住宅建築はさまざまな技術革新に伴い、この瞬間も新たな技術が導入されています。そして、その技術の一つひとつが私たちの生活をより快適に、より安心安全なものへと進化させています。
今回は、昨今話題になっている「3Dプリンター技術」を用いた、3Dプリンター住宅の可能性について考えてみます。3Dプリンターで家が建つ、まさにSF映画のワンシーンのように感じてしまいますが、あるメーカーでは実証実験が進んでおり、実験下では24時間以内に一軒の建築が完了するに至っています。
3Dプリンター住宅のメリット・デメリット、そして将来賃貸や建売市場で普及する可能性について深堀りしていきます。
あなたの住まい選びの新たな選択肢となるかもしれません。ぜひ最後までお読みください。
3Dプリンター住宅とは
3Dプリンター住宅とは、「3Dプリンター」技術を活用して建築される「住宅」のことを指します。
住宅の建築には莫大な費用と数ヶ月という工期がかかるほか、法規制や加工技術の限界により意匠やデザインに制限がかかる点がデメリットです。しかし、これらのデメリットをすべて乗り越えることができる可能性を3Dプリンター住宅は秘めており、今後の普及に大きな期待が寄せられています。
3Dプリンター住宅の建築方法
3Dプリンター住宅の建築方法は、大きく以下の3つに分類することができます。
・現場で3Dプリンターが建物を作る方法
・工場で出力し現場で組み立てる方法
・型枠だけを3Dプリンターで出力する方法
現場で3Dプリンターが建物を作る方法
大型の3Dプリンターを建設現場に持ち込み、壁・床・屋根といった建物を直接出力する方式です。コンクリート・モルタル・土などの建材を層状に積み重ねることで、設計図通りの形を立体的に造形します。
この方法では、曲線のような複雑な形状も自由自在に表現できるため、従来の建築では実現できなかった個性的なデザインの住宅を実現が可能です。
工場で出力し現場で組み立てる方法
建物の外壁や内装の一部となるパーツを、工場内の3Dプリンターで事前に製造。製造されたパーツを現場に運び、レゴブロックのように組み上げて建物を建築する方法です。
この方法では、複雑な形状や模様を施したパーツを製作できるため、短い工期と安いコストで独創性あふれるデザインの住宅の建築が可能です。
型枠だけを3Dプリンターで出力する方法
3Dプリンターで型枠を製作し、その中に鉄筋を配置してコンクリートを流し込むことで、一般的な鉄筋コンクリート造の建物を建築する手法です。従来の木製型枠を用いる工法と比較して、型枠作成の工程を自動化できるため、工期短縮や人件費削減に繋がります。
3Dプリンターで製作された型枠は、複雑な形状も自由自在に実現できるため、デザイン性の高い建物の建築も可能です。また、型枠の再利用や廃棄にかかるコストを削減できる点も建築業界からすれば大きなメリットでしょう。
外見上は一般的な鉄筋コンクリート造の建物と変わらないため、既存の建築基準法に適合しやすく、法的な手続きもスムーズに進めることが期待されます。
3Dプリンター物件が持つメリット

3Dプリンター物件には上述のとおり、さまざまな可能性とメリットが含まれています。ここでは、3Dプリンター物件のメリットに迫ります。
デザイン性が高い住宅を建築できる
3Dプリンター住宅は、自由なデザインで建築家の創造性を最大限に引き出せることが最大の魅力です。従来の建築では難しかった曲線や複雑な形状も自由自在に表現できるため、世界に一つだけの個性的な家を建築することも可能です。
コストを安く抑えることができる
3Dプリンター住宅は、総じて建築コストが安くなることが想定されます。なぜなら、圧倒的に人の手がかからないからです。
基礎工事を例に解説します。日本の住宅建築では、建物にあった型枠を人の手で作成し、配筋を施し、コンクリートを流し込んで成形したのち、型枠を外して基礎工事が完了します。これら工程において発生する人件費や型枠の造成費用が、3Dプリンター住宅では自動化と効率化が図られるため、結果的にコストが安くなるのです。
なお、その他の工事においてもコストダウンは図られます。デザインや造形に要する人件費、現地施工に要する人件費、運搬費などさまざまなコストが3Dプリンター物件では下がると考えられるからです。
工期が早い
3Dプリンター住宅では、住宅建築に要する工期が短縮されます。なぜなら、現場での組み立てが不要なため、作業効率が向上するからです。
また、3Dプリンターは昼夜を問わず24時間体制で稼働できるため、連続的な生産が可能となるほか、今後のさらなる技術革新によっては住宅建築における工程が統合されることも期待されています。これらのことから、工期はさらに短縮する方向に進むでしょう。
3Dプリンター住宅の注意点(デメリット)
低コストで短い工期を実現できる3Dプリンター住宅ですが、現段階でのデメリットはあるのでしょうか。ここでは、3Dプリンター住宅のデメリットや注意点について解説します。
法的な規準をクリアしにくい
3Dプリンターでは、建物の建築に求められる規準をクリアしにくい点が大きなデメリットです。
3Dプリンター住宅には特殊なモルタルが利用されます。このモルタルは高強度で耐火性があるなど、既存のコンクリートにはない特性を有しています。しかし、現行の建築基準法では、このモルタルは建材として認められていません。このため、3Dプリンター住宅の建築には、法的な障壁が立ちはだかり、新たな住宅技術の普及が遅れている現状があります。
すべての工事工程を3Dプリンターで対応することができない
3Dプリンターは各部品を作成する技術には長けていますが、それ以上でもそれ以下でもありません。そのため、3Dプリンターで作成した部材を結果的に現地で組み合わせる工程は割愛することはできず、結果的に人の手を介する必要があることも事実です。
例えば、上述した基礎の型枠は効率的に作成できますが、配筋作業は人の手が必要です。キッチンや洗面台など、複数の材料を1つの設備として設計造作することもできないため、現在の技術ではすべての工程を3Dプリンターに依存するには至っていません。
3Dプリンター住宅は今後普及する?
多くの可能性と問題点を秘めた3Dプリンター住宅は、今後どのように私たちの生活に影響を及ぼす見通しなのでしょうか。
業界に20年以上身を置いている私見ですが、3Dプリンター住宅は部分的に住宅建築に導入され、長い目で見ると将来は多くの部分が3Dプリンターによって建築できるようになると考えます。ただし、建物建築には建築基準法を遵守する必要性があり、現在の法体制や3Dプリンター技術ではこれらのすべてを解決することはできません。
一部大手企業において、3Dプリンターとロボットアームを駆使して建築基準法の認可を得た建物が存在するなど、技術は日々進んでいます。しかし、いまだこれらが普及するに至っていないことを考えると、開発コストや法基準への適合がその障害となっていると予想することができます。
しかし、現在においても3Dプリンター住宅のメリットを活かす方法は多様に存在すると考えられます。例えば災害時の仮設住宅建築には、3Dプリンター住宅の即効性が被災者の住宅確保に役立つと考えられます。また、橋やトンネルの復旧工事などにも、3Dプリンターによる工事技術はコストダウンと早期工事の実施という点で可能性を感じざるを得ません。
また、海外では住宅建築以外にも3Dプリンターが活用されており、ロケットの発射台に活用する研究も進んでいるようです。日本では3Dプリンターによる建築技術は決して進んでいるとは言い難いですが、世界に目をやればさまざまな分野でその活用は進んでおり、今後日本でも導入・活用が進むと考えてよいでしょう。
3Dプリンター住宅がもつ可能性

3Dプリンター住宅は、法規制やそれに伴う耐震性などの観点から、即時の普及は難しいかもしれません。しかし3Dプリンター住宅独自のメリットを鑑みると、今すぐにでも導入・活用したい方法があり、そこに可能性を見出すことができます。
ここでは、3Dプリンター住宅の持つ可能性に迫ります。
災害時の緊急避難住宅
3Dプリンター住宅の持つ工期短縮というメリットを活かせば、災害時における緊急避難住宅の建築に貢献することが可能です。
大規模な災害で家を失う人も多く存在するため、避難所での生活を余儀なくされます。しかし、避難所での生活ではプライバシーの確保が困難であり、避難者のストレスは一向に回復されません。
このような問題を解決するために、法的な問題は残存しますが、3Dプリンターで住宅を建築する方法が考えられるのではないでしょうか。
建築物ではない構造物
住宅や建物の建築には建築基準法がありますが、建築基準法の適用がない「構造物」ではすでに多くの3Dプリンターによる設計・施工が進んでいます。
ベンチや型枠などはその最たる例ですが、特筆すべきは高知県では公共工事に3Dプリンターが導入された事例がすでに存在しています。
※出典:国土交通省 土佐国道事務所 「国内の公共工事初!重要構造物(橋梁下部工)に3Dプリンタを活用します!!」
3Dプリンターの導入により、従来の製造方法に比べて、製造期間の短縮・材料の無駄削減を実現しました。今後は山間部など特殊な環境下において、3Dプリンターがその真価を発揮し、地域に最適なインフラ整備に貢献していくでしょう。
再現が困難な意匠デザインの確立
3Dプリンターを活用することで、人の手では再現が困難な意匠デザインを造形することが可能になります。
従来の住宅建築では、既製の部材を組み合わせて作られるため、デザインの自由度が限られていました。しかし、3Dプリンターを使えば、デジタルデータで設計したものをそのまま形にすることができるため、まったく新しい空間を生み出すことができます。
また、デザインの自由度が上がるのみならず、その設計と施工に要する人件費が削減できる点も3Dプリンターの可能性を語るうえで外すことはできません。精度の高い3Dプリンターの活用は、建築や住宅業界における人手不足の解消にも役立ちそうです。
工期の短縮
3Dプリンターは、現場での直接造形が可能であり、設計変更にも柔軟に対応できるため、従来の建築方法に比べて工期を大幅に短縮することが可能です。
工期の短縮は、プレハブ住宅などの簡易的な建築物の建築・インフラ整備、災害時の復旧など、さまざまな分野で活用されることで、より社会に役立つものに進化を遂げようとしています。
安価な住宅取得の実現
3Dプリンターの導入は、人件費や間接的コストの削減・柔軟な対応・工期の短縮を実現するため、一言で表せば建築の効率化に繋がります。ひいては住宅取得コストの低減にもつながるでしょう。
住宅取得費用は、原材料や人件費の高騰により、高額化の一途を辿っています。とりわけ都心部では土地価格の高騰が顕著であり、一般のサラリーマンでは住宅ローンを組むことすら困難な状況が生まれだしています。
これは想像の域を超えませんが、賃貸物件を住み替えるように、またリフォームやリノベーションを施すように、気軽に建築と解体を繰り返すことができる…そんな暮らしが3Dプリンターによって実現されるかもしれません。
3Dプリンター住宅が賃貸物件として登場する可能性はある?

3Dプリンター技術の発展がめざましいところですが、今後3Dプリンターで建築された建物が賃貸物件として登場する可能性はあるのでしょうか?ここでは、3Dプリンター住宅と賃貸物件について考えます。
当面は完全なる3Dプリンター住宅が供給される可能性は低い
3Dプリンターで建築された物件が賃貸物件として市場に供給される可能性は、当面は低いと考えられます。なぜなら、現在の技術では建築基準法に完全に適合することができないからです。
なお、海外ではオランダで不動産業を営むVesteda社が、3Dプリンターで建築した住宅を賃貸物件化に成功しており、すでに入居者も居住しています。
こうした事例を見ると、3Dプリンターで建築された住宅に賃貸で住む、これは決して夢物語ではないことがわかります。
部分的に3Dプリンターでパーツを作成した住宅の供給は可能性が高い
3Dプリンターで住宅を建築するときの最大の障壁は、建築基準法の規定です。しかし、建築基準法で特に定めがない箇所を3Dプリンターで作った住宅は、そう遠くない未来に供給される可能性は高いでしょう。
3Dプリンターの得意分野であるデザイン性、とりわけ曲線美などは、人の手で造形するには限界があるほか、かなりのコストがかかってしまいます。しかし、3Dプリンターの手にかかれば、簡単に造形することが可能です。
賃貸住宅は多くの借主を対象とするため、汎用的なデザインに終始してしまいがちです。しかし、3Dプリンターが賃貸市場に普及することで、借主ごとのカスタマイズや飼育ペットごとの意匠変更など、多様なニーズに細かく答えることができるようになるかもしれません。
3Dプリンターの部分導入により賃貸住宅のデザインはより洗練されたものになるでしょう。現在賃貸募集されているデザイナーズ物件が、将来の3Dプリンター住宅の参考になるかもしれません。
3Dプリンター住宅は可能性を秘めている段階!今後に期待しよう
3Dプリンターによる住宅建築は、自由なデザインや工期の短縮など、多くの可能性を秘めています。しかし、建築基準法への適合やコストなど、耐震性や経済的課題など解決すべき問題が山積みであることも事実です。
技術の進歩は目覚ましく、将来的には高強度な材料や大規模な印刷が可能になることで、より安全で安価な住宅が実現できるようになることは間違いありません。
3Dプリンター住宅の最大の恩恵は住宅の安価な取得です。3Dプリンターによる自動化によって、人件費や間接経費を大幅に削減でき、住宅価格の低下につながるでしょう。また、災害時の仮設住宅のスピーディな建設や、建築業界における人手不足の解消など、社会的な課題解決にも貢献すると予測できます。
3Dプリンター住宅は発展途上ですが、その可能性は無限大です。技術革新によって私たちの暮らしを大きく変える日を楽しみに待ちましょう。