防火地域や準防火地域という言葉を聞いたことはありますか?あまり耳慣れない言葉かもしれませんが、実は私たちの生活に密接に関係した言葉なのです。
人は賃貸物件を探すとき、さまざまな条件を提示します。もちろん、防犯に関することは気になりますが、防災に関する視点も重要です。そんな防災面と深い関わりがあるのが防火地域・準防火地域なのです。
そこで、今回は防火地域・準防火地域について解説。防災に関するお部屋探しのコツについても紹介しています。
ぜひ最後までお読みいただき、防火防災の観点をお部屋探しにもお持ちいただけたらと思います。
防火地域・準防火地域の概要と区分
防火地域および準防火地域とは、「市街地における火災の危険を防除するため定める地域」のことをいいます。
我々が住んでいる街は、火災発生時のリスクが甚大なエリアとそうでないエリアに分類されています。なぜなら、地域の特性によって火災発生時の延焼リスクが異なるからです。
次項以降では、各防火地域について解説します。
防火地域
防火地域とは、火災発生時のリスクを軽減させるために、さまざまな規制が課せられるエリアのことをいいます。
主に、駅前や幹線道路沿いなどの建物が密集したエリアに設定されます。防火地域では、そもそも延焼を防ぐ必要があるため、建築できる建物が延焼しないようにしなければなりません。
準防火地域
準防火地域とは、防火地域より規制が緩和されるエリアのことで、主に防火地域を取り囲むように設定されます。
準防火地域は、延焼の程度を最小限に抑えることが目的です。そのため、一定の規模以上の建物については延焼を防止できる仕様で建築することが求められます。
法22条地域
法22条地域とは、準防火地域のまわりでさらに広範囲で設定されるエリアのことです。
正式な名称は「建築基準法第22条指定区域」といいます。建物の規制という観点で準防火地域よりも規制は緩やかですが、規制がないわけではありません。
耐火建築物と準耐火建築物とは
防火地域や準防火地域では建築する建物を火に強い仕様とすることが求められます。この火に強い仕様を有した建築物のことを「耐火建築物」や「準耐火建築物」と呼びます。
それぞれどのような建築物かを見ていきましょう。
耐火建築物
耐火建築物とは、建物の主要な構造部分が火に強い材料で建築された建物のことです。
主要な構造部分とは、床・柱・梁・外壁・屋根などを指します。これら主要な構造部分が耐火性能を有していることで、建物の利用者は火災が発生したとしても倒壊の心配なく避難することができます。
建物内部においても「防火区画」と呼ばれる仕切りが設けられているため、内部からの延焼にも強いことが特徴です。さらに、隣接する建物に近いところでは燃え移らないようにする仕様が求められています。
耐火建築物の代表例として、鉄筋コンクリート造やモルタル造のような頑丈で大きな建物が挙げられます。燃えやすいイメージのある木造の建物を耐火建築物仕様にすることも、外壁や柱を耐火性能を有する素材で覆うことで可能です。
耐火建築物は、内部的にも外部的にも、火災に強い建物ということができます。
準耐火建築物
準耐火建築物とは、耐火建築物より緩やかな規制に基づいて建築された耐火性能を有する建築物のことです。
準耐火建築物も、鉄筋コンクリート造のような大きな建物が主流ですが、昨今は耐火技術の進歩により木造建築物であっても準耐火建築物とすることが容易になってきています。
耐火建築物であっても準耐火建築物であっても、いずれも火災に強く安心して住むことができます。
火災リスクが心配な人は、鉄筋コンクリート造の賃貸物件を探してみてはいかがでしょうか。
防火地域や準防火地域の確認方法
お部屋探しをするとき、防火地域や準防火地域がどのエリアに設定されているかは事前に確認することが可能です。
ここでは、防火地域や準防火地域の確認方法を紹介します。ぜひお部屋探しの参考にしてください。
自治体のホームページで確認する
自治体のホームページでは、防火地域や準防火地域がどのエリアに設定されているかが全て開示されています。
「住みたい市や町名+防火地域」と検索すれば、インターネット上で防火地域や準防火地域の設定状況を確認することが可能です。
自治体の窓口で確認
役場の窓口でも防火地域や準防火地域の設定状況を確認することが可能です。住みたい市や町の都市計画課で聞けば、教えてくれます。
なお、インターネットで見れるものをなぜ自治体の窓口で聞く必要があるのか、と思う人もいるかもしれません。
賃貸物件に住む人には馴染みがありませんが、不動産実務では都市計画課での確認は頻繁に行われます。なぜなら、建物が防火地域と準防火地域の両地域に属しているケースも存在します。なお、このようなときは防火基準の厳しい地域の規制が適用されます。
不動産会社に教えてもらう
最も簡単な方法は、不動産会社に確認することです。
不動産会社に確認すれば、自治体のホームページや都市計画課への確認などをもって、防火地域や準防火地域などに属しているかどうかを教えてくれるでしょう。
住みたい地域が防火地域(準防火地域)だったら?
お部屋探しをするうえで、防火地域や準防火地域であることを優先的に考える人は決して多くありません。
しかし、防火地域や準防火地域の建物は強固に建築され、町全体として延焼を防ぐなど防災面を重視していると考えられます。
そこで、実際に契約する賃貸物件が防火地域や準防火地域に属していたときに知っておくとよいポイントをご紹介します。
木造のときは耐火建築物かどうかを確認
防火地域や準防火地域では、木造の建築物は耐火建築物としなければなりません。なぜなら、木造の建築物は延焼しやすいため、火に強い仕様に強化する必要性があるからです。
あまりないケースではありますが、違法な新築や増改築によって耐火建築物ではない木造の賃貸物件がないとは言い切れません。防火地域や準防火地域にかかわらず、密集地における木造の賃貸物件が気になるときは、耐火建築物であるかを聞いておくとよいでしょう。
なお、建物が耐火建築物(もしくは準耐火建築物)かどうかを確認するためには、「建築確認申請書」という書類の確認が必要です。建築確認申請書とは、建築物を建築する前に「こういった建物を建築が問題ありませんでしょうか?」という確認を行政に申請する書類のことです。
建築確認申請書は所有者か建築会社しか持っていません。どうしても気になる場合は、不動産会社を経由して問い合わせる方法がよいでしょう。
鉄骨や鉄筋のときはあまり気にしなくても大丈夫
防火地域や準防火地域に属する建築物が、鉄筋コンクリート造・鉄骨鉄筋コンクリート造・鉄骨造のときは、耐火建築物であることが前提のためあまり気にしなくても問題ありません。
なお、鉄筋や鉄骨コンクリート造という構造だから問題、というわけではありません。不燃材料を主要構造部に利用して建築された建物だから問題がない、という形です。
保険料が変わることがある
防火地域や準防火地域であるかどうかにかかわらず、耐火建築物や準耐火建築物など建築物の耐火性能は保険料にも影響を及ぼすことがあります。なぜなら、燃えやすい建物とそうでない建物で火災や延焼リスクが同一ではないからです。
賃貸物件を借りるとき、加入する家財保険の保険料が変わることはまずないでしょう。しかし、将来ご自宅を建築・購入するときは、耐火性能によって保険料が変わることはほぼ間違いありません。
この機会に建物の耐火性能について把握しておくと、将来役立つでしょう。
防火地域(準防火地域)と非防火地域の違いと注意点、日頃からできる対策
希望する賃貸物件が、意識はしていなかったものの防火地域や準防火地域などの火災や延焼リスクが気になるエリアに属していることはよくあるでしょう。
非防火地域との違いや暮らすうえでの注意点、日頃からできる対策を含めて借主ができることを紹介します。
防火地域(準防火地域)と非防火地域の違い
防火地域と非防火地域の違いは以下のようにまとめられます。まずはその特徴を理解しましょう。
防火地域 | 非防火地域 | |
---|---|---|
街並みの特徴 | 密集していて、繁華性が高い | 密集しておらず、繁華性は低い |
建物の防火性能 | 法律で厳しく定められており、防火性能は高い | 法律の規制は緩く、防火性能が高いわけではない |
延焼リスク | 密集しているため、延焼リスクは高い | 建物と建物の距離が離れており、延焼リスクは低い |
上述の通り、防火地域は駅に近いエリアなど繁華性の高いエリアに指定されることが多く、建物が密集しています。そのため、建築物の防火性能は法規制によって確保されています。しかし、建物が密集しており大型の建物が多いため、延焼リスクが高い点には注意が必要です。
非防火地域とは、防火地域以外のエリアを指します。建物が密集していないため、延焼リスクは比較的低いとされますが、それにより建物の防火性能が特に高いわけではありません。それでも、延焼リスクが低いことから、比較的安心して生活できると言えます。
防火地域(準防火地域)で暮らす注意点
防火地域で生活する際には、自分だけでなく賃貸物件全体で高い防火意識を持つことが重要です。
防火地域が建物が密集しているエリアに指定されるため、誰か一人の火の不始末や防火意識の欠如が大きな被害を引き起こす可能性があるからです。
当然のことですが、非防火地域であっても、防火意識を疎かにして良いわけではありません。火災はどの地域でも発生する可能性があるため、常に注意を怠らないよう心がけましょう。
防火地域(準防火地域)でできる日頃の防災対策
これより、防火地域で取り組んでおきたい防火・防災対策を紹介します。お住まいの地域が非防火地域であっても役立ちますので、ぜひ参考にされてください。
簡易的な消火器を常備しておく
火災に対する備えとして、室内にも消火器を常備しておきたいところです。なぜなら、火災の原因の大半は室内からの出火が原因だからです。
なお、出火原因が多いものは以下のようなものです。
・たばこ 3,581件
・たき火 2,930件
・こんろ 2,918件
・放火および放火の疑い 4,567件
・電気機器および配線 3,209件
出典:総務省消防局「令和2年版 消防白書」
室内からの出火では、たばこ・キッチン・電気機器および配線に気を付けることが重要です。また、万が一の出火に備えて、簡易的な消火器があると早期消火に役立つでしょう。
共用部分やバルコニーに物を置かない
共用部分やバルコニーに荷物を置かないようにすることも、防災の観点では重要なポイントです。なぜなら、共用部分やバルコニーは火災発生時の避難経路に設定されているからです。
バルコニーの床に避難ハッチが設置されていたり、隣戸との間の壁が蹴破れるようになっていたりするのを見たことがあるでしょう。まさに避難経路であることの証です。
しかし、いくら建物に消防設備が備わっていても、使えない状態では意味がありません。とりわけ私物の設置による避難経路を塞ぐ行為は、他の入居者の避難の妨げともなります。絶対にやめましょう。
心配ならガスコンロではなくIHコンロを選択する
ガスコンロを使用せずにIHコンロの賃貸物件を選ぶことも備えの一つです。なぜなら、ガスコンロは出火の可能性が高いからです。
しかし、気に入った賃貸物件がガスコンロであるときは、Siセンサーがついているかどうかを確認してください。
Siセンサーとは、温度感知機能によりコンロやグリルの消し忘れを防止することができるほか、風や煮こぼれにより火が消えても自動的にガスが止まる仕組みのことです。おおむね、新しいガスコンロにはほとんど備わっています。ガスコンロからの火事が懸念されるときは、Siセンサーの有無を確認するとよいでしょう。
いずれにしても、火を直接室内で使うことにはリスクがあります。オール電化やIHコンロの賃貸物件であれば、それらのリスクを回避することができます。
防火地域・準防火地域について知り、火事のリスクが低い物件を探そう!
今回は、防火地域・準防火地域について解説しました。防火地域や準防火地域をお部屋探しの基準にしたり、必要条件にする人は多くはないでしょう。しかし、防火防災の意識を持つことは非常に重要なことです。
また、この記事を通して都市計画や建築における防災の重要性を理解することで、将来いつかご自宅を建築したり購入したりするときに役立つことでしょう。賃貸物件を探したり住んだりするとき、ぜひ防火防災の視点をお持ちください。