ふと意識すると聞こえる、床からのギシギシ、ミシミシという音…賃貸物件に住んでいる人なら、一度は経験したことがあるのではないでしょうか。
床鳴りは生活音を大きく響かせるだけではなく、自分だけでなく階下の人に迷惑をかけてしまう可能性もある、少々厄介な現象です。
そこで今回は、賃貸物件で起こる床鳴りの原因を詳しく解説します。DIYでできる簡単な対策から、大家さんに相談するべきケースまで、さまざまな解決策をご紹介します。
賃貸住宅での快適な生活を取り戻すために、ぜひ最後までお読みください。
床鳴りがする原因

そもそも、なぜ床を踏んだときに音が鳴るのでしょうか。その答えは床の構造にあります。言い換えれば、我々が「床鳴り」と表現している音は、床を構成するさまざまな部位から発生する異音のすべて、ということになります。
ここでは、どのような場所からどのような理由で音が出るのかを解説します。
木材特有の乾燥による収縮
床や床下はおもに「木材」が利用されています。これは、木造のアパートや一戸建てであっても、鉄筋コンクリート造のマンションであっても、どこかしらに木材が使われており、建物の構造とは関係がありません。
木材は言ってみればスポンジのようなもので、水分を吸収したり放出したりします。湿度が高い梅雨時期には水分を吸収して膨張し、乾燥した冬には水分を放出して収縮します。この収縮によって、建物の骨組みを構成する木材同士が擦れ合い、床鳴りという形で音が聞こえるのです。
フローリング本体が下地から剥がれている
床材に利用されているフローリングが床鳴りの原因になることもあります。フローリングは、1.5mm程度の厚みがあるシートのようなものです。これらシートを下地材に接着することで、フローリングの床が完成します。
このとき、下地材への接着が不十分な施工であるときなどは、フローリングの一部が浮いてしまうため、フローリング材に負荷がかかることによって床鳴りが発生することがあるのです。
床下材がこすれている
フローリングやCFシートなど、床材の下にある「床下材」や「下地材」がこすれることによって床鳴りの原因になることがあります。
床下材がこすれる原因にはさまざまなものが考えられますが、上述した木材の特性によるケースが多いと考えられます。このケースでは次第に馴染むことで音が自然になくなることもあるようです。
合板のそり
合板とはべニア板のことで、床材であるフローリングやCFシートを貼るための代表的な下地材として用いられます。これら下地材が乾燥により反ることで隙間が生じたり、他の床下材に緩衝したりすることで、床鳴りを発生させることがあります。
そもそも「木」が「反る」と書いて「板」という字ができています。そのくらい、木が反ることは板にとって当たり前のことなのです。
なお、フローリングには横幅のサイズにも種類があります。一般的なフローリング1枚のサイズは75〜90mm程度、なかには90mmを超えるワイドサイズのものも人気です。もしも床鳴りが気になるようであれば、幅の細いフローリングを選ぶと反りの影響も少ないため、床鳴りに至る可能性も低いといえるでしょう。
排水管やガス管の緩衝
特にアパートや一戸建ての1階部分で起こりやすい原因に、排水管やガス管と床材が接触することによって床鳴りが発生することがあります。
給排水管は最近は柔らかい素材のものに変わっていますが、ガス管は金属製(被覆鋼管)が主流です。そのため、床を踏み込むことによってガス管に緩衝し、床鳴りが発生することがあるのです。
施工不良
大工さんの施工ミスが原因でも床鳴りは発生します。施工不良はさまざまな箇所で発生しますが、多いのは床下材を施工するときでしょう。
床は、格子状に太い柱をめぐらせ、その上に平らな板を貼り、さらにフローリングなどの床材を貼ることで完成します。格子状の柱を打ち付けたり平らな床を貼ったりする過程で、人的なミスによって格子の交点部分に浮きが生じたり、床に不陸(段差)が生じたりして、床鳴りが発生するのです。
経年劣化
長年にわたる経年劣化によって、やむを得ず床鳴りが生じることも珍しくありません。施工当時は不備なく工事が完了したものであっても、長い時間をかけて木材が湿気を吸い込んだり、少しずつ釘が外れたりして、床鳴りの原因に至るのです。
床鳴りを放置するリスク

床鳴りはさまざまな原因によって生じることがわかりました。裏を返せば、床鳴りは床下で異常が発生しているサインと捉えることもできます。床下で異常が発生しているサインを見逃すと、生活に支障をきたす事態に発展することが予想できます。
ここでは、床鳴りを放置するとどうなるのか、そのリスクについて解説を進めます。
床が抜けるかもしれない
もっとも心配すべきことは、床が抜けてしまうかもしれないことです。
上述のとおり、床は大きく3種類の床下材によって構成されています。そのため、床鳴りがするということは床下材のどこかに負荷がかかっていることと同義です。
床鳴りがしているとき、とりわけ床にへこみを伴う床鳴りを放置していると、いつか床が抜けてしまうことになりかねません。
シロアリ被害などにより木材の腐食が進む可能性がある
経年劣化に近い木材の変化として、シロアリ被害も気になるところです。
建物を建築するときは、必ずと言っていいほど防蟻処理(シロアリが来ないようにする処理)を施します。その効果はおおむね10年程度とされているため、本来なら10年ごとに防蟻処理を施す必要があります。
しかし、賃貸住宅では家主さんが防蟻処理の更新を行わないことがあったり、入居者との都合が調整できなかったりして、防蟻処理が適切に行われないケースもあるのです。
床鳴りの根本的な原因がシロアリ被害であるときは、建物全体の劣化が著しく進むことになるため、シロアリ被害に気付かないという事態を招くかもしれません。
漏水など床下の異常に気付けない
床下は原則として空洞になっていますが、その空洞には給排水管やガス管など、生活に欠かせない配管が巡らされています。もしも床鳴りの原因が漏水による床下への浸水であるとき、深刻な被害に繋がる可能性があります。
なお、1階であっても床下の漏水被害は深刻です。床下はコンクリートで固められているため、水の逃げ場がありません。万が一床下に漏水が発生しているとすれば、気付くころには床下は貯水のような状況になっているでしょう。
排水施設はありませんので、床を解体して漏水した水を吸い出し、あらためて床を作ることから始めることになります。もちろん、漏水が軽微であればもっと簡易な対応も可能ですが、私の経験上、軽微な状態で漏水に気付いたケースはありません。
ちょっとした床鳴りや床の違和感は、建物の異常を示すサインです。くれぐれも軽視しないようにしましょう。
【賃貸物件向け】床鳴りが発生したら?

床鳴りは突然気付くものです。また、季節や家具・家電の配置によっても鳴ったり鳴らなかったりすることもあります。
もしも、賃貸物件に住んでいて床鳴りに気付いたらどうすべきなのでしょうか。ここでは、賃貸物件で床鳴りに気付いたときにやっておきたい対応を解説します。
まずは家主さんや管理会社へ相談する
最初にすべきことは、家主さんや管理会社へ連絡し、状況を伝えることです。
室内のどこからどのような音が鳴っているのか、また床を踏み込んだときにへこみを感じるかなど、現状の詳細をきちんと伝えましょう。
なお、床鳴りが発生しているにもかかわらず、家主さんや管理会社への報告を怠り放置していると、退去時にトラブルに発生することがあります。なぜなら、部屋を借りている借主には「善管注意義務」があるからです。
善管注意義務とは「自分のものよりも大切にする義務」のことであり、このケースでは借主は部屋に異常を感知した時点で速やかに報告する義務があるのです。善管注意義務違反は退去時の原状回復負担で不利に働くため、些細なことでも必ず家主さんや管理会社へ伝えるようにしましょう。
大家さんに修繕の義務が発生するライン
床鳴りの原因は特定が困難であるほか、補修に要する費用が高額になることも珍しくありません。そのため、すべての床鳴りに対して家主さんや管理会社へ改善を求めることは、現実的ではありません。
しかし、床鳴りは生活するうえでストレスに感じるため、一刻も早く対応してほしいことも事実でしょう。
一般論ですが、賃貸物件で床鳴りが発生したときは、簡易的な補修方法から順序だてて対策を施していくことが多いように感じられます。現地確認・床下の状況確認・原因の特定・補修を繰り返すというイメージです。
この過程において、「建物へのダメージの多寡や生活ストレスの大小」と「補修に要する費用や規模」のバランスを見ながら、どこまで対応できるかを協議することになるでしょう。
明確に家主さんの修繕すべきラインを定めることは困難です。ただし、以下のようなケースでは客観的に補修をすべき事案ということができます。
・洗面室の床がブカブカになり、床を踏むと床鳴りのほか沈み込みがみられる
・床鳴りが日々ひどくなっており、床に傾きがみられる
このような症状が発生しているときは、建物に異常が発生している可能性が極めて高いため、早急に修繕すべき事案といえるでしょう。
なお簡易的な補修方法を行った結果、床に補修痕や釘痕などが残ることがあります。これは床鳴りの対応方法として妥当なものであるため、生活に差支えはありませんのでそのままにしておきましょう。
シリコンスプレーを塗ってみる
シリコンスプレーとは、シリコンオイルを主成分とした滑りをよくするスプレーのことです。これをフローリングの継ぎ目に吹き付けると、床鳴りが軽減することがあります。
なお、シリコンスプレーは滑りをよくするものですので、床が滑りやすくなってしまいます。また、何度も吹き付けてしまうと、床下にシリコンスプレーが浸透しなくなってしまう点にも注意してください。
静音マットや静音カーペットを敷く
静音マットや静音カーペットを床鳴りがする箇所に敷くことで、床鳴りが治まることがあります。
これは静音マットなどの重さによるものです。50cm四方のマット1枚の重さは約1.5kgあるため、ずっと踏んだ状態を維持してくれるのです。そのため、音鳴りが軽減する効果が期待できます。
【自宅・DIY可物件向け】床鳴りを自分で補修するには?
DIY賃貸にお住まいの人や持ち家の人は、自分で床鳴りを補修することも可能です。いまやホームセンターに行けば、たくさんの床鳴り対策グッズが販売されていますので、手軽に作業をすることができるでしょう。
なお床鳴りはさまざまな原因によって生じるため、その特定はやはり困難です。そのため、簡易的に補修して床鳴りが治まらないときは専門家に依頼し調査を進めることをおすすめします。
上から釘を打ち込む
フローリングの軽微な浮きや、床下材の構造体の浮きが原因のときは、フローリングから直接釘を打ち込む方法が有効です。
床鳴りがする箇所を特定し、強く踏み込んだ状態で釘を打ち込みます。このとき打ち込む釘は「隠し釘」といわれる特殊な釘を用いてください。
釘を打ち込み終わったら釘痕が残りますので、フローリング専用のクレヨンで色を塗ったり、フローリング調の専用シールを貼るなどして痕が残らないようにしておくとよいでしょう。
接着剤の注入
フローリングの隙間から床鳴り専用の接着剤を注入する方法も、簡単にできる床鳴り対策です。
フローリングの目地から細い注射針のようなもので注入することもあれば、数mmの穴を開けてそこから注入することもあります。はじめて施工するのであれば、広がりやすい粘度の低いさらっとしたものを選ぶとよいでしょう。
接着剤も簡単にできる対策ですが、床下に床暖房を敷設しているときはこの施工はすべきではありません。万が一にも床暖房施設に穴が開いてしまうと、原状復帰に多大な費用がかかってしまうからです。
床暖房がある床で床鳴りが発生したときは、速やかに専門業者へ依頼しましょう。
木は自然由来のものであるほか、湿度や季節によって変形するのが常であるため、鳴るときは床鳴りは発生するものです。しかし床鳴りがしにくい部屋も存在しています。施工後間もない新築やリノベーション済のお部屋や、弾力性のある和室などは、床鳴りの可能性が低いと考えられます。
もしも、過去に床鳴りで嫌な思いをした人や、音に敏感な人は、床鳴りがしにくい部屋を選ぶのもよいでしょう。
床鳴りの原因はさまざま!床鳴りの原因を知って快適な賃貸生活を送ろう
賃貸物件で気になる床鳴り。その原因は、木材の収縮・フローリングの浮き・下地の劣化など、実にさまざまです。今回ご紹介したように、DIYでできる対策もいくつかありますが、根本的な解決には繋がらないケースもあります。
いずれにしても、まずは家主さんや管理会社への相談をおすすめします。家主さんや管理会社は建物の構造をよく理解しており、より適切な対策方法を提案してくれるからです。
床鳴りは、建物の構造や経年劣化など、さまざまな要因が複雑に絡み合って発生することがあります。木材は湿度によって収縮したり膨張したりする性質を持つことを理解し、DIYでできる対策と、家主さんとの連携をうまく組み合わせることで、快適な賃貸生活を送ることができるでしょう。