他人にきちんと説明できなくなったりすることがあります。こうした問題を避けるためにも、親子間であっても契約内容を文書化し、必要に応じて登記を行うことが重要です。

相続時に起こりうる使用貸借のトラブル

被相続人が生前、土地や建物を無償で貸していた場合、相続時にトラブルが生じることがあります。 

たとえば、長男が父親の土地を使用していたところ、父の死後に他の相続人が「不公平だ」と主張し、遺産分割協議が難航したケースがあります。使用貸借の合意が文書化されていないと、建物の所有権や土地の使用権をめぐって争いが起き、訴訟に発展する可能性もあります。

こうした事態を防ぐためには、使用の経緯や契約内容を事前に明確にしておくことが重要です。

「建物付き土地」での貸与に潜むリスク

建物が建っている土地を無償で貸す場合、建物の所有者が不明確なままだと、その後の処分に支障が出る可能性があります。 

たとえば、知人に土地と建物を無償で貸していたものの、売却の際に建物の登記がされておらず、買主から不信感を持たれるケースがあります。無償での貸与だからといって、所有権や使用権を曖昧にしたままにしておくと、後々の取引や手続きで大きな問題につながりかねません。

使用貸借であっても、建物の所有関係は事前に明確にしておくことが重要です。

これって使用貸借?賃貸借契約?よくあるケースとトラブルにつながりやすいポイント

ここでは、使用貸借と賃貸借の区別があいまいなまま契約や利用が進み、トラブルに発展した例を解説します。

親族間で「家賃ゼロ」の同居を始めた場合

親の家に無償で住むケースでは、契約内容があいまいなまま長期間が経過しやすく、思わぬ税務リスクが生じることがあります。

たとえば、年間110万円を超える経済的利益を受けていると判断されると、贈与税の課税対象になる可能性があります。実家に住んでいるだけのつもりでも、第三者の目からは「贈与」とみなされる場合があるため注意が必要です。

親族間の取り決めであっても、無償であることや使用の合意内容は書面などで明確にしておくことが望まれます。

参照:国税庁|令和5年度相続税及び贈与税の税制改正のあらまし

「昔から借りていた土地」が登記されていなかったケース

長年にわたって土地を借りていても、登記や契約書がない場合は、使用権や所有権の主張が難しくなることがあります。 

たとえば祖父の代から土地を借りて家を建てていたが、契約書も登記も残っておらず、土地の相続人から退去を求められたという事例があります。

時効取得や借地権が認められるには、一定の条件や手続きが必要であり、「長く使っていた」だけでは法的に保護されない可能性があります。

・時効取得:一定期間、他人の土地や建物を自分のものとして使い続けることで所有権を得られる制度

・借地権:建物を建てるために、第三者から土地を借りる権利

使用関係に関する記録や証拠は、時間の経過とともに整理しておくことが大切です。

参照:国税庁|No.1493 土地等の財産を時効の援用により取得したとき

参照:国税庁|No.4611 借地権の評価

使用貸借だと思っていたが、後に家賃を請求されたケース

「無償で使っていい」と言われて利用していたのに、後になって家賃を請求されるケースがあります。契約書がない場合、「使用貸借(無償)」なのか「賃貸借(有償)」なのかの判断が難しく、トラブルに発展しやすくなります。

こうした事態を防ぐには、契約の内容や条件を明確にし、書面に残しておくことが重要です。とくに、これから物件を借りようと考えている方は、契約の種類や条件にも注意が必要です。

物件探しで不安がある方は、まずは希望条件をもとにご相談ください。

使用貸借を正しく理解して、リスクを回避しよう

使用貸借契約は「無償で貸す契約」として一見シンプルですが、法的な制約や実務上のリスクが潜んでいます。

特に親族や知人同士では信頼関係に頼って契約内容をあいまいにしがちで、返還時期や使用範囲が不明確なまま進められることも少なくありません。こうした不明確さが、相続や売却の際にトラブルへと発展することがあります。

口約束に頼らず、契約書を作成し、必要に応じて登記することで将来のトラブルを防ぐことが可能です。