賃貸物件で水回りの綺麗さや使い勝手の良さを重視する人は少なくありません。とりわけトイレは、いつも清潔な空間にしておきたいところです。
しかし、実はトイレにもさまざまな種類があることはご存じでしょうか。今回はそのなかでも汲み取り式(ぼっとん)トイレについて解説いたします。
なんだか古いイメージのある汲み取り式トイレですが、まだまだ多くの人が利用しており、都心から離れたところにある賃貸物件であれば決して珍しいものではありません。
また、汲み取り式トイレは決して不潔なものではありません。ほとんど水洗トイレと変わりなく利用できるタイプのものもあり、イメージが一新されるでしょう。
ぜひ最後までお読みいただき、お部屋探しの参考にされてください。
汲み取り式(ぼっとん)トイレとは?

汲み取り式(ぼっとん)トイレとは、下水が整備されていないエリアでみられる便器と便槽が繋がっているトイレのことをいいます。
汲み取り式トイレの仕組み
汲み取り式トイレの構造はいたってシンプルです。便器の下に排泄物の溜まる穴(便槽といいます)があるだけの構造です。一般的な汲み取り式トイレは、大きな穴が開いている和式トイレをイメージするとよいでしょう。
皆さんがイメージするトイレは排泄後に水で流しますが、汲み取り式トイレは原則水で流すという概念がありません。表現を変えれば、穴に向けて直接排泄を行うため、水で流すことができないのです。
実はまだまだある!汲み取り式トイレの普及率
汲み取り式トイレなどは一昔前の設備で今はほとんどない、と思われがちですが、実はまだ日本でも活用されています。全人口のうち約7.4%は汲み取り式トイレを現在も利用しているとされています。
東京都であっても水洗式トイレの普及率は100%ではありません。その意味でいえば、賃貸物件で汲み取り式トイレは確かに珍しいものですが、出会うことがないほど希少なものではありません。
出典:国土交通省「令和4年度末の汚水処理人口普及状況について」
汲み取り式トイレの種類
汲み取り式トイレと言っても、いくつかの種類が存在しています。ここでは、汲み取り式トイレの種類を解説いたします。
汲み取りトイレ
上述した便器と便槽が直接繋がっているタイプのトイレです。さらに細かく分類すると、便器を和式のものと洋式のものに分類することができますが、基本的な構造は同じです。
簡易水洗
簡易水洗とは、便器と便槽の間に「フラッパー弁」と呼ばれる弁が設置されているタイプのものです。弁が設置されていることで、汲み取り式トイレのデメリットである見た目・臭い・虫害を防止することが可能です。
使用後に水で洗い流すこともできますので、ほぼ一般的な水洗トイレと同様の機能を有しているといえます。
賃貸における汲み取り式トイレのメリット

汲み取り式トイレにはどのようなメリットがあるのでしょうか。ここでは、汲み取り式トイレの良い点について解説いたします。
水の節約につながる
汲み取り式トイレでは原則水を使いませんので、水道代の節約に繋がります。
一般的な水洗トイレでは大で約4リットル、小で約3.5リットルの水を使用します。一方で汲み取り式トイレでは水は使いませんし、簡易水洗タイプでも約0.5リットルしか水を利用しません。かなりの節約効果が見込めるでしょう。
定期的なメンテナンスが不要
汲み取り式トイレでは定期的な部品交換などのメンテナンスが不要です。なぜなら、構造がシンプルであるため複雑な部品などを利用していないからです。
ただし、簡易水洗のときはフラッパー弁などの部品交換が必要になる可能性があるほか、管内で汚水が詰まることもありえます。
災害や停電時でも使える
汲み取り式トイレや水道や電気を使いませんので、災害時に強い特徴があります。とりわけ、災害時にはトイレが使えないことが問題になるため、自宅待避がしやすい点は見逃せません。
賃貸における汲み取り式トイレの注意点

汲み取り式トイレは古いものであるため、不便な点もあります。ここでは、汲み取り式トイレで注意しておくべき点について解説します。
臭いが気になる
汲み取り式トイレはその構造から、便槽内にある汚物の臭いが上がってきてしまいます。簡易水洗タイプであればその心配はありませんが、汲み取り式であるときは避けようがないことが注意点です。
なお、汲み取り式トイレから発生する汚物の臭い対策には以下のような方法が有効です。
専用の消臭剤を利用する
便槽内に専用の消臭剤を投下して臭いを防止する方法があります。微生物の活動を利用することで臭いの原因となる汚物の分解を促進させ、臭いを発生させなくするというものです。
臭突の換気扇を交換する
便槽の臭いを外に排出するため、便槽には臭突管が接続されており、その先端に排気用のファンが接続されています。急に臭いが気になったときはこの排気用ファンが故障していたり、機能が弱くなっていたりすることが考えられます。
定期的に排気用ファンが正常に作動しているかどうかを確認しておきましょう。そして、もしも賃貸物件で排気用ファンが作動していなかったら、家主さんや管理会社に連絡をしてすぐに交換をお願いしてください。
汲み取り式のぼっとん便所から簡易水洗式に変更する
ぼっとん便所であるときは、簡易水洗式に変更するだけで劇的に臭いの症状は改善されます。なぜなら、便槽とトイレの間で弁による仕切りができるからです。
ぼっとん便所から簡易水洗式のトイレへ変更するためには、家主さんや管理会社の許可を得たうえで、工事業者を手配するようにしましょう。また、変更の際は原状回復の要否や故障時の負担者なども決めておき、トラブルのないように書面で残しておくことをおすすめします。
なお、ぼっとん便所から簡易水洗式トイレへの変更費用は10万円から20万円程度かかります。
汲み取り費用がかかる
汲み取り式トイレでは、ぼっとん便所であるか簡易水洗式であるかに関わらず、便槽内の排泄物を汲み取る必要があります。そのため、汲み取りに費用がかかることを覚えておいてください。
なお、この汲み取り費用は賃貸物件や契約内容で異なる定めがなされることが一般的です。入居人数によって月額費用が定められているときもあれば、直接借主が実費で費用負担するケースなどさまざまです。
汲み取り式トイレの賃貸物件を契約するときは、事前に汲み取り費用を確認しておきましょう。
虫が発生しやすい
汲み取り式トイレでは夏場などに虫が発生しやすくなることがあります。
虫の発生を抑制するには専用の殺虫剤を便槽内に投入する方法や、便器へ物理的に蓋をすることで虫の侵入を防ぐ方法などが考えられます。
賃貸における汲み取り式トイレの使い方と気を付けること
ここでは、汲み取り式トイレの中でも簡易水洗タイプの利用方法について解説します。間違った使い方をすると、せっかくの簡易水洗の良さが損なわれてしまいます。この機会に簡易水洗タイプの使い方を覚えておきましょう。
便器内に水をためる
簡易水洗トイレでは、利用の前に便器に水をためる必要があります。なぜなら、排出時に水洗式トイレのような大量の水を使わないからです。事前に便器を濡らし汚れや臭いの付着を防止したり、スムーズに汚物やペーパーを排出したりする必要があるため事前に水をためておくのです。
利用後に汚物を排出する
利用したら汚物を排出します。排出の方法はレバーハンドルを回すだけ、この作業は水洗式トイレの利用と同じです。
レバーハンドルを回すことで、便器内に水が流れ出し、同時にフラッパー弁が下がり汚物が排出されます。新幹線のトイレを利用したことがある人ならわかりますが、水を流すと汚物が吸い込まれるように排出されるイメージを持つとわかりやすいでしょう。
もしも汚物が残っていたり、フラッパー弁に挟まるようなことがあれば、正常に排出されるまでハンドルを回しましょう。
一般的な簡易水洗であれば、レバーハンドルを奥に押すと便器内に水がたまります。レバーハンドルを手前に引くとフラッパー弁が下がり汚物が排出されます。
【注意】水の流しすぎに気を付ける
便利な簡易水洗ですが、水を流しすぎると便槽内がすぐに水でいっぱいになり、汲み取りの回数が増えることになります。汲み取り費用が余計にかかる原因になりますので、水の流しすぎにはくれぐれも注意しましょう。
汲み取り式や簡易水洗を備えた賃貸物件の魅力

汲み取り式や簡易水洗の物件と聞くと、あまりいい印象がないかもしれません。しかし、地方都市では決して珍しいものではないほか、実は水洗式の賃貸物件と比較して良い面があることも事実です。
ここでは、汲み取り式や簡易水洗を備えた賃貸物件のメリットを紹介します。
家賃が安く設定されていることが多い
家賃が低額であることがメリットの一つです。なぜなら、汲み取り式や簡易水洗タイプのトイレが設置されている賃貸物件の特徴として、駅から遠い郊外のエリアであったり、道路幅が狭く高低差があったりする立地であることが多いからです。
車を主体とした生活圏の人であれば、駅からの距離などはあまり問題になりません。さらに、トイレも簡易水洗であれば、水洗式とほぼ変わらず利用することが可能です。
これらの点に問題がない人にとっては、汲み取り式や簡易水洗式の賃貸物件はお得に感じるのではないでしょうか。
リフォームやリノベされていることもある
簡易水洗式のトイレであるときは、大規模なリフォームやリノベーション工事がされていることが期待できます。なぜなら、簡易水洗式への変更には給水工事なども必要であるため、「どうせ工事するなら」とトイレ以外の箇所も合わせて工事している可能性が高いからです。
高齢者入居の理解が得られやすい傾向にある
高齢者に対して家主さんや管理会社がフレンドリーな傾向があることも見逃せません。なぜなら、汲み取り式の賃貸物件に住んでいる人たちは、昔からその賃貸物件にお住まいの人が多い傾向にあり、家主さんや管理会社としても入居のハードルが下がるからです。
高齢者同士が入居することで、互いに気を配りあう文化が根付くことがあります。ご高齢の人が入居中に何かあっても、すぐに家主さんや管理会社に連絡をもらえるため、逆に安心して入居いただきやすい環境が整っているということができます。
汲み取り式トイレを理解したうえでお部屋探しをしよう
今回は、汲み取り式トイレについて解説しました。
年齢によっては見たこともない人がほとんどかもしれません。しかし、まだまだ日本には汲み取り式トイレを利用している人は多数存在しています。さらに、立地上の問題から下水管を敷設することができない地域もあるため、世の中から汲み取り式トイレがなくならないことも事実です。
この記事が汲み取り式トイレの正しい理解に繋がり、さらにはお部屋探しの参考になれば幸いです。